第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脊髄損傷理学療法

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (神経)

座長:藤縄光留(神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション局理学療法科)

神経 ポスター

[0971] 不全型脊髄損傷者に対するロボットスーツHALを用いた歩行練習の効果

鳥山貴大1, 丸谷守保2, 森井和枝2, 堀田夏子2, 那須田依子2, 天野裕子2, 菅野達也3, 横山修4, 山海嘉之5 (1.七沢リハビリテーション病院脳血管センター理学療法科, 2.神奈川リハビリテーション病院理学療法科, 3.神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション工学科, 4.神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション医学科, 5.筑波大学サイバニクス研究センター長CYBERDYNE株式会社CEO)

Keywords:ロボットスーツHAL, 不全型脊髄損傷者, 歩行能力

【目的】
ロボットスーツHAL医療用は欧州にて医療機器の承認を受け治療機器としての使用が開始され,我国でも医療機器承認に向け治療試験が実施されている。不全型脊髄損傷者(以下,不全脊損者)が増加傾向にある中,ロボットスーツHAL福祉用(以下,HAL)による歩行能力改善への期待は高い。本研究の目的は不全脊損者に対してHALを用いた歩行練習を実施し,客観的指標に基づきその効果を検証する事である。
尚,本研究は神奈川県さがみロボット産業特区の実践フィールドとして行われている研究の一部である。
【対象および方法】
対象は不全脊損者3名。
症例Aは発症後6年経過した60代女性,脊髄腫瘍Th2,ASIA Impairment Scale(以下,AIS)/D,両ロフストランド杖を使用し屋内歩行監視,日常生活の移動には車椅子を使用していた。
症例Bは発症後7年経過した60代女性,脊髄梗塞Th8,AIS/D,両ロフストランド杖を使用し屋内歩行自立,屋外移動には車椅子を併用していた。
症例Cは受傷後1年経過した20代男性,頸髄損傷C6,AIS/D,平行棒内歩行自立,日常生活の移動には車椅子を使用していた。
研究デザインはABA型シングルケースデザインを用いた。介入はA1期およびA2期はHAL非装着,B期はHAL装着下での歩行練習を各期15回実施した。評価はA1期前,A1期後,B期後,A2期後の計4回,10m最大歩行時間,6分間歩行距離と三次元動作解析装置(VICON NEXUS)及び床反力計(AMTI)を用いて実施した。歩行分析データは単脚支持期,推進力を解析した。
歩行練習にはトレッドミルを用い,快適速度にて連続歩行を上限30分とし実施した。練習中にBorg scale14以上,疼痛,眩暈,疲労の訴え等がみられた際は3分間の休憩を設けた。中断時に総歩行時間が20分未満の場合は練習を再開,総歩行時間が30分に達した時点で練習終了とした。休憩後も理学療法中止基準に基づく身体所見がみられる場合は終了とした。
統計学的分析はSPSS 16.0Jを使用し,歩行分析データにおいては,Tukey’s HSD test(P<0.05)を用いて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理委員会の承認を受け,対象者に研究の説明をし書面にて同意を得た。
【結果】
各結果はA1期前,A1期後,B期後,A2期後の順に示す。
10m最大歩行時間(秒)は,症例Aにて56.0,55.8,50.8,50.1,症例Bにて18.2,22.2,14.7,14.1,症例Cにて28.1,22.4,18.5,18.5となり,B期後は全症例に歩行速度の改善がみられ,A2期後においても維持・改善がみられた。
6分間歩行距離(m)は,症例Aにて50.2,56.9,69.9,67.0,症例Bにて121.2,173.9,208.5,230.6となり,症例AはA1期後とB期後に,症例Bは段階的に増加がみられた。症例Cは非実施。
歩行分析データの結果は,
症例Aにて,単脚支持期(右/左,% of Walk cycle)は12.3±1.2/15.1±2.2,10.9±0.9/15.3±1.8,13.3±2.1/17.7±1.8,11.6±1.0/14.2±0.9,左右ともにA1期後に比べB期後で有意に増加。推進力(右/左,N)は20.2±4.0/35.8±4.1,17.5±5.4/30.0±6.7,14.2±5.3/34.1±4.0,16.4±4.8/25.4±5.6,左右ともに有意差なし。
症例Bにて,単脚支持期は32.0±3.7/15.9±1.3,20.8±1.8/16.7±1.3,29.5±3.1/16.7±1.1,28.5±2.1/16.1±1.6,右側にてA1期後に比べB期後で有意に増加。推進力は43.0±3.6/28.7±3.8,39.7±4.1/25.7±3.3,40.4±7.3/31.8±4.5,42.3±5.6/27.9±4.2,左側にてA1期後に比べB期後に有意に増加。
症例Cにて,単脚支持期は20.1±1.9/16.9±1.3,21.3±1.8/16.0±1.8,24.8±1.3/20.1±2.2,26.6±2.0/19.5±1.4,左右ともにA1期後に比べB期後で,右側はA2期後にも有意に増加。推進力は26.1±3.4/32.5±4.4,26.5±3.6/28.8±3.5,35.5±5.2/43.0±5.1,33.6±5.0/34.9±3.3,左右ともにA1期後に比べB期後で有意に増加。
【考察】
不全脊損者の特徴的な問題に,麻痺の軽い筋や反応しやすい痙縮筋が過剰に使用され,麻痺の重度な筋は使用されにくいといった筋活動の不均衡がある。B期後に歩行速度・距離の増加がみられ,歩行分析においても単脚支持期・推進力に改善が認められたのは,HALにより過剰努力を軽減した効率的な交互歩行パターンを習得する事が出来たためと考える。また効率的な交互歩行が出来た事が,CPGの賦活・不活性化の是正・学習された不使用の改善を図る事に有用であったと考える。以上の事から不全脊損者に対するHAL装着下での歩行練習は,代償の生じやすい遊脚相をHALにてアシストする事で,無理のない範囲で対象者が持つ本来の歩行パターンを強化する事が出来る可能性がある事が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はHALを使用した歩行練習が不全型脊髄損傷者の歩行能力改善に有効となる可能性を示唆できた事に意義がある。