[0967] 若年性線維筋痛症に対する集学的治療における理学療法
キーワード:疼痛, 小児, 運動療法
【はじめに】線維筋痛症は原因不明の全身疼痛が主症状で,うつ病など精神神経症状・過敏性腸症候群など自律神経症状を随伴する疾患である。2013年の線維筋痛症診療ガイドラインによれば,有病率は人口の1.7%(日本推計200万人)であり,80%が女性で40~50代に多く,10歳前後に多い若年性線維筋痛症(Juvenile Fibromyalgia:JFM)は4.8%のみである。発症要因として外因性と内因性のエピソードがあり,治療はプレガパリンを中心とする疼痛制御分子の標的療法が中心で,運動療法は,成人例に対して長期間に渡り有酸素運動を行い疼痛が軽減した報告がある(エビデンスIIa)が,JFMでは,いまだ確立した治療法がない。JFMでは患児と母親の相互依存性や,まじめ・完璧主義・潔癖主義・柔軟性欠如などコミュニケーション障害を伴う性格特性が特徴であるとも言われており,当院では,小児リウマチセンターにおいてJFMの集学的治療を実践している。その内容は,生活環境からの一時的な隔離を意図した短期入院による母子分離,臨床心理士による心理評価と小児精神科によるカウンセリング,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)点滴静注を中心とした薬物療法,そしてリハビリテーション治療である。
【目的】本研究の目的は,JFMに対する理学療法(PT)の実施状況と集学的治療による効果を明らかにし,JFMに対するPTの課題を明確にすることにある。
【対象と方法】2007年4月から2012年12月までにJFMと診断され当院小児科に入院し,PTを行った症例を対象とし,患者属性,発症要因,入院期間,PT実施期間,PT内容,PT開始時及び退院時の運動機能と移動能力を診療録より抽出し後方視的に調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】当院では入院時に臨床研究と発表に対する同意を文書で得ている。
【結果】調査期間に小児科に入院したJFM症例は33名であった。33名のうち6名は調査期間内に複数回の入院があり,これを別の入院例とみなして,対象を42例としたが,診療記録不十分のため調査項目の確認ができなかった3症例を除外し,39症例(30名)を対象とした。平均年齢は12.2歳(7~16歳),平均発症年齢12.1歳(7~15),性別は男児7例,女児32例であった。入院期間は中央値17日(7~164日),PT期間は中央値12日(1~149)だった。発症の誘因としては,内因性誘因では家族関係のストレス27例,学校関係のストレス22例であり,外因性誘因と内因性誘因の重複が11例にみられた。主症状は筋・関節痛39例,左上肢の慢性疼痛1例であり,ほぼ全例に睡眠障害や冷感,起立性調整障害など自律神経系合併症状を認めた。PT内容は,独歩可能な症例には歩行練習(屋外歩行やトレッドミル,水中歩行),自転車エルゴメーターなどを実施し,歩行困難な症例には下肢自動運動や座位・立位練習,車いす自走や歩行補助具を使用した段階的歩行練習を行っていた。また,キャッチボールやサッカーなどレクリエーショナルアクティビティも随時行われていた。PT中は疼痛が増強しない範囲で負荷を設定し,疼痛を意識させずに運動できるよう配慮し,受け入れのよい課題を選択し,目標を本人と相談しながら実施するなどの配慮がうかがえた。PT実施率は高く,疼痛や体調不良でPTを欠席したものは1症例,1日のみであった。入院中の疼痛の変化は改善28例,変化なし5例,悪化6例であり,移動能力は入院時に歩行(跛行なし)20例,歩行(跛行あり)9例,車いす移動10例が,退院時は歩行(跛行なし)28例,歩行(跛行あり)6例,車いす移動5例であった。
【考察】成人の線維筋痛症では手術や感染などの外因が誘因となることがあるが,今回調査した小児では全例が内因性誘因を有していた。PTの介入は母子分離環境による心理社会的効果と薬物療法による疼痛軽減に合わせて,できる範囲の運動を導入することで,気晴らし的効果と身体機能維持改善の効果が期待できると思われた。PTの効果のメカニズムとして,JFMではセロトニン欠乏が睡眠障害や疼痛を引き起こすという知見が最近得られており,歩行などのリズム活動がセロトニン神経を賦活化し疼痛の悪循環を断ち切る可能性もある。疼痛で活動性が低下し,休学を余儀なくされている症例も多く,生活機能障害に対するPTの予防的・回復的・代償的な関わりはJFMの集学的治療に重要な役割を果たすと思われる。
【理学療法学研究としての意義】線維筋痛症に対する運動療法の効果は成人では文献が散見されるが,小児では少ない。今回の調査は,JFMに対して症状の改善に運動療法が寄与した可能性を示唆している。
【目的】本研究の目的は,JFMに対する理学療法(PT)の実施状況と集学的治療による効果を明らかにし,JFMに対するPTの課題を明確にすることにある。
【対象と方法】2007年4月から2012年12月までにJFMと診断され当院小児科に入院し,PTを行った症例を対象とし,患者属性,発症要因,入院期間,PT実施期間,PT内容,PT開始時及び退院時の運動機能と移動能力を診療録より抽出し後方視的に調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】当院では入院時に臨床研究と発表に対する同意を文書で得ている。
【結果】調査期間に小児科に入院したJFM症例は33名であった。33名のうち6名は調査期間内に複数回の入院があり,これを別の入院例とみなして,対象を42例としたが,診療記録不十分のため調査項目の確認ができなかった3症例を除外し,39症例(30名)を対象とした。平均年齢は12.2歳(7~16歳),平均発症年齢12.1歳(7~15),性別は男児7例,女児32例であった。入院期間は中央値17日(7~164日),PT期間は中央値12日(1~149)だった。発症の誘因としては,内因性誘因では家族関係のストレス27例,学校関係のストレス22例であり,外因性誘因と内因性誘因の重複が11例にみられた。主症状は筋・関節痛39例,左上肢の慢性疼痛1例であり,ほぼ全例に睡眠障害や冷感,起立性調整障害など自律神経系合併症状を認めた。PT内容は,独歩可能な症例には歩行練習(屋外歩行やトレッドミル,水中歩行),自転車エルゴメーターなどを実施し,歩行困難な症例には下肢自動運動や座位・立位練習,車いす自走や歩行補助具を使用した段階的歩行練習を行っていた。また,キャッチボールやサッカーなどレクリエーショナルアクティビティも随時行われていた。PT中は疼痛が増強しない範囲で負荷を設定し,疼痛を意識させずに運動できるよう配慮し,受け入れのよい課題を選択し,目標を本人と相談しながら実施するなどの配慮がうかがえた。PT実施率は高く,疼痛や体調不良でPTを欠席したものは1症例,1日のみであった。入院中の疼痛の変化は改善28例,変化なし5例,悪化6例であり,移動能力は入院時に歩行(跛行なし)20例,歩行(跛行あり)9例,車いす移動10例が,退院時は歩行(跛行なし)28例,歩行(跛行あり)6例,車いす移動5例であった。
【考察】成人の線維筋痛症では手術や感染などの外因が誘因となることがあるが,今回調査した小児では全例が内因性誘因を有していた。PTの介入は母子分離環境による心理社会的効果と薬物療法による疼痛軽減に合わせて,できる範囲の運動を導入することで,気晴らし的効果と身体機能維持改善の効果が期待できると思われた。PTの効果のメカニズムとして,JFMではセロトニン欠乏が睡眠障害や疼痛を引き起こすという知見が最近得られており,歩行などのリズム活動がセロトニン神経を賦活化し疼痛の悪循環を断ち切る可能性もある。疼痛で活動性が低下し,休学を余儀なくされている症例も多く,生活機能障害に対するPTの予防的・回復的・代償的な関わりはJFMの集学的治療に重要な役割を果たすと思われる。
【理学療法学研究としての意義】線維筋痛症に対する運動療法の効果は成人では文献が散見されるが,小児では少ない。今回の調査は,JFMに対して症状の改善に運動療法が寄与した可能性を示唆している。