[1043] 人工膝関節全置換術後の階段昇降における良好群と不良群の比較
キーワード:人工膝関節全置換術, 階段, 機能評価
【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下TKA)後,平地歩行は良好であるにもかかわらず,階段昇降自立に時間を要する症例や,昇降がスムーズに行えないと感じている症例は少なくない。本学附属4病院(以下4病院)共通の評価表では,階段昇降が良好でないと感じている症例は,術後3週で約4割,術後12週経過しても約3割存在していた。そこで今回,患者の主観的評価を基にした階段昇降良好群と不良群の間には,どの様な機能の違いがあるのか,検討する事を目的とした。
【方法】前述の共通の評価表は,理学療法士が評価する機能評価と患者の主観的評価である問診票で構成されている。問診票は5段階スケールで答えてもらう質問紙法となっており,「日常生活動作16項目(5:楽にできる~1:できない)」,「疼痛8項目(5:痛くない~1:激しく痛む)」,「満足度7項目(5:満足~1:不満足)」の全31項目で構成されている。本研究はこの評価表を用いた後方視的調査である。対象は2010年4月から2013年8月まで4病院にてTKAを施行し,術後3週,術後8週,術後12週の各評価時期の調査項目に不備がない症例とした。なお両側同時TKA例は除外した。機能評価の調査項目は疼痛の有無,術側・非術側それぞれの膝屈曲・伸展ROMおよび膝屈曲・伸展筋力(Nm/kg),Extention Lagの有無,跛行の有無,5m最大歩行時間,TUG,膝屈曲60度の範囲でスクワットを繰り返し,10秒間に何回できるか測定するクイックスワット(以下QS)の15項目である。問診票の調査項目は「階段を昇る」「階段を降りる」の2項目とし,5:楽にできる~1:できないの5段階のうち5,4と回答した群をそれぞれ昇段良好群(167例),降段良好群(124例),1,2と回答した群をそれぞれ昇段不良群(172例),降段不良群(205例)とに分類した。なお3と回答した症例は除外した(n=391例)。統計解析は昇段,降段それぞれの2群間において,前述の調査項目を対応のないt検定及びχ2検定にて比較した。さらに階段昇降にどの機能評価が影響を及ぼすか検証するために,問診票の階段昇降を目的変数とし,2群間の比較で有意差を認めた調査項目を説明変数にしてロジスティック回帰分析を行った。その後抽出された調査項目に関して,階段昇降が楽に行えるか否かを判断するカットオフ値を得るために,Receiver Operating Characteristic Curve(以下ROC曲線)から曲線下面積(Area Under the Curve以下AUC)を算出し,感度・特異度からカットオフ値を求めた。統計解析ソフトはSPSS(ver.20)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当学の倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】階段昇降良好不良の2群間で比較したt検定及びχ2検定では,疼痛の有無,術側・非術側の膝屈曲ROMおよび膝屈曲・伸展筋力,Extention Lagの有無,跛行の有無,5m最大歩行時間,TUG,QS回の12項目に有意差が認められた。この12項目を説明変数にした多重ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定は昇段,降段ともにp<0.01で有意であった。判別的中率は昇段で69.3%,降段で65.3%であった。抽出された因子は昇段ではTUGとQS(p<0.01),降段では患側屈曲ROMとTUG(p<0.01),QSと歩行時間(p<0.05)となった。抽出された変数におけるAUC,カットオフ値は昇段のTUGでは,0.74,11.8秒QSは0.74,9.2回であった。同様に降段での患側屈曲ROMでは0.61,117度,TUGでは0.67,10.7秒,QSは0.69,9.2回,歩行速度は0.68,4.6秒であった。
【考察】昇段降段ともに抽出された因子はTUGとQSであった。TUGと階段昇降の相関は過去報告されており,階段昇降が複合的な運動を必要とするためと言われている。QSは我々が独自に取り組んでいる伸張-短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle 以下SSC)運動である。SSC運動は踏切動作などのスポーツ分野に限らず,通常歩行にも認められる運動であり,瞬発的に大きな力を発揮できると言われている。階段昇降を良好にするためには,瞬発的な筋力の発揮が必要と考えられ,このためQSが階段昇降に影響を及ぼしたと考える。降段では屈曲ROMが因子として抽出された。屈曲角度が不十分であると,効率的な降段につながらず,二足一段を余儀なくされる。このため降段時において屈曲ROMが抽出されたと考える。本研究では昇降の手順に関して限局しておらず,二足一段で良好と感じる症例もいれば,一足一段で不良と感じる症例もいる。昇降方法を分類したうえで,患者の主観的評価を反映していくことが,今後の課題だと言える。
【理学療法学研究としての意義】TKA術後患者の階段昇降に関して,主観的に楽昇降可能と判断する場合の関与因子を抽出した。今回の結果は患者満足度を高めるうえでも,理学療法研究の意義があると考える。
【方法】前述の共通の評価表は,理学療法士が評価する機能評価と患者の主観的評価である問診票で構成されている。問診票は5段階スケールで答えてもらう質問紙法となっており,「日常生活動作16項目(5:楽にできる~1:できない)」,「疼痛8項目(5:痛くない~1:激しく痛む)」,「満足度7項目(5:満足~1:不満足)」の全31項目で構成されている。本研究はこの評価表を用いた後方視的調査である。対象は2010年4月から2013年8月まで4病院にてTKAを施行し,術後3週,術後8週,術後12週の各評価時期の調査項目に不備がない症例とした。なお両側同時TKA例は除外した。機能評価の調査項目は疼痛の有無,術側・非術側それぞれの膝屈曲・伸展ROMおよび膝屈曲・伸展筋力(Nm/kg),Extention Lagの有無,跛行の有無,5m最大歩行時間,TUG,膝屈曲60度の範囲でスクワットを繰り返し,10秒間に何回できるか測定するクイックスワット(以下QS)の15項目である。問診票の調査項目は「階段を昇る」「階段を降りる」の2項目とし,5:楽にできる~1:できないの5段階のうち5,4と回答した群をそれぞれ昇段良好群(167例),降段良好群(124例),1,2と回答した群をそれぞれ昇段不良群(172例),降段不良群(205例)とに分類した。なお3と回答した症例は除外した(n=391例)。統計解析は昇段,降段それぞれの2群間において,前述の調査項目を対応のないt検定及びχ2検定にて比較した。さらに階段昇降にどの機能評価が影響を及ぼすか検証するために,問診票の階段昇降を目的変数とし,2群間の比較で有意差を認めた調査項目を説明変数にしてロジスティック回帰分析を行った。その後抽出された調査項目に関して,階段昇降が楽に行えるか否かを判断するカットオフ値を得るために,Receiver Operating Characteristic Curve(以下ROC曲線)から曲線下面積(Area Under the Curve以下AUC)を算出し,感度・特異度からカットオフ値を求めた。統計解析ソフトはSPSS(ver.20)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当学の倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】階段昇降良好不良の2群間で比較したt検定及びχ2検定では,疼痛の有無,術側・非術側の膝屈曲ROMおよび膝屈曲・伸展筋力,Extention Lagの有無,跛行の有無,5m最大歩行時間,TUG,QS回の12項目に有意差が認められた。この12項目を説明変数にした多重ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定は昇段,降段ともにp<0.01で有意であった。判別的中率は昇段で69.3%,降段で65.3%であった。抽出された因子は昇段ではTUGとQS(p<0.01),降段では患側屈曲ROMとTUG(p<0.01),QSと歩行時間(p<0.05)となった。抽出された変数におけるAUC,カットオフ値は昇段のTUGでは,0.74,11.8秒QSは0.74,9.2回であった。同様に降段での患側屈曲ROMでは0.61,117度,TUGでは0.67,10.7秒,QSは0.69,9.2回,歩行速度は0.68,4.6秒であった。
【考察】昇段降段ともに抽出された因子はTUGとQSであった。TUGと階段昇降の相関は過去報告されており,階段昇降が複合的な運動を必要とするためと言われている。QSは我々が独自に取り組んでいる伸張-短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle 以下SSC)運動である。SSC運動は踏切動作などのスポーツ分野に限らず,通常歩行にも認められる運動であり,瞬発的に大きな力を発揮できると言われている。階段昇降を良好にするためには,瞬発的な筋力の発揮が必要と考えられ,このためQSが階段昇降に影響を及ぼしたと考える。降段では屈曲ROMが因子として抽出された。屈曲角度が不十分であると,効率的な降段につながらず,二足一段を余儀なくされる。このため降段時において屈曲ROMが抽出されたと考える。本研究では昇降の手順に関して限局しておらず,二足一段で良好と感じる症例もいれば,一足一段で不良と感じる症例もいる。昇降方法を分類したうえで,患者の主観的評価を反映していくことが,今後の課題だと言える。
【理学療法学研究としての意義】TKA術後患者の階段昇降に関して,主観的に楽昇降可能と判断する場合の関与因子を抽出した。今回の結果は患者満足度を高めるうえでも,理学療法研究の意義があると考える。