[1062] 肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖
キーワード:肩関節屈曲, 胸郭, 運動連鎖
【はじめに,目的】
我々は肩関節疾患に対する理学療法で肩関節の病態メカニズムを確定するため,肩関節を構成する関節間での連鎖,体幹や下肢からの影響などを考慮し肩関節の機能評価を行っている。特に胸郭に起こりやすい分節的な肋骨の配列変化は肩関節の機能に多大な影響を与える。
また上肢運動では左右側で胸郭に異なる運動連鎖が生じていると捉えている。左右側の上肢運動で胸郭に異なる運動連鎖が存在することは,肩関節疾患の病因が左右肩関節で異なる可能性があると言える。そのため,この運動連鎖を明らかにすることは肩関節疾患の病態メカニズムを確定する一助になると考える。
そこで本研究の目的は,肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖について検討することとした。
【方法】
対象者は脊柱や肩関節に既往のない健常成人男性10名(平均年齢22.7±1.5歳,平均身長171.3±5.4cm,平均体重64.8±7.8kg)とした。測定機器は3次元動作解析装置(VisualayezII VZ4050,PTI,BC,Canada)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした。LEDマーカーを体表上に定めた位置に貼付し,3次元空間座標を測定した。
測定課題は椅子座位で上肢下垂位(肘伸展位)から屈曲最終域までの肩関節屈曲運動とし,左右で測定を実施した。測定を実施する前に数度練習し,運動を習熟させた。LEDマーカー貼付位置は両肩峰,両手関節背側中央部,胸骨頚切痕(JN),胸骨剣状突起(XP),第9胸椎棘突起(Th9),第12胸椎棘突起(Th12)とした。肩関節屈曲角度は,手関節背側中央部と肩峰を結ぶ直線,肩峰を通る床への垂直線の2直線のなす矢状面上の角度とした。また,JNとXPの2点を結ぶ線を胸骨軸,Th9とTh12の2点を結ぶ線を脊柱軸と定義した。肩関節屈曲運動時の前額面上の脊柱軸に対する胸骨軸で形成される投影角と,水平面上のTh9に対するXPの位置を経時的に算出した。
また肩関節屈曲角度と前額面上の投影角,肩関節屈曲角度と水平面上のTh9に対するXPの位置の各々で散布図から近似直線を算出した。右側肩関節屈曲時,左肩関節屈曲時の近似直線の傾きの有意水準をχ²検定を用いて求めた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後に,測定を実施した。なお,本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
肩関節屈曲角度は右側156.5±6.2°,左側154.9±7.0°となった。前額面上の投影角の結果より,安静位では脊柱軸に対し胸骨軸は3.0.±0.7°右傾斜位にあった。左側肩関節屈曲では安静位でみられた右傾斜が7.0.±1.7°右傾斜位に増加していき(p<0.05),右側肩関節屈曲では右傾斜が減少していき0.8±0.9°左傾斜位となり投影角が0°に近づいていった(p<0.05)。また水平面上の結果より,安静位ではTh9に対してXPは11.7±2.7cm左側に位置していた。左側肩関節屈曲ではTh9に対してXPは24.9±5.1cm左側と安静よりさらに左側に移動していき(p<0.05),右側肩関節屈曲では6.2±3.8cm右側と水平面上でのTh9に対するXPの位置のずれが少なくなる方向に移動した(p<0.05)。
【考察】
今回の検討により右側肩関節屈曲と左側肩関節屈曲で,胸郭の水平面上でみられる相反的な回転様の運動が生じたと推測する。これは,左右同レベルでの相反した肋骨の回旋運動が生じた動きであると考えられる。具体的には,安静位でみられた投影角に比較し右側肩関節屈曲で投影角が0°に近寄り,水平面上にてTh9に対してXPが右側へ移動することは胸郭形状の正中化を意味する。そして左側肩関節屈曲で投影角が大きくなり,水平面上にてTh9に対してXPがより左側へ移動することは胸郭形状の非対称性の増加を意味するものである。このことから,左右肩関節屈曲でそれぞれの質的な運動の相違が明らかになった。
肩関節の運動を再構築する理学療法においては以上の肩関節屈曲による胸郭の運動連鎖を考慮したアプローチが重要であると考える。また,肩関節疾患の病態メカニズムを確定する際は,左右肩関節では異なる運動連鎖が生じていることを加味する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖が示され,左右側で異なることが明らかになった。これは肩関節疾患に対する理学療法評価,アプローチの一助となることが期待できる。
我々は肩関節疾患に対する理学療法で肩関節の病態メカニズムを確定するため,肩関節を構成する関節間での連鎖,体幹や下肢からの影響などを考慮し肩関節の機能評価を行っている。特に胸郭に起こりやすい分節的な肋骨の配列変化は肩関節の機能に多大な影響を与える。
また上肢運動では左右側で胸郭に異なる運動連鎖が生じていると捉えている。左右側の上肢運動で胸郭に異なる運動連鎖が存在することは,肩関節疾患の病因が左右肩関節で異なる可能性があると言える。そのため,この運動連鎖を明らかにすることは肩関節疾患の病態メカニズムを確定する一助になると考える。
そこで本研究の目的は,肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖について検討することとした。
【方法】
対象者は脊柱や肩関節に既往のない健常成人男性10名(平均年齢22.7±1.5歳,平均身長171.3±5.4cm,平均体重64.8±7.8kg)とした。測定機器は3次元動作解析装置(VisualayezII VZ4050,PTI,BC,Canada)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした。LEDマーカーを体表上に定めた位置に貼付し,3次元空間座標を測定した。
測定課題は椅子座位で上肢下垂位(肘伸展位)から屈曲最終域までの肩関節屈曲運動とし,左右で測定を実施した。測定を実施する前に数度練習し,運動を習熟させた。LEDマーカー貼付位置は両肩峰,両手関節背側中央部,胸骨頚切痕(JN),胸骨剣状突起(XP),第9胸椎棘突起(Th9),第12胸椎棘突起(Th12)とした。肩関節屈曲角度は,手関節背側中央部と肩峰を結ぶ直線,肩峰を通る床への垂直線の2直線のなす矢状面上の角度とした。また,JNとXPの2点を結ぶ線を胸骨軸,Th9とTh12の2点を結ぶ線を脊柱軸と定義した。肩関節屈曲運動時の前額面上の脊柱軸に対する胸骨軸で形成される投影角と,水平面上のTh9に対するXPの位置を経時的に算出した。
また肩関節屈曲角度と前額面上の投影角,肩関節屈曲角度と水平面上のTh9に対するXPの位置の各々で散布図から近似直線を算出した。右側肩関節屈曲時,左肩関節屈曲時の近似直線の傾きの有意水準をχ²検定を用いて求めた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後に,測定を実施した。なお,本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
肩関節屈曲角度は右側156.5±6.2°,左側154.9±7.0°となった。前額面上の投影角の結果より,安静位では脊柱軸に対し胸骨軸は3.0.±0.7°右傾斜位にあった。左側肩関節屈曲では安静位でみられた右傾斜が7.0.±1.7°右傾斜位に増加していき(p<0.05),右側肩関節屈曲では右傾斜が減少していき0.8±0.9°左傾斜位となり投影角が0°に近づいていった(p<0.05)。また水平面上の結果より,安静位ではTh9に対してXPは11.7±2.7cm左側に位置していた。左側肩関節屈曲ではTh9に対してXPは24.9±5.1cm左側と安静よりさらに左側に移動していき(p<0.05),右側肩関節屈曲では6.2±3.8cm右側と水平面上でのTh9に対するXPの位置のずれが少なくなる方向に移動した(p<0.05)。
【考察】
今回の検討により右側肩関節屈曲と左側肩関節屈曲で,胸郭の水平面上でみられる相反的な回転様の運動が生じたと推測する。これは,左右同レベルでの相反した肋骨の回旋運動が生じた動きであると考えられる。具体的には,安静位でみられた投影角に比較し右側肩関節屈曲で投影角が0°に近寄り,水平面上にてTh9に対してXPが右側へ移動することは胸郭形状の正中化を意味する。そして左側肩関節屈曲で投影角が大きくなり,水平面上にてTh9に対してXPがより左側へ移動することは胸郭形状の非対称性の増加を意味するものである。このことから,左右肩関節屈曲でそれぞれの質的な運動の相違が明らかになった。
肩関節の運動を再構築する理学療法においては以上の肩関節屈曲による胸郭の運動連鎖を考慮したアプローチが重要であると考える。また,肩関節疾患の病態メカニズムを確定する際は,左右肩関節では異なる運動連鎖が生じていることを加味する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖が示され,左右側で異なることが明らかになった。これは肩関節疾患に対する理学療法評価,アプローチの一助となることが期待できる。