[1017] 磁気刺激を用いた膝関節屈曲力の生理的限界の推定
Keywords:膝関節, 磁気刺激, 生理的限界
【はじめに,目的】膝関節屈曲運動は,半腱様筋,半膜様筋,大腿二頭筋から構成されるハムストリングが主動作筋となって行われる。しかし,膝関節屈筋を構成する個々の筋が,膝関節屈曲運動に貢献する割合について報告されていない。これは膝関節屈筋の最大収縮力が随意収縮課題でしか測定することができないためであると我々は考えている。猪飼は,電気を用いた神経刺激によって得られる最大筋力を生理的限界,随意収縮によって得られる最大筋力を心理的限界と考察し,電気刺激による値が随意収縮により高い値を示すことを報告した(猪飼,1961)。膝関節屈筋は坐骨神経支配であり,電気刺激を用いて神経刺激をすることが困難である。一方で,磁気刺激は電気刺激と同様に末梢神経を刺激することが可能である。本研究では,磁気刺激により誘発される収縮力の測定から膝関節屈筋の随意的動員度を算出し,膝関節屈曲力の生理的限界を推定することを目的とした。
【方法】対象は健康な成人男性15名とし,全ての被験者で左下肢を対象側として測定を実施した。被験者の姿勢は,ベッド上で股関節,膝関節を屈曲90°とした四つ這い位となり,腹部に台を入れて支持した肢位とした。左殿部を磁気刺激部位とし,坐骨結節と大腿骨大転子を指標に15mm間隔で格子を作成し,絶対座標系を定義した。経皮的磁気刺激は,直径20cmの大型円形コイルを磁気刺激装置に接続し,コイル辺縁を刺激部位上に配置し,末梢方向に誘導電流を流した。刺激部位・条件の決定は我々が報告した方法で実施した(青木ら,2013)。まず,磁気刺激部位の検討として,各被験者において磁気刺激によって生じるSTの複合筋活動電位振幅が最も大きい刺激部位を決定した。その後,決定した刺激部位において,連発刺激間隔,連発刺激回数を変化させ,誘発される収縮力が最大となる条件を決定した。刺激部位と刺激条件が決定した後に,本実験では,最大随意収縮課題と単収縮補間法を行った。最大随意収縮課題は,膝関節屈曲の最大等尺性随意収縮を行い,膝関節最大屈曲トルクを測定した。単収縮補間法は,安静時および随意収縮中に殿部への磁気刺激による坐骨神経刺激を行い,随意収縮力と随意的動員度を算出した。随意収縮力は,最大随意収縮課題で得られたトルク値を100%とし,20%から80%まで20%刻みで目標値を設定した。目標値は,安静5秒,目標値への立ち上がり2秒,目標値発揮5秒,立ち下がり2秒,安静5秒の台形波形を追従させながら実施した。磁気刺激は,試技開始3秒後,9秒後,15秒後に実施し,15秒後の刺激結果を安静時刺激,9秒後の刺激結果を随意収縮時刺激とした。随意的動員度は,先行研究(Belanger et al., 1981)を参考に,安静時単収縮力と随意収縮時単収縮力を用いて随意的に動員している運動単位の割合を算出した。その後,実際に被験者が発揮している随意収縮力を横軸,そのときの随意的動員度を縦軸にプロットし,回帰直線から随意的動員度が100%に相当する推定MVCを算出した。統計学的解析として,随意収縮力と随意的動員度の関連をピアソンの相関係数を用いて検討を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属機関の倫理委員会の承諾を得た上で実施した。被験者にはヘルシンキ宣言に基づき事前に書面を用いて十分な説明を行い,被験者から同意の得られた場合のみ測定を開始した。
【結果】
全ての被験者の単収縮補間法の結果,随意収縮力と随意的動員度の間には有意な正の相関が認められた(r=0.81,p=0.03)。回帰直線から,このときの推定MVCは100.6%であった。個人内の結果から,推定MVCが100%以上であった被験者は5名であった。この5名について,随意収縮力と随意的動員度の間には有意な正の相関が認められた(r=0.69,p=0.04)。回帰直線から,このときの推定MVCは117.2%であった。
【考察】本研究の結果から,被験者により膝関節屈曲力の生理的限界と心理的限界の間にばらつきがあることを検出できた。また,磁気刺激を用いても電気刺激と同様に随意収縮力と随意的動員度の間に有意な相関関係があり,2つの変数の関係式を使って生理的限界を推定できた。このことは,坐骨神経支配である膝関節屈筋ではこれまでに報告されておらず,本研究の方法は,膝関節屈筋の詳細な個別機能の解明に役立つ情報を得られる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,磁気刺激を用いて膝関節屈曲力の生理的限界を明らかにする新規的研究である。筋出力の生理的限界に対しての心理的限界は運動歴や生活歴で異なると報告されており,本研究の手法は,機能障害後の理学療法や,膝関節屈筋の障害予防など様々な領域の理学療法に応用可能な基礎的情報を示すことができる可能性がある。
【方法】対象は健康な成人男性15名とし,全ての被験者で左下肢を対象側として測定を実施した。被験者の姿勢は,ベッド上で股関節,膝関節を屈曲90°とした四つ這い位となり,腹部に台を入れて支持した肢位とした。左殿部を磁気刺激部位とし,坐骨結節と大腿骨大転子を指標に15mm間隔で格子を作成し,絶対座標系を定義した。経皮的磁気刺激は,直径20cmの大型円形コイルを磁気刺激装置に接続し,コイル辺縁を刺激部位上に配置し,末梢方向に誘導電流を流した。刺激部位・条件の決定は我々が報告した方法で実施した(青木ら,2013)。まず,磁気刺激部位の検討として,各被験者において磁気刺激によって生じるSTの複合筋活動電位振幅が最も大きい刺激部位を決定した。その後,決定した刺激部位において,連発刺激間隔,連発刺激回数を変化させ,誘発される収縮力が最大となる条件を決定した。刺激部位と刺激条件が決定した後に,本実験では,最大随意収縮課題と単収縮補間法を行った。最大随意収縮課題は,膝関節屈曲の最大等尺性随意収縮を行い,膝関節最大屈曲トルクを測定した。単収縮補間法は,安静時および随意収縮中に殿部への磁気刺激による坐骨神経刺激を行い,随意収縮力と随意的動員度を算出した。随意収縮力は,最大随意収縮課題で得られたトルク値を100%とし,20%から80%まで20%刻みで目標値を設定した。目標値は,安静5秒,目標値への立ち上がり2秒,目標値発揮5秒,立ち下がり2秒,安静5秒の台形波形を追従させながら実施した。磁気刺激は,試技開始3秒後,9秒後,15秒後に実施し,15秒後の刺激結果を安静時刺激,9秒後の刺激結果を随意収縮時刺激とした。随意的動員度は,先行研究(Belanger et al., 1981)を参考に,安静時単収縮力と随意収縮時単収縮力を用いて随意的に動員している運動単位の割合を算出した。その後,実際に被験者が発揮している随意収縮力を横軸,そのときの随意的動員度を縦軸にプロットし,回帰直線から随意的動員度が100%に相当する推定MVCを算出した。統計学的解析として,随意収縮力と随意的動員度の関連をピアソンの相関係数を用いて検討を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属機関の倫理委員会の承諾を得た上で実施した。被験者にはヘルシンキ宣言に基づき事前に書面を用いて十分な説明を行い,被験者から同意の得られた場合のみ測定を開始した。
【結果】
全ての被験者の単収縮補間法の結果,随意収縮力と随意的動員度の間には有意な正の相関が認められた(r=0.81,p=0.03)。回帰直線から,このときの推定MVCは100.6%であった。個人内の結果から,推定MVCが100%以上であった被験者は5名であった。この5名について,随意収縮力と随意的動員度の間には有意な正の相関が認められた(r=0.69,p=0.04)。回帰直線から,このときの推定MVCは117.2%であった。
【考察】本研究の結果から,被験者により膝関節屈曲力の生理的限界と心理的限界の間にばらつきがあることを検出できた。また,磁気刺激を用いても電気刺激と同様に随意収縮力と随意的動員度の間に有意な相関関係があり,2つの変数の関係式を使って生理的限界を推定できた。このことは,坐骨神経支配である膝関節屈筋ではこれまでに報告されておらず,本研究の方法は,膝関節屈筋の詳細な個別機能の解明に役立つ情報を得られる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,磁気刺激を用いて膝関節屈曲力の生理的限界を明らかにする新規的研究である。筋出力の生理的限界に対しての心理的限界は運動歴や生活歴で異なると報告されており,本研究の手法は,機能障害後の理学療法や,膝関節屈筋の障害予防など様々な領域の理学療法に応用可能な基礎的情報を示すことができる可能性がある。