[0968] 脊椎術後患者の術後在院日数に影響を及ぼす因子の検討
Keywords:脊椎術後患者, 在院日数, 術前歩行能力
【はじめに,目的】
近年,急速に高齢化が進み,運動器の退行性の変性疾患患者が急増している。しかし,昨今の医療体制では,在院日数の短縮やリハビリ料算定期間の制限により長期的なリハビリ介入が困難となってきているのが現状といえる。このような背景の下,変性疾患の重症度が増してくると手術も治療選択のひとつになってくる。当院では,脊椎の代表的な変性疾患である腰部脊柱管狭窄症や側弯症などに対して固定術,椎弓切除術などの観血的治療法が行われている。患者によって術前・術後の症状はさまざまであり,自宅復帰にかかる時間にも差が生じている。そこで今回,変性疾患に対して胸腰椎の手術を施行した患者の在院日数に影響を及ぼす因子を検討することとした。
【方法】
対象は,当院に脊椎に変性疾患を有し手術目的で入院した患者68名(男性39名,女性29名,平均年齢(標準偏差):66.3(13.5)歳)とした。除外基準は,質問形式の評価法の理解が困難な者,術後全身状態の不良などで術後一定期間リハビリ介入が出来なかった者とした。術式の内訳は,固定術が57名,切除術が11名であった。検討する因子は,基本情報として年齢・性別・合併症の有無・術式・家族の有無をカルテより情報取集した。理学療法評価は,手術前日に感覚・筋力の神経症状の有無・痛みの評価にVisual Analog Scale(以下VAS)・バランス評価としてFunctional Reach Test(以下FRT)・Timed Up and Go Test(以下TUG)・術前の日常生活活動の評価にOswestry Disability Index(以下ODI)・心理面の評価として痛みの経験をネガティブにとらえる傾向を表す破局的思考の評価であるPain Catastrophizing Scale(以下PCS)・歩行能力として横浜市総合リハビリテーションセンターで開発された実用的歩行能力の分類(改訂版)を使用した。退院時には,感覚・筋力の神経症状の有無・VAS・FRT・TUGの評価を行った。統計処理は,手術日から退院日までの在院日数を目的変数とし,検討する因子に挙げた項目を従属変数として重回帰分析ステップワイズ法を用いて検討した。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全対象者に対して,ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究の目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由について説明を行い,本研究協力への同意を得た。
【結果】
各項目の平均(標準偏差)は在院日数:11.2(6.3)日,術前VAS:61.2(25.8),退院時VAS:21.7(24.5),術前FRT:21.6(6.2)cm,退院時FRT:18.1(5.5)cm,術前TUG:12.4(2.5)秒,退院時TUG:12.8(2.7)秒,術前ODI:37.8(19.6),術前PCS:30.8(10.4)であった。重回帰分析の結果,術後在院日数に影響を与える因子として術式,年齢,術前歩行能力が選択された。各従属変数の標準偏回帰係数は術式:6.06。P<0.01,年齢:0.14,P<0.01,術前歩行能力:1.16,P<0.05であり,自由度調整済み決定係数は0.24であった。
【考察】
本研究では,脊椎術後患者の術後在院日数に影響を及ぼしている因子を明確にするため重回帰分析を用いて検討し,術式,年齢,術前の歩行能力が影響を及ぼす因子として抽出された。術式に関しては,固定術をされた患者に比べ切除術をされた患者は,術創が小さく術後の疼痛も少なく術創部の処置を要する日数も短い。また術後の禁忌動作も少ないため基本動作の獲得が容易であるため早期退院が可能となっていると考えられる。術前の歩行能力に関しては,在院日数が長い患者は屋内もしくは屋外でも自宅周辺での歩行しかできないレベルの方が多かった。しかし,患者は術後は疼痛も軽減し活動範囲が拡大することを望んでいることが多い。この結果は,手術により疼痛が軽減し筋力が回復しても術前の歩行レベル以上の能力を獲得するのには時間を要するため退院時期が延長していると考えられる。今後は,この結果を考慮して術前から歩行能力の向上を図る理学療法介入が必要ではないかと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
在院日数の縮小化が進んでいる昨今の医療体制の中,脊椎術後患者の在院日数延長の要因を明確にすることは,理学療法士が在院日数短縮に取り組むアプローチを模索する一助になると考える。
近年,急速に高齢化が進み,運動器の退行性の変性疾患患者が急増している。しかし,昨今の医療体制では,在院日数の短縮やリハビリ料算定期間の制限により長期的なリハビリ介入が困難となってきているのが現状といえる。このような背景の下,変性疾患の重症度が増してくると手術も治療選択のひとつになってくる。当院では,脊椎の代表的な変性疾患である腰部脊柱管狭窄症や側弯症などに対して固定術,椎弓切除術などの観血的治療法が行われている。患者によって術前・術後の症状はさまざまであり,自宅復帰にかかる時間にも差が生じている。そこで今回,変性疾患に対して胸腰椎の手術を施行した患者の在院日数に影響を及ぼす因子を検討することとした。
【方法】
対象は,当院に脊椎に変性疾患を有し手術目的で入院した患者68名(男性39名,女性29名,平均年齢(標準偏差):66.3(13.5)歳)とした。除外基準は,質問形式の評価法の理解が困難な者,術後全身状態の不良などで術後一定期間リハビリ介入が出来なかった者とした。術式の内訳は,固定術が57名,切除術が11名であった。検討する因子は,基本情報として年齢・性別・合併症の有無・術式・家族の有無をカルテより情報取集した。理学療法評価は,手術前日に感覚・筋力の神経症状の有無・痛みの評価にVisual Analog Scale(以下VAS)・バランス評価としてFunctional Reach Test(以下FRT)・Timed Up and Go Test(以下TUG)・術前の日常生活活動の評価にOswestry Disability Index(以下ODI)・心理面の評価として痛みの経験をネガティブにとらえる傾向を表す破局的思考の評価であるPain Catastrophizing Scale(以下PCS)・歩行能力として横浜市総合リハビリテーションセンターで開発された実用的歩行能力の分類(改訂版)を使用した。退院時には,感覚・筋力の神経症状の有無・VAS・FRT・TUGの評価を行った。統計処理は,手術日から退院日までの在院日数を目的変数とし,検討する因子に挙げた項目を従属変数として重回帰分析ステップワイズ法を用いて検討した。なお,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全対象者に対して,ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究の目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由について説明を行い,本研究協力への同意を得た。
【結果】
各項目の平均(標準偏差)は在院日数:11.2(6.3)日,術前VAS:61.2(25.8),退院時VAS:21.7(24.5),術前FRT:21.6(6.2)cm,退院時FRT:18.1(5.5)cm,術前TUG:12.4(2.5)秒,退院時TUG:12.8(2.7)秒,術前ODI:37.8(19.6),術前PCS:30.8(10.4)であった。重回帰分析の結果,術後在院日数に影響を与える因子として術式,年齢,術前歩行能力が選択された。各従属変数の標準偏回帰係数は術式:6.06。P<0.01,年齢:0.14,P<0.01,術前歩行能力:1.16,P<0.05であり,自由度調整済み決定係数は0.24であった。
【考察】
本研究では,脊椎術後患者の術後在院日数に影響を及ぼしている因子を明確にするため重回帰分析を用いて検討し,術式,年齢,術前の歩行能力が影響を及ぼす因子として抽出された。術式に関しては,固定術をされた患者に比べ切除術をされた患者は,術創が小さく術後の疼痛も少なく術創部の処置を要する日数も短い。また術後の禁忌動作も少ないため基本動作の獲得が容易であるため早期退院が可能となっていると考えられる。術前の歩行能力に関しては,在院日数が長い患者は屋内もしくは屋外でも自宅周辺での歩行しかできないレベルの方が多かった。しかし,患者は術後は疼痛も軽減し活動範囲が拡大することを望んでいることが多い。この結果は,手術により疼痛が軽減し筋力が回復しても術前の歩行レベル以上の能力を獲得するのには時間を要するため退院時期が延長していると考えられる。今後は,この結果を考慮して術前から歩行能力の向上を図る理学療法介入が必要ではないかと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
在院日数の縮小化が進んでいる昨今の医療体制の中,脊椎術後患者の在院日数延長の要因を明確にすることは,理学療法士が在院日数短縮に取り組むアプローチを模索する一助になると考える。