第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅5

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:目黒力(群馬パース大学保健科学部理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[1036] 運動時間の違いによるストレスへの影響

中野洋平, 立花貴弘, 古後俊介, 益満俊宏, 田島光純 (社会医療法人河北医療財団河北リハビリテーション病院)

キーワード:運動時間, ストレス, 運動習慣

【はじめに,目的】有酸素運動などの身体活動は,血圧や心拍数の上昇,呼吸数の増加などエネルギー代謝や循環を促進させ,それにより,生活習慣病の予防に効果があることは,今や周知の事実である。また,適度な運動量の確保は気力の改善や活力,ポジティブな感情を高めるとの報告もある。しかし,強度の高い運動は,食欲不振,睡眠障害などを引き起こすとされている。運動量とは「運動の種目(有酸素運動)」の他に,「強度」と「時間」と「頻度」の3つの要素で構成され,この3要素が運動量を判断する基本的な目安となっている。運動習慣のない人においては,習慣的に適度な運動量の確保を行うことが困難となる場合が多い。そこで,本研究は,運動とストレスの関係性を検証するために,その中の構成要素である,運動時間とストレスに着目した。運動習慣のない人は,運動そのものを行うことでストレスを感じ,ストレスが少ない状態であれば習慣的に適度な運動量の確保を行うことができるのではないかと考えた。有酸素運動の持続時間として,10分からでも効果があるとされている。そこで今回,有酸素運動において,同一運動強度で,運動時間を少なくした状態の場合,ストレスに変化が生じるかを,比較検討したので報告する。
【方法】運動負荷試験において,エルゴメーター(AEROBIKE EZ101 COMBI)を用い,座面の高さは大転子高と同一とした。運動強度を予測最大心拍の60%(以下中等度負荷)として,10分間のウォームアップを行う。ウォームアップ時は,エルゴメーターをフリートレーニングに設定し,ワット数を検者が10Wから段階的に上げていく。その後,運動強度を中等度負荷に保った状態で30分間運動を実施する。脈拍,ワット数はエルゴメーターが自動調節する設定とした。ストレス計測において,酵素分析装置唾液アミラーゼモニター(NIPURO社製)を用いて,ウォームアップ後,運動開始10分後,20分後,30分後の唾液を摂取し測定した。対象は,運動習慣のない健常成人20名(男性10名 女性10名。年齢25.4±1.6歳)とした。運動習慣がある者を厚生労働省-健康日本21の指針である「週2回以上,1回30分以上,1年以上,運動をしている者」という基準を用い,これにあたるものは対象から除外した。ウォームアップ時を基準とし,10分後・20分後・30分後の値の増減を算出し,一元配置分散分析を行い,危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】すべての被検者に対して,実験前に目的・方法・リスクについて文書,口頭による説明を十分に行い,署名により同意が得られた者を対象とした。
【結果】ウォームアップ時を基準としたストレス値の増減は,運動開始10分後は,0.89と減少を示し,運動開始20分後は,1.04と増加,運動開始30分後は,1.67とさらに増加が認められた。ウォームアップ時を基準とし,運動開始10分後・20分後・30分後の値,それぞれの間で比較を行ったが,有意な差は認めなかった(p=0.06)。しかし,ウォームアップ後,運動開始10分後は唯一減少値を示した結果となった。
【考察】アミラーゼはストレスが交感神経系の興奮信号を励起し,体内の自己防衛反応・不安反応として唾液アミラーゼの活性が高まると考えられている。不安には,交感神経の過剰な興奮による身体症状が伴う事に特徴があり,不安感情が激しく生じている時には,交感神経が優位になり,発汗・心臓の運動・呼吸運動などを活発にする。本研究の結果より,運動開始30分以上でストレスが増加する傾向があった。運動を習慣化させるためには「1回30分以上,週2回以上行う事が望ましい」とされている。しかし,運動習慣のない人にとっては30分以上の運動は,交感神経の過剰な興奮状態となり,ストレスが増加したことが示唆される。そのような状態では,運動を継続することが困難であり,運動習慣のない人は,少ない刺激の状況から運動を行う事が運動習慣を身につけるために必要な可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】健康維持増進,生活習慣病の予防の観点からも運動習慣の獲得は重要なものになっている。しかし,運動習慣のない者にとっては,推奨されている1回30分という運動時間を行う事が,ストレスとなり,運動の継続を困難にさせている可能性が示唆された。まずは,ウォームアップを含め20分の運動時間が,ストレスの少ない条件であることが示唆され,運動習慣の獲得に繋がる可能性があると思われる。