第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

身体運動学2

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM 第3会場 (3F 301)

座長:伊藤浩充(甲南女子大学看護リハビリテーション学部)

基礎 口述

[0979] 経頭蓋直流電気刺激が下肢筋力トレーニングに与える効果

前田和平1, 山口智史2, 立本将士1, 近藤国嗣1, 大高洋平1,2, 田中悟志3 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室, 3.浜松医科大学医学部心理学教室)

Keywords:筋力増強, 一次運動野, 非侵襲的脳刺激法

【はじめに,目的】
経頭蓋直流電気刺激法(transcranial direct current stimulation:tDCS)は,大脳皮質興奮性の非侵襲的な修飾が可能である(Nitsche and Paulus,2000)。tDCSが下肢筋力に与える効果には,下肢一次運動野への陽極刺激により,健常者の足指挟力や脳卒中患者の膝関節伸展筋力が即時的に増強する事が報告されている(Tanaka et al,2009,2011)。その為,tDCSと下肢筋力トレーニングの併用は筋力トレーニング単体の効果を修飾し,中枢神経疾患患者へのリハビリテーションにおいて有効な手段となる可能性がある。しかし,長期的にtDCSと下肢筋力トレーニングを組み合わせる事による筋力増強効果は明らかではない。そこで今回,健常者を対象とし,陽極刺激施行中に下肢筋力トレーニングを行う事で,tDCSによる下肢筋力増強への修飾効果が得られるか検討した。
【方法】
対象は,健常成人24名(男性12名,女性12名,平均年齢23.7±1.3歳)とした。下肢の整形外科疾患や中枢神経疾患の既往のある者は除外した。実験デザインは三重盲検法とし,対象者,評価者,解析者には介入条件を盲検化した。介入条件は陽極刺激+筋力トレーニングと偽刺激+筋力トレーニングの2条件とし,対象者を性別で層化した後,ブロックランダム割付法を用いて12名ずつ割付けた。tDCSには,DC Stimulator Plus(NeuroConn社製)を用いた。刺激電極は,陽極電極を下肢一次運動野(25cm2),陰極電極を同側上腕近位部(25cm2)に貼付した。下肢一次運動野は前脛骨筋のhot spotとし,経頭蓋磁気刺激法を用いて同定した。刺激強度は2mAとした。陽極刺激条件では,トレーニングの2分前から刺激を開始し,トレーニング中を含む10分間行った。偽刺激条件では,最初の15秒間のみ刺激した。
下肢筋力トレーニングにはBiodex system 3(Biodex社製)を用い,膝関節屈曲伸展の遠心性運動を行った。介入側は非利き足とした。対象者はBiodex上に座位をとり,ベルトで体幹部,骨盤,大腿部を固定した。膝関節の可動範囲は,屈曲20°から90°に設定した。角速度は30°/secとし,10回を3セット繰り返した(Santos et al,2010)。傷害予防を目的に,トレーニング前後に静的ストレッチとトレーニング前にエルゴメーター駆動を5分間行った。tDCSとトレーニングを組み合わせた課題は,3週間で合計7回実施した。介入は3日に1回の頻度とし,介入の間には,1日以上の間隔を設けた。
評価は,初回介入2-3日前と最終介入2-3日後に,下肢筋力の計測を行った。下肢筋力はBiodexにて膝関節屈曲筋,伸展筋の遠心性筋力を測定した。対象肢は両足,角速度は30°/secとし,左右の測定順は順序効果を考慮し実施した。測定は5回繰り返し,最大値を採用した。測定と測定の間には,3分間の休憩(Sivan et al,2011)を設けた。
統計処理は,左右肢毎に,時間(介入前,介入後)を対応のある要因,刺激(陽極刺激,偽刺激)を対応のない要因として,関節トルクを従属変数とした二元配置分散分析を行った。多重比較にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究内容を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
介入側下肢において,陽極刺激群では平均値±標準偏差で,伸展筋力が介入前155.9±45.3 Nm,介入後191.1±83.2 Nm,屈曲筋力が介入前81.5±30.3 Nm,介入後93.1±34.6 Nmであった。偽刺激群では,伸展筋力が介入前164.1±54.7 Nm,介入後194.8±74.1 Nm,屈曲筋力が介入前78.0±29.8 Nm,介入後85.6±29.5 Nmであった。統計の結果,伸展筋力では交互作用,刺激の主効果は認めず,時間(p<0.05)においてのみ主効果を認めた。また,屈曲筋力においても交互作用,刺激の主効果は認めず,時間(p<0.01)においてのみ主効果を認めた。多重比較法により,介入後の伸展筋力,屈曲筋力は,介入前と比較して有意な筋力の増大を認めた(p<0.05)。非介入側下肢では,伸展筋力,屈曲筋力において,交互作用,主効果を認めなかった(p>0.05)。
【考察】
陽極刺激と下肢筋力トレーニングの組み合わせは,下肢筋力増強への有意な修飾効果を示さなかった。その為,複数日に渡るtDCSと下肢筋力トレーニングの組み合わせは,下肢筋力増強において有効な手段ではない可能性がある。また,対象者が健常者である為,筋力トレーニングの天井効果が影響した可能性がある。脳卒中患者では,重症度が高いほどtDCSによる効果が高いと報告されている(Hummel et al,2006)。今後は脳卒中患者を対象とし,tDCSと下肢筋力トレーニングの効果を検証する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
非侵襲的脳刺激法をリハビリテーションに応用する為の,基礎的知見として意義がある。