第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学4

2014年5月31日(土) 14:50 〜 15:40 第4会場 (3F 302)

座長:弓削類(広島大学大学院医歯薬保健学研究科基礎医学部門生体環境適応科学教室)

基礎 口述

[1066] 廃用性筋萎縮に伴う毛細血管退行に対するヌクレオプロテインによる栄養サポートを併用した荷重負荷の効果

平山佑介, 中西亮介, 藤野英己 (神戸大学大学院保健学研究科)

キーワード:栄養サポート, 荷重負荷, 廃用性筋萎縮

【はじめに,目的】
不活動により骨格筋は萎縮し,毛細血管も退行する。毛細血管の退行は筋持久力の低下を促し,さらに活動性の低下を惹起する。不活動時には筋活動の低下に伴い,エネルギーの需要量が低下し,栄養の取り込み量が減少する(Wall, 2013)。これを補うために不活動時にアミノ酸を摂取することで骨格筋萎縮を予防することが報告されており(Lomonosova, 2009),栄養サポートが必要であると考えられる。また,栄養サポートとしてヌクレオプロテインを用いた先行研究では,廃用性筋萎縮に伴う毛細血管の退行が予防されたが,骨格筋の萎縮は予防できなかった(Kanazawa, 2013)。一方,不活動時の荷重負荷が骨格筋萎縮を予防する報告があるが,その予防効果は限定的である(Dupont-Versteegden, 2002)。また,筋力増強や持久力向上を目的とした運動では,しばしば栄養サポートが用いられており,アミノ酸の摂取が運動による骨格筋タンパクの合成や毛細血管新生を促進すると報告されている(Suzuki, 2006;Pasiakos, 2012)。これらの報告から荷重負荷に加え,ヌクレオプロテイン摂取を併用することで,効果的な骨格筋萎縮及び毛細血管退行の予防ができるのではないかと考えられる。そこで本研究では,ラット後肢非荷重期間中の荷重負荷に栄養サポートとしてヌクレオプロテインを摂取させ,骨格筋萎縮及び毛細血管退行に及ぼす効果を検証した。
【方法】
9週齢の雄性SDラットを対照群(CON),後肢非荷重群(HU),ヌクレオプロテインを摂取した後肢非荷重群(HU+NP),後肢非荷重期間中に荷重負荷を与えた群(HUIR),ヌクレオプロテインを摂取し,後肢非荷重期間中に荷重負荷を与えた群(HUIR+NP)に分類した。ヌクレオプロテインは1日に体重1 kgに対して800 mgをゾンデで経口摂取させた。また,荷重負荷は1日当たり1時間実施した。7日間の後肢非荷重期間終了後,ヒラメ筋を摘出した。薄切切片を作製し,ATPase染色及びAlkaline Phosphatase染色を施した。それぞれの組織化学染色により筋線維タイプ別の筋線維横断面積(FCSA)と毛細血管筋線維比(C/F比)を測定した。また,酸化的酵素活性の指標としてクエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。
【結果】
FCSAはタイプIではHU群とHU+NP群がCON群と比較して有意に低値を示した。また,HUIR群及びHUIR+NP群は,それぞれHU群及びHU+NP群と比較して有意に高値を示した。タイプIIAではHU群とHU+NP群がCON群と比較して有意に低値を示し,HUIR+NP群がHU群及びHU+NP群と比較して有意に高値を示した。C/F比はHU群,HU+NP群,HUIR群はCON群と比較して有意に低値を示した。また,HUIR+NP群はHU群,HU+NP群,HUIR群と比較して有意に高値を示した。CS活性もC/F比と同様に,HU群,HU+NP群,HUIR群はCON群と比較して有意に低値を示したが,HUIR+NP群はHU群,HU+NP群,HUIR群と比較して有意に高値を示した。
【考察】
不活動期間中の荷重負荷に栄養サポートとしてヌクレオプロテインを摂取することが骨格筋萎縮のみならず,毛細血管退行を予防する方法として有効であることが明らかとなった。毛細血管の退行には筋活動の低下により酸化的酵素活性が低下し,酸素需要量が低下することが関連している。本研究では酸化的酵素活性を維持したことで,毛細血管退行を予防できたと考えられる。一方,ヌクレオプロテインの摂取のみでは毛細血管退行の予防はできなかった。Kanazawaら(2013)による報告では,ヌクレオプロテインの摂取のみで毛細血管退行を予防できたが,その相違点として本研究ではヌクレオプロテインの摂取が少量であったことが挙げられる。一方,アミノ酸の取り込みは運動によって促進することが報告されている(Shimomura, 2004)。本研究では荷重負荷によりヌクレオプロテインに含まれるアミノ酸が作用して,酸化的酵素活性を維持し,毛細血管退行を予防できたと考えられる。また,栄養の過剰摂取は脂肪の蓄積を惹起するが,本研究では荷重負荷との併用により少量の摂取で毛細血管退行を予防できた。
【理学療法学研究としての意義】
廃用性筋萎縮の予防には荷重負荷だけでなく,栄養サポートを取り入れることにより,筋萎縮のみならず毛細血管退行の予防効果が得られることが明らかとなった。筋の持久性低下の予防を考慮した理学療法につながると考えられ,当該分野において意義ある結果と考える。