第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節21

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (運動器)

座長:坪内健一(松山赤十字病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0963] TKA後6か月における移動能力とQOLの関係性

大倉有加1, 三屋太知1, 松下智広1, 平野恵美1, 榊原陽子1, 山本幸央1, 塚原由梨1, 永田幸吏1, 早崎光宏1, 市川哲也2, 清水聡志2 (1.社会医療法人明陽会成田記念病院リハビリテーション科, 2.社会医療法人明陽会成田記念病院整形外科)

Keywords:人工膝関節全置換術, 移動能力, QOL

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)患者では膝関節痛が主訴であり,移動能力に問題を抱えることが多い。重度の膝OA患者に対して,人工膝関節全置換術(以下,TKA)を施行することにより,疼痛の除去,機能回復が期待できる。またTKA後リハビリテーションは運動機能や生活の質(以下,QOL)の改善を目的に実施されている。とくに運動機能は約3~6ヶ月後に術前値より有意に改善する報告が多い。そこで,本研究の目的は,QOLを中心にTKA後6か月における移動能力に関わる因子について検討することとした。
【方法】
平成23年9月~平成25年7月までに当院でTKA(NEXGEN Zimmer製)施行された18人21膝を対象とした。性別は男性5人,女性13人,年齢は73.2±7.0歳,身長は152.1±7.0cm,体重は59.9±12.2kg,BMIは25.7±4.1kg/m2(男26.6±5.6kg/m2,女25.2±3.2kg/m2),術後在院日数は26.8±4.8日であった。測定項目は,移動能力,QOL,さらに一般的な評価として膝関節屈曲および伸展可動域,筋力,疼痛,日常生活動作(以下,ADL)とした。移動能力の評価としてtimed up and go test(以下,TUG)を測定した。QOLの評価には日本語版膝機能評価表(以下,準WOMAC),筋力には徒手筋力検査(以下,MMT),ADLには機能的自立度評価表(以下,FIM),疼痛にはVisual Analog Scale(以下,VAS)を用いた。TUGは椅子座位から立ち上がり3m先の目印を周り,着座するまでの時間を2回測定した。患者にはできるだけ速く歩くように指導した。また準WOMACでは機能項目17項目のうち,困難と感じる活動を明確にするため順位を示した。統計処理として,術後6か月のTUGと各測定項目の関連性の検討にはSpearmanの相関係数を用いた。また,術前と術後6か月のTUGの数値の比較には,対応のあるt検定を用い,準WOMACの比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。なお,統計学的有意基準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に研究の内容を十分に説明し,研究に参加することの同意を得た。
【結果】
TUGの結果は,術前11.9±3.7秒,術後6か月10.3±3.9秒,準WOMACの結果は,機能項目は術前64.0±19.3点,術後6か月76.8±20.9点,疼痛項目は術前56.4±17.5点,術後6か月79.8±17.6点で,いずれも術前に比べ術後6か月で有意に改善を認めた(p<0.01)。術後6か月のTUGと有意な相関関係を認めたのは,FIM(r=-0.64,p=0.0042)のみであった。また有意差はないものの,準WOMAC機能項目(r=-0.43,p=0.0547)も相関関係を認めた。困難と感じる項目として,術前では,重いものを片づける(3.7±1.3点),階段を降りる(3.7±1.2点),階段を昇る(3.4±1.2点),術後6か月では,重いものを片づける(2.7±1.4点),階段を降りる(2.3±1.1点),浴槽に出入りする(2.2±1.1点)のそれぞれ3項目が上位を占めた。
【考察】
TKA後6か月で,術前に比べ移動能力・QOLが有意に改善していることが明らかとなった。TUGと準WOMAC・FIMに相関がみられたことから,移動能力が上がったことにより,ADL・QOLが向上したことが示唆された。また,患者自身がどのような活動を困難と感じているか検討が必要と考え,準WOMAC機能項目において,困難と感じる項目の上位3位を抽出した。そのうち,「重いものを片づける」と「階段を降りる」という動作は,術前に対して術後6か月で改善しているものの,術後6か月でも困難と感じる項目の上位に挙がっている。これらの結果から,TKA術後6か月の歩行能力の向上をより効率的に図っていくためには,機能回復を目的とした治療だけでなく,介入早期から難易度が高い動作練習を中心に行い,退院後は定期受診時に動作指導を行うことで,不安感が軽減し,ひいては移動能力の改善に結びつくと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は移動能力とQOLの関係性について示した。移動能力の向上をより効率的に図っていくためには,機能回復を目的とした治療だけでなく,介入早期から退院後の生活場面を想定したADL指導を行っていく必要があると考える。