第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

代謝2

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 第5会場 (3F 303)

座長:平木幸治(聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部), 忽那俊樹(北里大学東病院リハビリテーション部)

内部障害 口述

[0985] 歩行速度の違いが急性血糖降下に及ぼす影響

出口憲市1, 藤中雄一2, 佐藤紀1, 江西哲也1, 加藤真介1 (1.徳島大学病院, 2.徳島県鳴門病院)

キーワード:歩行速度, 血糖降下作用, 食後血糖

【目的】
日本における糖尿病患者数は2011年には約1070万人と報告されており,今後も増加が予測されている。また,国際糖尿病連合から食後高血糖は,血管内皮機能障害を引き起こすために,大血管疾患の独立した危険因子であると報告している。そのために,運動療法においても食後高血糖を改善させるプログラムの開発は急務と考えられる。日本糖尿病学会では,50%VO2max程度の持続的運動を推奨しているが,VO2maxを測定する機器は高価であるために,一般的な病院には普及しておらず推奨されている運動強度は,一般市民には理解しにくいと考えられる。また,アメリカスポーツ医学会ではBrisk walkingが推奨されているが,その歩行速度の違いが糖代謝に及ぼす影響については,十分に検討されていない。そこで,本研究では歩行速度の違いが急性血糖降下に及ぼす影響を検討した。
【方法】
対象者は,教育入院中の成人男女14名(男性:9名,女性:5名,年齢:54.5±7.6歳,HbA1c:6.7±0.6%,BMI:24.1±0.9kg・m-2,心疾患なし)であり,歩行速度を測定するために,3分間の通常歩行を実施して平均値から自由歩行速度を測定する。その結果より,トレッドミルを使用して自由歩行速度条件,自由歩行速度+10%条件および自由歩行速度+20%条件の3条件から構成される30分間の持続的運動を無作為に実施した。また,各条件は食後1時間後の同一時刻に実施した。血糖値の測定には,簡易血糖値測定器(SMBG)を用いて運動前(食後1時間),運動開始15分後および運動終了時に実施した。さらに,一過性運動前後の収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)および心拍数(HR)の測定を実施した。すべてのデータは平均値±標準偏差で示し,SPSSver19.0を用いて解析をした。一過性運動の血糖降下作用を検討するために,各条件の比較には一元配置分散分析後にBonfferroni検定を用いた。なお,危険率は5%未満を有意水準として採用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,徳島県鳴門病院における研究倫理委員会(1010)の承諾を得たものであり,事前に研究内容について説明し,承諾を得た後に研究を開始した。
【結果】
自由歩行速度条件の一過性運動前,運動開始15分後および運動終了時の血糖値は,それぞれ198.1±28.6,175.6±34.9,166.1±36.9mg・dl-1であった。自由歩行速度+10%条件では,203.7±43.9,158.8±42.2,138.9±42.1mg・dl-1であった。自由歩行速度+20%条件では,206.1±32.3,146.9±30.2,125.3±31.4mg・dl-1であり,運動終了時の自由歩行速度+10%条件と自由歩行速度条件および自由歩行速度+20%条件と自由歩行速度条件との間に有意な差が認められた(p<0.05,p<0.01)。
また,各条件の一過性運動前と運動開始15後および運動終了時のSBPおよびDBPには有意な差は認められなかった。自由歩行速度条件のHRでは80.8±4.4,88.3±3.5,89.4±3.2beats・min-1であり,自由歩行速度+10%条件では,80.0±4.6,93.0±4.2,95.0±4.5beats・min-1であった。自由歩行速度+20%条件では,81.2±3.9,97.8±3.0,102.6±3.7beats・min-1であり,運動終了時の自由歩行速度条件と自由歩行速度+20%条件との間に有意な差が認められた(p<0.01)。
【考察】
本研究結果より,歩行速度の上昇とともに血糖値の低下が認められた。
その原因の一つとしては,歩行速度の上昇とともに下肢を中心とした全身の筋活動が増加するために,消費エネルギーが上昇した結果,血中のグルコース濃度が低下したと考えられる。また,骨格筋での糖輸送を高めるなど糖代謝を調節するとされるAMP-activated protein kinase(AMPK)が関与していると考えられる。AMPKは,50%VO2maxの20分間の一過性の持続的運動で増加して運動強度の上昇とともに,より一層活性化されると報告されている。そのために,本研究においても歩行速度の上昇とともに活性化されたために,骨格筋内への糖輸送が高まることで血中グルコース濃度が低下したと考えられる。
糖尿病関連のガイドラインでは,50%VO2maxが推奨されているが,一般健常者および糖尿病患者には浸透しておらず,効果的な血糖降下作用のある簡易な運動強度の設定方法が必要と考えられる。本研究では,通常歩行に10%および20%のスピードを増加させることにより,血糖値により一層の低下が認められた。これらの結果を近年普及している小型軽量化されたGlobal Positioning Systemなどを利用した歩行速度の計測器を用いることで,新たな運動処方につながる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病の運動療法においてもオーダーメイド治療が必要であり,運動習慣のコンプライアンスが高い患者では,糖代謝の改善を目的とした理想的な強度で実施する必要があり,その方法の一つとして貢献できる可能性がある。