[1070] Stanford type A急性大動脈解離術後患者における回復期心大血管疾患リハビリテーションと遠隔期血管イベントとの関連
キーワード:急性大動脈解離, 回復期心大血管疾患リハビリテーション, 血管イベント
【はじめに,目的】
近年,Stanford type A急性大動脈解離(AAD)術後患者の入院死亡率は,依然10~35%程度と高いものの,自宅退院可能であったStanford type A AAD術後患者の5年生存率は88%と高値である事が報告されている。一方で,自宅退院可能となるStanford type A AAD術後患者の多くは,長期間の周術期管理により長期臥床を余儀なくされ,骨格筋機能や運動耐容能をはじめとする身体機能の低下が著しいのが現状である。そのため,入院期より身体機能の改善ならびに自宅復帰や社会復帰を目的とした急性期心大血管疾患リハビリテーション(心大血管リハ)が行われている。また,Stanford type A AAD術後患者は,偽腔拡大や再解離の予防に向け,退院後も厳密な血圧管理が重要とされているが,回復期心大血管リハの効果に関する検討は極めて少ないのが現状である。そこで,本研究は,Stanford type A AAD術後患者に対する回復期心大血管リハの遠隔期血管イベントに対する影響を検討することとした。
【方法】
対象は2006年より2011年10月の間に当院にて急性大動脈解離に対する人工血管置換術を施行したStanford type A AAD術後患者連続330例(男性173例,女性158例,年齢66±13歳)とした。これらのStanford type A AAD術後患者を回復期心大血管リハに参加した53例(phaseIICR群:男性34例,女性19例,年齢62±12歳)と回復期心大血管リハに参加しなかった273例(対照群:男性137例,女性136例,年齢67±12歳)の2群に分類した。
尚,本研究では,Stanford type B AAD術後患者,マルファン症候群は対象より除外した。
PhaseIICR群は,週1~2回,3か月間,心肺運動負荷試験にもとづく運動処方もしくは運動開始時収縮期血圧130mmHg未満,運動療法中収縮期血圧150mmHg未満という運動療法の基準に基づいた監視型運動療法ならびに血圧管理に焦点を当てた疾病管理指導を含む回復期心大血管リハプログラムを施行するとともに,自宅においても適切な血圧管理下のもと運動処方にもとづく運動療法を継続するように指導した。一方,対照群は入院期間中に指導された血圧管理方法にもとづく疾病管理を継続した。
本研究では,回復期心大血管リハの安全性の調査のため,術後6か月時の大動脈拡大,再解離の有無を調査するとともに,遠隔期の心血管イベント発症の調査として,さらに術後1年後までの大動脈拡大,再解離の有無ならびに術後2年以内の再入院の有無を血管由来,心臓由来に分類して調査した。統計学的手法として,両群間の患者背景因子の比較には対応のないt検定,カイ二乗検定,心血管イベント発症の比較には,カイ二乗検定,カプランマイヤー曲線ならびにログランク検定を用いて解析を行った。全ての統計学的解析はSPSS 19.0を用いて,有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を実施するにあたり,当院倫理委員会の承認を得た。また,本研究の参加に対して,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に従って,事前に研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。
【結果】
PhaseIICR群と対照群の術後6か月以内の心血管イベント発症率には有意差を認めなかった(動脈拡大:phaseIICR群vs.対照群:9% vs. 13%;p=0.467),(再解離:2% vs. 1%;p=0.461)。同様に術後1年以内の心血管イベント発症率には有意差を認めなかった(動脈拡大:8% vs. 7%;p=0.766),(再解離:0% vs. 1%;p=0.998)。また,術後2年以内の再入院も両群間で有意差を認めず(Log rank test;p=0.720),再入院の理由別の比較においても,同様に両群間で有意差を認めなかった(血管由来:8% vs. 10%;p=0.799),(心臓由来:3% vs. 2%;p=0.392)。
【考察】
厳格な血圧管理のもと施行されるStanford type A AAD術後患者に対する回復期心大血管リハは,少なくとも心血管イベント発症助長するものではなく,適切な管理のもと実施するうえでは安全に施行可能と示唆された。一方,本研究では虚血性心疾患や心不全患者で示されている,包括的回復期心大血管リハによる遠隔期のイベント抑制効果は認めなかった。
【理学療法学研究としての意義】
動脈硬化を主体とする心血管疾患患者が増加しており,とくにStanford type A AAD術後患者は,高齢者に多いため,退院後も回復期心大血管リハを継続し,身体機能や日常生活動作を再獲得していく事は重要である。本研究はStanford type A AAD術後患者に対する厳格な血圧管理下で行われる回復期心大血管リハが安全に施行可能である事が示しており,Stanford type A AAD術後患者に対する理学療法介入の礎となると考える。
近年,Stanford type A急性大動脈解離(AAD)術後患者の入院死亡率は,依然10~35%程度と高いものの,自宅退院可能であったStanford type A AAD術後患者の5年生存率は88%と高値である事が報告されている。一方で,自宅退院可能となるStanford type A AAD術後患者の多くは,長期間の周術期管理により長期臥床を余儀なくされ,骨格筋機能や運動耐容能をはじめとする身体機能の低下が著しいのが現状である。そのため,入院期より身体機能の改善ならびに自宅復帰や社会復帰を目的とした急性期心大血管疾患リハビリテーション(心大血管リハ)が行われている。また,Stanford type A AAD術後患者は,偽腔拡大や再解離の予防に向け,退院後も厳密な血圧管理が重要とされているが,回復期心大血管リハの効果に関する検討は極めて少ないのが現状である。そこで,本研究は,Stanford type A AAD術後患者に対する回復期心大血管リハの遠隔期血管イベントに対する影響を検討することとした。
【方法】
対象は2006年より2011年10月の間に当院にて急性大動脈解離に対する人工血管置換術を施行したStanford type A AAD術後患者連続330例(男性173例,女性158例,年齢66±13歳)とした。これらのStanford type A AAD術後患者を回復期心大血管リハに参加した53例(phaseIICR群:男性34例,女性19例,年齢62±12歳)と回復期心大血管リハに参加しなかった273例(対照群:男性137例,女性136例,年齢67±12歳)の2群に分類した。
尚,本研究では,Stanford type B AAD術後患者,マルファン症候群は対象より除外した。
PhaseIICR群は,週1~2回,3か月間,心肺運動負荷試験にもとづく運動処方もしくは運動開始時収縮期血圧130mmHg未満,運動療法中収縮期血圧150mmHg未満という運動療法の基準に基づいた監視型運動療法ならびに血圧管理に焦点を当てた疾病管理指導を含む回復期心大血管リハプログラムを施行するとともに,自宅においても適切な血圧管理下のもと運動処方にもとづく運動療法を継続するように指導した。一方,対照群は入院期間中に指導された血圧管理方法にもとづく疾病管理を継続した。
本研究では,回復期心大血管リハの安全性の調査のため,術後6か月時の大動脈拡大,再解離の有無を調査するとともに,遠隔期の心血管イベント発症の調査として,さらに術後1年後までの大動脈拡大,再解離の有無ならびに術後2年以内の再入院の有無を血管由来,心臓由来に分類して調査した。統計学的手法として,両群間の患者背景因子の比較には対応のないt検定,カイ二乗検定,心血管イベント発症の比較には,カイ二乗検定,カプランマイヤー曲線ならびにログランク検定を用いて解析を行った。全ての統計学的解析はSPSS 19.0を用いて,有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を実施するにあたり,当院倫理委員会の承認を得た。また,本研究の参加に対して,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に従って,事前に研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。
【結果】
PhaseIICR群と対照群の術後6か月以内の心血管イベント発症率には有意差を認めなかった(動脈拡大:phaseIICR群vs.対照群:9% vs. 13%;p=0.467),(再解離:2% vs. 1%;p=0.461)。同様に術後1年以内の心血管イベント発症率には有意差を認めなかった(動脈拡大:8% vs. 7%;p=0.766),(再解離:0% vs. 1%;p=0.998)。また,術後2年以内の再入院も両群間で有意差を認めず(Log rank test;p=0.720),再入院の理由別の比較においても,同様に両群間で有意差を認めなかった(血管由来:8% vs. 10%;p=0.799),(心臓由来:3% vs. 2%;p=0.392)。
【考察】
厳格な血圧管理のもと施行されるStanford type A AAD術後患者に対する回復期心大血管リハは,少なくとも心血管イベント発症助長するものではなく,適切な管理のもと実施するうえでは安全に施行可能と示唆された。一方,本研究では虚血性心疾患や心不全患者で示されている,包括的回復期心大血管リハによる遠隔期のイベント抑制効果は認めなかった。
【理学療法学研究としての意義】
動脈硬化を主体とする心血管疾患患者が増加しており,とくにStanford type A AAD術後患者は,高齢者に多いため,退院後も回復期心大血管リハを継続し,身体機能や日常生活動作を再獲得していく事は重要である。本研究はStanford type A AAD術後患者に対する厳格な血圧管理下で行われる回復期心大血管リハが安全に施行可能である事が示しており,Stanford type A AAD術後患者に対する理学療法介入の礎となると考える。