[1025] 不活動による骨格筋適応変化への静的介入効果
Keywords:温熱負荷, 伸張, 筋長軸
【はじめに,目的】
骨格筋は不活動により筋萎縮を呈するとともに,ミトコンドリア容量の低下と関連した筋持久力の低下を引き起こすことが知られており(阪井他,2002),理学療法場面で問題となることが多い。筋収縮を伴わない筋萎縮抑制への静的介入として筋への温熱負荷や伸張があるが,それらによるミトコンドリア容量低下抑制効果の報告は少ない。また,同一筋における長軸部位間でミトコンドリア容量の相違が報告されており(鈴木他,2007),上記介入によるミトコンドリア容量低下抑制効果についても長軸部位間で差異が考えられる。以上より本研究では筋萎縮・ミトコンドリア容量を指標として,筋長軸方向部位間での温熱負荷や伸張による筋の適応変化の違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はラット(Wistar系,雄性,8週齢)40匹とし,これらを8匹ずつ通常飼育する対照群,7日間の後肢懸垂を行う懸垂群,後肢懸垂に加え毎日1回の温熱を負荷する温熱群,後肢懸垂に加え毎日1回の筋伸張を行う伸張群,後肢懸垂に加え毎日1回の温熱と筋伸張を同時に行う併用群に無作為に振り分けた。後肢懸垂は装具により,背側骨盤部を上方に吊り上げることで後肢を非荷重状態とした。温熱は下腿深部温が約39℃になるよう調節した市販小型カイロを60分間両側下腿部に密着させることで負荷した。筋伸張は足関節背屈位を体重の1/3の負荷量にて60分間保持した。実験期間終了後,右側のヒラメ筋を摘出し,筋の起始部より25%(近位),50%(中央),75%(遠位)部で切り分けた。その後,冷却されたイソペンタン液内で急速冷凍し,試料を作成した。筋切片に対してヘマトキシリン-エオジン(HE)染色,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色を施した。画像解析ソフトImage Jを用いてHE染色画像にて筋線維横断面積(CSA),SDH染色画像にて染色濃度によるSDH活性を計測し,筋萎縮・ミトコンドリア容量の指標とした。統計処理は二元配置分散分析を適用し,有意差(P<0.05)を認めた場合には,ボンフェローニの多重比較を適用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:AP-122587)。
【結果】
懸垂群・温熱群・併用群のCSAは近位部ほど低値を示し,懸垂群・温熱群は全ての部位間で有意差を認めた。しかし,併用群は近位部と遠位部間のみ有意差が生じた。群間の比較では温熱群のCSAは懸垂群のどの部位においても有意に高値を示した。しかし併用群のCSAは懸垂群と比較し近位部以外で有意差を認めなかった。SDH活性は対照群が遠位部で最高値を示したのに対し,他の群は遠位部で最低値を示した。併用群のみ遠位部と近位部は有意差がなく,中央部が最高値を示した。群間比較では全ての部位において伸張群・併用群が他の群よりも有意に高い値を示し,遠位部のみ併用群が最高値を示した。
【考察】
温熱負荷と筋伸張の併用による筋萎縮抑制への相乗効果はないが,筋萎縮の部位差を軽減させ,筋線維横断面積を均一化する効果をもたらすと考えられる。また,不活動により部位間での長軸方向でのミトコンドリア容量の分布が逆転するとともに,筋伸張は筋萎縮抑制よりもミトコンドリア容量増加に効果的であることが推察される。さらに内側腓腹筋において長軸部位間で機能特性が異なる報告があり(De Ruiter et al.,1994),本研究でもヒラメ筋においてCSAとSDH活性とでは不活動や介入による部位間の変化が一致せず,長軸部位間で機能特性やそれに伴う効率的な介入手段が異なることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
廃用性筋萎縮に対する温熱負荷や筋伸張による筋出力・持久力に関与する因子の部位ごとの変化が明らかになることで,目的とする機能特性に応じた,部位を考慮した効率的な介入の可能性があり,本研究結果はその基礎データとして有用である。
骨格筋は不活動により筋萎縮を呈するとともに,ミトコンドリア容量の低下と関連した筋持久力の低下を引き起こすことが知られており(阪井他,2002),理学療法場面で問題となることが多い。筋収縮を伴わない筋萎縮抑制への静的介入として筋への温熱負荷や伸張があるが,それらによるミトコンドリア容量低下抑制効果の報告は少ない。また,同一筋における長軸部位間でミトコンドリア容量の相違が報告されており(鈴木他,2007),上記介入によるミトコンドリア容量低下抑制効果についても長軸部位間で差異が考えられる。以上より本研究では筋萎縮・ミトコンドリア容量を指標として,筋長軸方向部位間での温熱負荷や伸張による筋の適応変化の違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はラット(Wistar系,雄性,8週齢)40匹とし,これらを8匹ずつ通常飼育する対照群,7日間の後肢懸垂を行う懸垂群,後肢懸垂に加え毎日1回の温熱を負荷する温熱群,後肢懸垂に加え毎日1回の筋伸張を行う伸張群,後肢懸垂に加え毎日1回の温熱と筋伸張を同時に行う併用群に無作為に振り分けた。後肢懸垂は装具により,背側骨盤部を上方に吊り上げることで後肢を非荷重状態とした。温熱は下腿深部温が約39℃になるよう調節した市販小型カイロを60分間両側下腿部に密着させることで負荷した。筋伸張は足関節背屈位を体重の1/3の負荷量にて60分間保持した。実験期間終了後,右側のヒラメ筋を摘出し,筋の起始部より25%(近位),50%(中央),75%(遠位)部で切り分けた。その後,冷却されたイソペンタン液内で急速冷凍し,試料を作成した。筋切片に対してヘマトキシリン-エオジン(HE)染色,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色を施した。画像解析ソフトImage Jを用いてHE染色画像にて筋線維横断面積(CSA),SDH染色画像にて染色濃度によるSDH活性を計測し,筋萎縮・ミトコンドリア容量の指標とした。統計処理は二元配置分散分析を適用し,有意差(P<0.05)を認めた場合には,ボンフェローニの多重比較を適用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:AP-122587)。
【結果】
懸垂群・温熱群・併用群のCSAは近位部ほど低値を示し,懸垂群・温熱群は全ての部位間で有意差を認めた。しかし,併用群は近位部と遠位部間のみ有意差が生じた。群間の比較では温熱群のCSAは懸垂群のどの部位においても有意に高値を示した。しかし併用群のCSAは懸垂群と比較し近位部以外で有意差を認めなかった。SDH活性は対照群が遠位部で最高値を示したのに対し,他の群は遠位部で最低値を示した。併用群のみ遠位部と近位部は有意差がなく,中央部が最高値を示した。群間比較では全ての部位において伸張群・併用群が他の群よりも有意に高い値を示し,遠位部のみ併用群が最高値を示した。
【考察】
温熱負荷と筋伸張の併用による筋萎縮抑制への相乗効果はないが,筋萎縮の部位差を軽減させ,筋線維横断面積を均一化する効果をもたらすと考えられる。また,不活動により部位間での長軸方向でのミトコンドリア容量の分布が逆転するとともに,筋伸張は筋萎縮抑制よりもミトコンドリア容量増加に効果的であることが推察される。さらに内側腓腹筋において長軸部位間で機能特性が異なる報告があり(De Ruiter et al.,1994),本研究でもヒラメ筋においてCSAとSDH活性とでは不活動や介入による部位間の変化が一致せず,長軸部位間で機能特性やそれに伴う効率的な介入手段が異なることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
廃用性筋萎縮に対する温熱負荷や筋伸張による筋出力・持久力に関与する因子の部位ごとの変化が明らかになることで,目的とする機能特性に応じた,部位を考慮した効率的な介入の可能性があり,本研究結果はその基礎データとして有用である。