[0987] ベルト式骨格筋電気刺激法による血糖降下作用に性差はあるのか?
キーワード:骨格筋電気刺激, 2型糖尿病, 性差
【はじめに,目的】
近年,糖尿病患者における食後高血糖が心臓血管イベントの危険因子となることが明らかとなり,食後高血糖の改善が重要であることが認識されている。運動療法は糖尿病治療の中心となるが,変形性関節症等の整形外科疾患や糖尿病合併症によって,運動療法を十分に行えず,運動の効果を享受できない人々が多数存在するため,代替となる運動方法の開発が望まれている。その1つとして,近年,電気刺激装置の開発が進められている。ベルト電極式骨格筋電気刺激法(Belt electrode Skeletal muscle Electrical Stimulation:以下B-SES)では,通常の随意運動と異なり,速筋線維から動員されるため,糖質エネルギーの利用が高いものと考えられている。実際,我々は,B-SESによってエネルギー消費および糖取り込みが有意に亢進したことを明らかにした。また,臨床応用として,男性2型糖尿病患者へ実施した結果,食後血糖の上昇を有意に抑制できることを報告した。この新知見は,B-SESが糖尿病治療の新たな選択肢となりうることを示唆する内容であるが,運動の反応が異なる女性において,同等の効果が得られるかどうかは定かではない。そこで,本研究の目的は,B-SESによる食後血糖上昇の抑制作用に性差が存在するかどうかを明らかにすることとした。
【方法】
2型糖尿病患者18名(男性10名,女性8名,年齢:60±11歳,BMI:22.8±3.6,HbA1c:6.6±0.9%)を対象とした。対象者は,朝食後に安静とする試行(Con群),朝食後にB-SESを行う試行(B-SES群)の2試行を別の日に実施した。2つの試行間において,B-SES群でB-SESを行うこと以外は同一のスケジュールとした。対象者は安静の後,末梢血乳酸を測定し,10分間の呼気ガス測定を行った。その後,統一食を20分間で摂取し,食後30分後から,30分間のB-SESを実施した。B-SESは,臀部,大腿,下腿に対し,双極矩形波4Hzの頻度で刺激した。刺激強度は我々の先行研究(Miyamoto et al, 2012)から食後血糖降下作用を認めた6.0ml/kg/minとした。また,食後40分後から50分後において,再度呼気ガスを測定し,60分後に乳酸測定を行った。血液検査は食前,食後30,60,90,120分後の計5回実施され,血糖,インスリン,Cペプチド,遊離脂肪酸(NEFA)の測定が行われた。統計処理は,反復測定三元配置分散分析を用いて解析し,Tukey法による事後検定を行った。なお,データは平均±標準偏差とし,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
十分な説明を行った後,書面による同意を得た。なお,本研究は京都逓信病院倫理委員会の承認を得た上で実施した(#21-3)。
【結果】
電気刺激の電流値に性差は認めず,刺激中のVO2,心拍数は男女間に有意な差を認めなかった。RQは,性・時間,時間・試行の交互作用と試行の主効果を認めたが(p<0.05),B-SES時のRQは,男性において有意に高値を示した(p<0.05)。一方,乳酸値は,時間・試行の交互作用と全ての要因の主効果を認め(p<0.05),B-SES後の乳酸値は男性で有意に高値を示した(p<0.05)。血糖値は,時間・試行の交互作用と時間,試行の主効果を認めた(p<0.05)。B-SESによって,男性の血糖値は60,90,120分後に有意に低値を示したが,女性では有意な差は認めなかった。インスリンは,時間の主効果しか認めなかったが,Cペプチドでは時間・試行の交互作用と時間,試行の主効果を認めた(p<0.05)。Cペプチドは,男性で,90,120分後に有意に低値を示したものの(p<0.05),女性では有意差は認められなかった。NEFAにおいては,時間・試行の交互作用と時間の主効果を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究結果から,男女ともにB-SESによる食後血糖の上昇抑制効果は認められたが,その効果は女性で低いことが明らかとなった。女性において乳酸が有意に少なかったことより,解糖系エネルギー供給が男性より低かったことが推察される。自転車運動のような随意運動においては,筋線維の組成割合,脂質酸化基質やホルモン反応の違いが影響するため,男性よりも女性で脂質代謝が高いことが明らかとなっている。B-SESは随意運動とは異なって,逆サイズの原理という特徴を有しているため,随意運動よりも,タイプII線維の割合による影響を受けるものと思われる。本研究結果を踏まえて,性差を考慮したB-SESの処方を行う必要があることが示唆されたが,異なった強度での検討も今後必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
近年益々加速する超高齢社会において,寝たきり患者や糖尿病患者が増加の一途をたどっている。B-SESは,自発的な意思を必要とせずに運動の効果を享受できるため,本研究は理学療法分野だけでなく,介護分野や医療経済に与える影響は大きいものと考えられる。
近年,糖尿病患者における食後高血糖が心臓血管イベントの危険因子となることが明らかとなり,食後高血糖の改善が重要であることが認識されている。運動療法は糖尿病治療の中心となるが,変形性関節症等の整形外科疾患や糖尿病合併症によって,運動療法を十分に行えず,運動の効果を享受できない人々が多数存在するため,代替となる運動方法の開発が望まれている。その1つとして,近年,電気刺激装置の開発が進められている。ベルト電極式骨格筋電気刺激法(Belt electrode Skeletal muscle Electrical Stimulation:以下B-SES)では,通常の随意運動と異なり,速筋線維から動員されるため,糖質エネルギーの利用が高いものと考えられている。実際,我々は,B-SESによってエネルギー消費および糖取り込みが有意に亢進したことを明らかにした。また,臨床応用として,男性2型糖尿病患者へ実施した結果,食後血糖の上昇を有意に抑制できることを報告した。この新知見は,B-SESが糖尿病治療の新たな選択肢となりうることを示唆する内容であるが,運動の反応が異なる女性において,同等の効果が得られるかどうかは定かではない。そこで,本研究の目的は,B-SESによる食後血糖上昇の抑制作用に性差が存在するかどうかを明らかにすることとした。
【方法】
2型糖尿病患者18名(男性10名,女性8名,年齢:60±11歳,BMI:22.8±3.6,HbA1c:6.6±0.9%)を対象とした。対象者は,朝食後に安静とする試行(Con群),朝食後にB-SESを行う試行(B-SES群)の2試行を別の日に実施した。2つの試行間において,B-SES群でB-SESを行うこと以外は同一のスケジュールとした。対象者は安静の後,末梢血乳酸を測定し,10分間の呼気ガス測定を行った。その後,統一食を20分間で摂取し,食後30分後から,30分間のB-SESを実施した。B-SESは,臀部,大腿,下腿に対し,双極矩形波4Hzの頻度で刺激した。刺激強度は我々の先行研究(Miyamoto et al, 2012)から食後血糖降下作用を認めた6.0ml/kg/minとした。また,食後40分後から50分後において,再度呼気ガスを測定し,60分後に乳酸測定を行った。血液検査は食前,食後30,60,90,120分後の計5回実施され,血糖,インスリン,Cペプチド,遊離脂肪酸(NEFA)の測定が行われた。統計処理は,反復測定三元配置分散分析を用いて解析し,Tukey法による事後検定を行った。なお,データは平均±標準偏差とし,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
十分な説明を行った後,書面による同意を得た。なお,本研究は京都逓信病院倫理委員会の承認を得た上で実施した(#21-3)。
【結果】
電気刺激の電流値に性差は認めず,刺激中のVO2,心拍数は男女間に有意な差を認めなかった。RQは,性・時間,時間・試行の交互作用と試行の主効果を認めたが(p<0.05),B-SES時のRQは,男性において有意に高値を示した(p<0.05)。一方,乳酸値は,時間・試行の交互作用と全ての要因の主効果を認め(p<0.05),B-SES後の乳酸値は男性で有意に高値を示した(p<0.05)。血糖値は,時間・試行の交互作用と時間,試行の主効果を認めた(p<0.05)。B-SESによって,男性の血糖値は60,90,120分後に有意に低値を示したが,女性では有意な差は認めなかった。インスリンは,時間の主効果しか認めなかったが,Cペプチドでは時間・試行の交互作用と時間,試行の主効果を認めた(p<0.05)。Cペプチドは,男性で,90,120分後に有意に低値を示したものの(p<0.05),女性では有意差は認められなかった。NEFAにおいては,時間・試行の交互作用と時間の主効果を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究結果から,男女ともにB-SESによる食後血糖の上昇抑制効果は認められたが,その効果は女性で低いことが明らかとなった。女性において乳酸が有意に少なかったことより,解糖系エネルギー供給が男性より低かったことが推察される。自転車運動のような随意運動においては,筋線維の組成割合,脂質酸化基質やホルモン反応の違いが影響するため,男性よりも女性で脂質代謝が高いことが明らかとなっている。B-SESは随意運動とは異なって,逆サイズの原理という特徴を有しているため,随意運動よりも,タイプII線維の割合による影響を受けるものと思われる。本研究結果を踏まえて,性差を考慮したB-SESの処方を行う必要があることが示唆されたが,異なった強度での検討も今後必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
近年益々加速する超高齢社会において,寝たきり患者や糖尿病患者が増加の一途をたどっている。B-SESは,自発的な意思を必要とせずに運動の効果を享受できるため,本研究は理学療法分野だけでなく,介護分野や医療経済に与える影響は大きいものと考えられる。