[1068] α1受容体活性化による収縮に関与する受容体サブタイプはラットの膝窩動脈と膝窩静脈で異なっている
キーワード:膝窩動脈, 膝窩静脈, a アドレナリン受容体サブタイプ
【はじめに,目的】交感神経より遊離されるノルアドレナリン(NAd)は血管平滑筋細胞のa-アドレナリン受容体(a-AR)とb-ARに作用することにより,血管のトーヌスを調節している。血管平滑筋細胞において,NAdが活性化するa-ARにはa1-ARとa2-ARの2種があり,さらに,a1-ARはa1A-AR,a1B-ARのa1D-ARの3種のサブタイプよりなる。全身の種々の臓器に分布する血管の平滑筋細胞に存在するこれらのサブタイプ受容体の種類は,その臓器によって異なっており,交感神経による臓器特異的な血流分配を調節している。また,糖尿病を発症した重症下肢虚血疾患の患者では,a-ARによる下肢血管の収縮反応が亢進しているとの報告もあり,種々の臓器での血管収縮に関与しているa受容体サブタイプを明らかにすることは,循環器疾患患者の治療やリハビリテーション法を考える上で極めて重要である。しかしながら,種々の下肢疾患病態と下肢血管に局在するARサブタイプの機能変化との関係は未だ不明な点が多い。これらの点を明らかにするため,我々は,正常ラットの膝窩動脈および膝窩静脈におけるa1-AR活性化による収縮に関与するサブタイプ受容体について検討した。
【方法】
実験には,8-9週齢のWistar系雄性ラット(体重263±21 g)を使用した。ラットをセボフルレンにて麻酔後,腸骨動脈切断により瀉血,致死させた。その後,膝窩動脈・膝窩静脈を摘出し,実体顕微鏡下にてステンレスピンで血管の内皮細胞を注意深く除去し,内皮除去輪状標本を作製した。標本を37℃に保温し,5% CO2+95% O2を通気した張力測定用チャンバーにセットし,等尺性張力を測定した。全ての実験はグアネチジン(5 mM:交感神経からのNAd遊離を阻害するため)とジクロフェナク(3 mM:プロスタグランジン合成阻害のため)を含むKrebs溶液中で行った。まず,過剰K+(70 mM)による収縮反応を記録した。次に,a1-ARアゴニストであるフェニレフリン(PE:10-7-10-5 M)を累積投与しコントロールとしての濃度依存性反応を取得後,a1A選択的アンタゴニストであるシロドシン(5 pM,10 pM,30 pM),a1B選択的アンタゴニストであるL-765,314(1 nM,3 nM,10 nM),またはa1D選択的アンタゴニストであるBMY7378(10 nM,30 nM,100 nM)存在下でPEの濃度依存性反応を取得した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った。
【結果】
高K+-溶液とPE(10 µM)は膝窩動脈と膝窩静脈をともに収縮させたが,その発生張力は膝窩静脈より膝窩動脈が大きかった(P<0.001)。シロドシン(5 pM,10 pM,30 pM)は,膝窩動脈でのPE収縮を有意に抑制したが(P<0.001),膝窩静脈でのPE収縮に影響を与えなかった(P>0.05)。一方,L-765,314(1 nM,3 nM,10 nM)は,膝窩静脈でのPE収縮を1nMから濃度依存性に抑制した(P<0.001)が,膝窩動脈でのPE収縮には10 nMでも影響を与えなかった。BMY7378(10 nM,30 nM,100 nM)は,膝窩動脈と膝窩静脈でのPE収縮をともに抑制した(P<0.001)。
【考察】
第48回学術大会において,ラット膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋におけるa1-ARの活性化は収縮を発生させるが,一方,a2-ARの活性化は収縮を発生させないことを報告した。今回,我々は,膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのa1-ARによる収縮に関与するa1-ARサブタイプが異なっていることを明らかにした。
a1A選択的アンタゴニストのシロドシンは膝窩動脈平滑筋でPE-収縮を抑制したが,膝窩静脈平滑筋でのPE-収縮に影響を与えなかった。一方,a1B選択的アンタゴニストのL-765,314は,膝窩静脈平滑筋でのみPE収縮を抑制し,更に,a1D選択的アンタゴニストであるBMY7378は,膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのPE収縮をともに抑制した。これらの結果より,ラット膝窩動脈平滑筋では,a1A-ARとa1D-ARが,膝窩静脈平滑筋ではa1B-ARとa1D-ARがPE収縮に関与していることが明らかとなった。以上のことより,膝窩動脈と膝窩静脈は異なったa-ARサブタイプを使用して末梢循環の調節を行っている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
リハビリテーションによる身体構造・機能の向上を考えていく上で,血管トーヌスの調節機能を理解することは重要であると考えられ,本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。
【方法】
実験には,8-9週齢のWistar系雄性ラット(体重263±21 g)を使用した。ラットをセボフルレンにて麻酔後,腸骨動脈切断により瀉血,致死させた。その後,膝窩動脈・膝窩静脈を摘出し,実体顕微鏡下にてステンレスピンで血管の内皮細胞を注意深く除去し,内皮除去輪状標本を作製した。標本を37℃に保温し,5% CO2+95% O2を通気した張力測定用チャンバーにセットし,等尺性張力を測定した。全ての実験はグアネチジン(5 mM:交感神経からのNAd遊離を阻害するため)とジクロフェナク(3 mM:プロスタグランジン合成阻害のため)を含むKrebs溶液中で行った。まず,過剰K+(70 mM)による収縮反応を記録した。次に,a1-ARアゴニストであるフェニレフリン(PE:10-7-10-5 M)を累積投与しコントロールとしての濃度依存性反応を取得後,a1A選択的アンタゴニストであるシロドシン(5 pM,10 pM,30 pM),a1B選択的アンタゴニストであるL-765,314(1 nM,3 nM,10 nM),またはa1D選択的アンタゴニストであるBMY7378(10 nM,30 nM,100 nM)存在下でPEの濃度依存性反応を取得した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った。
【結果】
高K+-溶液とPE(10 µM)は膝窩動脈と膝窩静脈をともに収縮させたが,その発生張力は膝窩静脈より膝窩動脈が大きかった(P<0.001)。シロドシン(5 pM,10 pM,30 pM)は,膝窩動脈でのPE収縮を有意に抑制したが(P<0.001),膝窩静脈でのPE収縮に影響を与えなかった(P>0.05)。一方,L-765,314(1 nM,3 nM,10 nM)は,膝窩静脈でのPE収縮を1nMから濃度依存性に抑制した(P<0.001)が,膝窩動脈でのPE収縮には10 nMでも影響を与えなかった。BMY7378(10 nM,30 nM,100 nM)は,膝窩動脈と膝窩静脈でのPE収縮をともに抑制した(P<0.001)。
【考察】
第48回学術大会において,ラット膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋におけるa1-ARの活性化は収縮を発生させるが,一方,a2-ARの活性化は収縮を発生させないことを報告した。今回,我々は,膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのa1-ARによる収縮に関与するa1-ARサブタイプが異なっていることを明らかにした。
a1A選択的アンタゴニストのシロドシンは膝窩動脈平滑筋でPE-収縮を抑制したが,膝窩静脈平滑筋でのPE-収縮に影響を与えなかった。一方,a1B選択的アンタゴニストのL-765,314は,膝窩静脈平滑筋でのみPE収縮を抑制し,更に,a1D選択的アンタゴニストであるBMY7378は,膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのPE収縮をともに抑制した。これらの結果より,ラット膝窩動脈平滑筋では,a1A-ARとa1D-ARが,膝窩静脈平滑筋ではa1B-ARとa1D-ARがPE収縮に関与していることが明らかとなった。以上のことより,膝窩動脈と膝窩静脈は異なったa-ARサブタイプを使用して末梢循環の調節を行っている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
リハビリテーションによる身体構造・機能の向上を考えていく上で,血管トーヌスの調節機能を理解することは重要であると考えられ,本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。