[0978] ACL再建後の大腿周径と筋組織厚と筋力の関係
Keywords:大腿周径, 前十字靭帯, 筋組織厚
【はじめに,目的】
大腿周径の測定は筋の肥大や萎縮の程度を簡昜に評価する手段として用いられている。我々は第47回全国理学療法学術大会にて大腿周径は大腿四頭筋(以下Quad)・ハムストリングス(以下Ham)の筋組織厚と筋力の評価に有用であると健常人にて報告した。臨床において,前十字靭帯(以下ACL)再建後に周径の測定を用いることが多く,非再建側(以下健側)に比べ再建側(以下患側)は,術式によって半腱様筋や薄筋といった腱採取部の影響が考えられ,健側と患側では周径と筋組織厚,筋力との関係性が異なることが推察される。そこで今回,ACL再建後の大腿周径とQuad・Hamの筋組織厚,筋力との関係性について検討を行い,健側と患側は同様の傾向があるのかを明確にすることを目的とした。
【方法】
対象は2012年11月~2013年3月に当院にてACL再建術(STG法)を施行し,術後同一のリハビリテーションプログラムを実施し,術後6ヵ月以上経過観察可能であった20名(男性11名,女性9名,平均年齢25.2±13.8歳)とした。周径の測定は,膝蓋骨上縁5・10・15・20cmとし,膝関節伸展位にて1ミリ単位で測定した。筋組織厚の測定は,超音波測定装置(FUJIFILM社製)を用いて,大腿直筋・中間広筋(以下RF),内側広筋(以下VM),外側広筋(以下VL),半腱様筋・半膜様筋(以下MH),大腿二頭筋長頭・短頭(以下LH)にて実施した。RF,VM,VLの測定肢位は背臥位,MH,LHは腹臥位とし,全て膝関節伸展位とした。RFの測定部位は下前腸骨棘と脛骨粗面を結んだ線と各大腿周径との交点,VMは大腿骨軸に対して15°内側へ傾斜させた線と各大腿周径との交点,VLは大転子と大腿骨外側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点,MHは坐骨結節と大腿骨内側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点とし,LHは坐骨結節と腓骨頭を結んだ線と各大腿周径との交点とした。深触子は皮膚面に対し垂直に接触させ,長軸にて実施した。周径のRF5cmでの測定のみ共同腱が混在し,測定困難なため除外とした。筋力の測定は,BIODEXを用い,角速度60°/sでの膝関節屈曲・伸展におけるQuad・Hamの最大等速性収縮筋力を測定した。周径,筋組織厚,筋力の測定は両側実施した。筋組織厚の測定は3回行い,検者内信頼性についての統計手法はICC(1,3)を用いた。また,Quad,Hamの周径・筋力・筋組織厚についてはピアソンの相関係数を求めて検討した。統計処理にはR3.5.1を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に先立って被験者には,研究の目的と方法を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
筋組織厚の測定の再現性は健側と患側のQuad・HamともにICC=0.96~0.99で各部位とも良好であった。周径と筋組織厚の相関係数は,周径5cmで健側MH(r=0.83),周径10cmで健側VM(r=0.79),患側VM(r=0.77),健側VL(r=0.85)患側VL(r=0.71),周径15cmで患側MH(r=0.77),周径20cmで健側RF(r=0.77),患側RF(r=0.69),健側LH(r=0.85),患側LH(r=0.83)が最も高い相関係数を示し,MHのみ健側と患側で最も高い相関係数を示した部位が異なった。周径と筋力の相関係数は,周径20cmで健側Quad(r=0.77),患側Quad(r=0.71),健側Ham(r=0.71),患側Ham(r=0.68)であり,健側・患側,Quad・Hamともに周径20cmで最も高い相関係数を示した。
【考察】
Quadにおいて,膝蓋骨上縁5~10cmでの周径はVMおよびVLを反映し,15~20cmでは大腿全体の筋群が評価できるとされており,今回の結果からも周径10cmと健患側VM,健患側VL,周径20cmと健患側RFに最も強い相関を認め,同様の傾向を示した。Hamにおいては,最も強い相関を認めた周径20cmと健患側LHの結果はMRI装置を用いて筋断面積を算出した先行研究を支持する結果となった。健側と患側のQuad・Hamの大腿周径と筋組織厚さらには筋力との比較において,健側の周径5cmとMH,患側の周径15cmとMHと最も強い相関を認めた部位がMHのみ異なった。原因としてMH5cmはACL再建術における腱採取部付近であり,ST腱の再生において,膝窩筋膜や薄筋などの膝窩内側の組織に癒着することが多いと報告があり,患側MH5cmにおいては腱再生の影響が関与していると考えられる。また,周径20cmと大腿四頭筋筋力との間に有意な相関が認められたと報告があり,先行研究を支持する結果となった。したがってACL再建後,患側の測定は特に周径10cmではVM,VLの筋組織厚,周径15cmではMHの筋組織厚,周径20cmではRF,LHの筋組織厚とQuad,Hamの筋力を反映するため,周径の測定は部位を考慮して評価することが望ましいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建後,患側の周径はMHの筋組織厚のみ健側と異なるため,部位を考慮して測定を行う必要が示唆された。
大腿周径の測定は筋の肥大や萎縮の程度を簡昜に評価する手段として用いられている。我々は第47回全国理学療法学術大会にて大腿周径は大腿四頭筋(以下Quad)・ハムストリングス(以下Ham)の筋組織厚と筋力の評価に有用であると健常人にて報告した。臨床において,前十字靭帯(以下ACL)再建後に周径の測定を用いることが多く,非再建側(以下健側)に比べ再建側(以下患側)は,術式によって半腱様筋や薄筋といった腱採取部の影響が考えられ,健側と患側では周径と筋組織厚,筋力との関係性が異なることが推察される。そこで今回,ACL再建後の大腿周径とQuad・Hamの筋組織厚,筋力との関係性について検討を行い,健側と患側は同様の傾向があるのかを明確にすることを目的とした。
【方法】
対象は2012年11月~2013年3月に当院にてACL再建術(STG法)を施行し,術後同一のリハビリテーションプログラムを実施し,術後6ヵ月以上経過観察可能であった20名(男性11名,女性9名,平均年齢25.2±13.8歳)とした。周径の測定は,膝蓋骨上縁5・10・15・20cmとし,膝関節伸展位にて1ミリ単位で測定した。筋組織厚の測定は,超音波測定装置(FUJIFILM社製)を用いて,大腿直筋・中間広筋(以下RF),内側広筋(以下VM),外側広筋(以下VL),半腱様筋・半膜様筋(以下MH),大腿二頭筋長頭・短頭(以下LH)にて実施した。RF,VM,VLの測定肢位は背臥位,MH,LHは腹臥位とし,全て膝関節伸展位とした。RFの測定部位は下前腸骨棘と脛骨粗面を結んだ線と各大腿周径との交点,VMは大腿骨軸に対して15°内側へ傾斜させた線と各大腿周径との交点,VLは大転子と大腿骨外側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点,MHは坐骨結節と大腿骨内側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点とし,LHは坐骨結節と腓骨頭を結んだ線と各大腿周径との交点とした。深触子は皮膚面に対し垂直に接触させ,長軸にて実施した。周径のRF5cmでの測定のみ共同腱が混在し,測定困難なため除外とした。筋力の測定は,BIODEXを用い,角速度60°/sでの膝関節屈曲・伸展におけるQuad・Hamの最大等速性収縮筋力を測定した。周径,筋組織厚,筋力の測定は両側実施した。筋組織厚の測定は3回行い,検者内信頼性についての統計手法はICC(1,3)を用いた。また,Quad,Hamの周径・筋力・筋組織厚についてはピアソンの相関係数を求めて検討した。統計処理にはR3.5.1を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究に先立って被験者には,研究の目的と方法を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
筋組織厚の測定の再現性は健側と患側のQuad・HamともにICC=0.96~0.99で各部位とも良好であった。周径と筋組織厚の相関係数は,周径5cmで健側MH(r=0.83),周径10cmで健側VM(r=0.79),患側VM(r=0.77),健側VL(r=0.85)患側VL(r=0.71),周径15cmで患側MH(r=0.77),周径20cmで健側RF(r=0.77),患側RF(r=0.69),健側LH(r=0.85),患側LH(r=0.83)が最も高い相関係数を示し,MHのみ健側と患側で最も高い相関係数を示した部位が異なった。周径と筋力の相関係数は,周径20cmで健側Quad(r=0.77),患側Quad(r=0.71),健側Ham(r=0.71),患側Ham(r=0.68)であり,健側・患側,Quad・Hamともに周径20cmで最も高い相関係数を示した。
【考察】
Quadにおいて,膝蓋骨上縁5~10cmでの周径はVMおよびVLを反映し,15~20cmでは大腿全体の筋群が評価できるとされており,今回の結果からも周径10cmと健患側VM,健患側VL,周径20cmと健患側RFに最も強い相関を認め,同様の傾向を示した。Hamにおいては,最も強い相関を認めた周径20cmと健患側LHの結果はMRI装置を用いて筋断面積を算出した先行研究を支持する結果となった。健側と患側のQuad・Hamの大腿周径と筋組織厚さらには筋力との比較において,健側の周径5cmとMH,患側の周径15cmとMHと最も強い相関を認めた部位がMHのみ異なった。原因としてMH5cmはACL再建術における腱採取部付近であり,ST腱の再生において,膝窩筋膜や薄筋などの膝窩内側の組織に癒着することが多いと報告があり,患側MH5cmにおいては腱再生の影響が関与していると考えられる。また,周径20cmと大腿四頭筋筋力との間に有意な相関が認められたと報告があり,先行研究を支持する結果となった。したがってACL再建後,患側の測定は特に周径10cmではVM,VLの筋組織厚,周径15cmではMHの筋組織厚,周径20cmではRF,LHの筋組織厚とQuad,Hamの筋力を反映するため,周径の測定は部位を考慮して評価することが望ましいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建後,患側の周径はMHの筋組織厚のみ健側と異なるため,部位を考慮して測定を行う必要が示唆された。