第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学5

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM ポスター会場 (基礎)

座長:坂本淳哉(長崎大学病院リハビリテーション部)

基礎 ポスター

[1024] 廃用性萎縮筋に対する筋力増強運動負荷量についての検討

小畑大志1, 星野浩一2, 田中正二3, 中川敬夫3 (1.金沢西病院, 2.公立みつぎ総合病院, 3.金沢大学医薬保健研究域保健学系)

Keywords:廃用性筋萎縮, 筋力増強, RM法

【はじめに,目的】
骨格筋は不活動になれば萎縮する。臨床的には,ベッド上での安静臥床や骨折のための関節固定などにより筋萎縮が生じる。このような原因で発生する廃用性筋萎縮に対し,運動負荷はその予防や回復に効果があることはよく知られている。一般的に,筋肥大を目的とした運動負荷強度は最大反復回数(Repetition maximum;RM)を指標として設定されているが,廃用性筋萎縮後にRM法の観点から運動負荷した研究は無く,最適な運動負荷強度は明らかになっていない。また,運動負荷量の違いによる筋萎縮・筋肥大に関する遺伝子発現量との関連を検討したものは少ない。そこで今回,ラット後肢懸垂モデルを用い,RM法による運動負荷の効果について,体重,筋横断面積,1RM,筋肥大・筋萎縮に関する遺伝子発現量の面から検討した。
【方法】
9週齢のWistar系雄ラット30匹を対象とした。ラット30匹を,2週間飼育する対照群(C群:n=6)と懸垂群(n=24)に振り分けた。懸垂群はさらに,懸垂のみの群(U群:n=6),懸垂後再荷重し3週間飼育した群(R群:n=6),1RMとして最大挙上重量を測定し,その50%負荷での運動を行う群(RT50群:n=6),1RMの70%負荷での運動を行う群(RT70群:n=6)に振り分けた。懸垂方法はMoreyらの方法を用いて2週間実施した。運動は,Krisanらの実験を参考に運動装置を作成し,スクワット様の運動を行わせた。なお,運動を誘発するために電気刺激を足底に加えた。運動の頻度は2日/週,回数はRT50群が14回×3セット/日,RT70群は10回×3セット/日とした。再び1RMおよび体重を測定した後,各群の大腿直筋を採取し,10µmの凍結切片にてH-E染色を実施し,筋線維200本の横断面積を測定した。また各群の大腿直筋におけるIGF-1,Mytostatin,Atrogin-1,MuRF1遺伝子発現量をReal-time RT-PCR法にて測定した。統計学的解析としてTukey,Dunnett,Steelの検定を用いた。
【倫理的配慮】
本研究は所属機関の動物実験委員会承認のもとに実施した(承認番号AP-122586,AP-132787)。
【結果】
体重において,U群はC群,RT50群に対して有意に低値を示し(p<0.05),R群RT70群に対しても有意に低値を示した(p<0.01)。また,C群はR群,RT50群,RT70群に対して有意に低値を示した(p<0.05)。筋線維横断面積において,U群はRT70群に対して有意に低値を示し(p<0.05),C群に対しても有意に低値を示した(p<0.01)。1RMにおいては,R群はRT50群に対して有意に高値を示した(p<0.05)が,体重比では差がなかった。遺伝子発現量において,IGF-1,Myostatin,Atrogin-1は,各群に有意差は認められなかったが,MuRF1は,RT70群はR群に対して有意に低値を示した(p<0.05)。
【考察】
筋断面積は最大筋力と相関し,筋力トレーニングにより筋横断面積が増加することで筋力も増強する。IGF-1は筋線維構成蛋白質の合成に中心的役割を果たしており,Myostatinはその発現減少により筋蛋白質の増加を,増加により筋蛋白質の減少に作用する。Atrogin-1とMuRF1は筋萎縮に関与し,それら発現増加によって筋萎縮の抑制,減少によって筋萎縮の誘導が起こる。
筋線維横断面積において,U群はC群に対して有意に低値を示しており,2週間の後肢懸垂によって大腿直筋萎縮が生じた。この知見はThomasonや蜂須賀らの報告と同様であった。RT50群の1RMは,R群よりも有意に高値であったが,体重比では差がなく,筋線維横断面積も差が無かった。さらにR群とRT70群の1RMおよび筋線維横断面積に差はなかったが,MuRF1 mRNA発現量はRT70群で有意に減少していた。また,RT70群はU群よりも有意に筋線維横断面積が増加していた。これらの結果より,1RMの70%強度負荷での運動は廃用性萎縮筋の回復に有用であることが示唆された。懸垂後運動を行わなかったR群との有意差は確認されなかったことから,再荷重と比べればその運動効果は小さいが,筋萎縮を促進する遺伝子が低値を示し,廃用性萎縮筋への運動負荷として有用であると考えられる。今後,さらなる運動方法の改善,また,強度,頻度,時間,筋の収縮様式などの運動を決定する種々の条件を加えて検討する必要がある。さらに,臨床応用においては,筋線維損傷や疼痛などを回避するための慎重な検討が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
臨床では床上臥床やギプス固定など様々な原因によって廃用性の筋萎縮が引き起こされる。廃用性筋萎縮に対しての理学療法で筋力増強などが行われるが,今回の実験結果では1RMの70%程度の運動が効果的であることが示唆された。但し,臨床例においては,筋線維損傷や疼痛などを回避するために,さらなる運動条件の検討が必要である。