第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節24

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (運動器)

座長:小林敦郎(順天堂大学医学部附属静岡病院リハビリテーション室)

運動器 ポスター

[1052] 間歇性跛行を呈す腰椎変性疾患の手術前後の病態調査

有地祐人1, 須堯敦史1, 出田良輔1, 佐々木貴之1, 植田尊善2 (1.独立行政法人労働者健康機構総合せき損センター中央リハビリテーション部, 2.独立行政法人労働者健康機構総合せき損センター整形外科)

キーワード:間歇性跛行, 歩行距離, 膀胱機能障害

【はじめに,目的】
高齢化社会に伴い,腰痛経験者の割合は年々増加傾向を辿っている。65歳以上の約20%が腰痛を訴え,うち60%は間歇性跛行(以下IC)を呈すと言われている。ICとは,歩行による腰部・下肢への力学的負荷が加わることで,下肢症状(疼痛等)が出現し歩行困難となるが,安楽肢位により回復する病態をいう。高齢化社会の日本において,予防医学ひいては医療経済的観点から,最重要課題疾患の一つと言える。ICの病態を記した文献は数多くあるが,歩行距離と症状経過(膀胱機能障害等)の術後比較に着目した研究は国内外において皆無である。そこでICの病態調査を行ったので報告する。
【方法】
2012年7月~2013年2月に当院にて手術し,かつICを呈していた腰椎変性疾患の者を対象とした。対象は手術前,手術2週後にトレッドミル上歩行が可能であった105例(平均年齢:66.6±14.1歳),内訳は男性62例,女性43例であった。調査項目は以下の8項目である。診断名,職業歴,症状初発時期,症状ピーク時期,膀胱機能障害の有無,安楽姿勢,理学所見{SLR,ラセーグ,FNST,Kemp,腱反射,FFD,筋力(大腿四頭筋,前脛骨筋,足趾伸筋,下腿三頭筋)},歩行状態(歩行速度,歩行最大距離,症状改善時間,痛み・痺れ・異常感覚の部位)。尚,感覚部位は国際脊髄損傷協会のデルマトームに従った。手順はトレッドミル歩行前後にて理学所見並びに歩行状態を調査した。歩行速度は自然歩行速度に設定し,歩行最大距離は500mを上限とした。歩行中,IC症状により歩行困難な場合は,その時点での距離を歩行最大距離とした。その後,安楽姿勢にて症状改善時間を計測した。統計学的処理はt検定,Mann-Whitney U検定,一元配置分散分析を行った。対象は以下の2つに階層化し,比較・検討を行った。
【1】手術前検査で膀胱機能障害を呈す群(74例)と正常群(31例)での各群間の症状比較
【2】手術前検査で歩行最大距離が200m以下群(54例)と201m以上群(51例)での手術前後症状の各群間の比較
【倫理的配慮,説明と同意】
歩行検査は主治医の指示の基に行っており,本研究の目的を説明した上で書面にて同意を得て実施した。本研究は当院の倫理委員会承認のもと行った。
【結果】
診断名は腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)68例,腰椎辷り症(以下LDS)26例,腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)11例。研究対象年齢は年代別分布で70代が最も多く,診断名別分布はICを呈す症例の65%がLCSであった。職業歴では生産労務職,次いで事務職の順に多かった。安楽姿勢は術前では側臥位,術後は背臥位が多かった。症状初発・ピーク時期は症例によりばらつきがあるものの症状に差異は認められなかった。
【1】手術前検査で膀胱機能障害を呈す群と正常群での各群間の症状比較
術後歩行後の痺れの有無(P<0.01),術前MMT大腿四頭筋(P<0.01),術前MMT前脛骨筋(P<0.05)に有意差が認められた。その他比較項目には有意差は認められなかった。
【2】手術前検査で歩行最大距離が200m以下群と201m以上群での手術前後症状の各群間の比較
術前FNST(P<0.01),術後歩行速度(P<0.01),術後最大距離(P<0.01),術後症状安静時間(P<0.05),術後SLR(P<0.01)に有意差が認められた。その他の比較項目には有意差は認められなかった。
【考察】
本結果からも対象は70代が最も多く高齢化が認められる。またIC呈す疾患はLCSが最も多く文献的にも合致が見られた。
【1】術前筋力(特に大腿四頭筋,前脛骨筋)において,膀胱機能障害を呈す群では筋力低下も著明であり,関連があると推察する。痺れ感は患者自身の主訴で最も多い症状である。結果より,術前検査で膀胱機能が正常であれば,術後の痺れは比較的良好な経過となる事が示唆された。逆にICを呈し,膀胱機能障害があれば手術適応の可能性が高いと言える。
【2】術前検査で歩行距離が200m以下群は術後の歩行速度,歩行最大距離の値が201m以上群と比較すると有意に低い数値を示しており,200m歩行困難ならば手術後の歩行速度,歩行距離に影響しやすいことが明らかになった。これは術前検査で理学的所見の定量的評価として充分に意味を成し,医療者側にとって臨床症状の把握のための有益な判断材料となる。今後の検討課題として,不定なIC症状の把握を深めるためにも,1年後の歩行検査を行うことで,術後の長期成績把握を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究にてIC症状,歩行距離,症状経過ならびに関連症状との関係性について比較・検討行った。200m歩行困難ならば術後の歩行状態に影響することが明らかとなった。これは臨床的に腰椎疾患患者様に対しての根拠ある情報提示として有用であり,医療者側にとっても治療方針を決める際の有益な情報となり,理学療法分野における重要なデータとなると考えられた。