第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸8

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:宮崎慎二郎(KKR高松病院リハビリテーションセンター)

内部障害 ポスター

[1106] 急性心筋梗塞および重症僧帽弁閉鎖不全症による心原性肺水腫に重症呼吸不全を合併した患者に対して腹臥位を含む理学療法介入が肺高血圧症緩和に有効であった一症例

佐々木康介1, 皿田和宏1, 對東俊介1, 河江敏広1, 関川清一2, 儀賀普嗣3, 太田浩平3, 植田一幸1, 伊藤義広1, 木村浩彰4 (1.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院, 3.広島大学病院高度救命救急センター・ICU, 4.広島大学病院リハビリテーション科)

Keywords:腹臥位, 循環動態, 肺高血圧症

【はじめに,目的】
腹臥位療法は急性呼吸促迫症候群患者の酸素化を改善し,死亡率を減少させる(Guérin C,et al 2013)。しかし肺高血圧症をきたした症例に対して安全で有効であるとの根拠はない。
今回,急性心筋梗塞後に重症の僧帽弁閉鎖不全症(MR:Mitral Regurgi-tation)を併発し,重症の肺高血圧症となった患者を担当した。腹臥位を含んだ体位呼吸療法を実施し,良好な転帰を迎えることに寄与できたと思われる症例を経験したので考察を加えて報告する。
【方法】
(症例)70歳代女性。身長:151.6cm。入室時体重:68.9kg。BMI:29.9kg/cm2。(診断名)急性心筋梗塞,MR,肺高血圧症,心原性肺水腫,敗血症性ショック,肺炎。(既往歴)アナフィラキシーショック(造影剤による急性肺水腫),左外耳道腫瘤,変形性膝関節症,白内障,高血圧症,糖尿病。(入院前ADL)家事動作を含め全面的に自立。日課は約500m程度の散歩。(治療経過)突然の胸痛と呼吸苦が出現したため救急要請し,当院高度救命救急センターに搬送された。急性心筋梗塞と診断し,挿管下人工呼吸器管理を開始したところで,心停止の状態となった。心肺蘇生法を行い一旦は同調律に復帰したが,致死性不整脈になることを繰り返した。抗不整脈薬投与等により約1時間で呼吸循環動態は致死的状況から回復した。蘇生に長時間を要したため,24時間の低体温療法を施行した。造影剤による肺水腫の既往のためリスクが高く,発症からの時間経過が長かったため治療効果が得られにくいと考え,カテーテル検査は実施しなかった。第2,3病日に呼吸器合併症予防目的に,左右完全側臥位と45°Head upによる体位呼吸療法を実施した。第3病日の心臓超音波検査で重症MRと診断したため,第4病日より大動脈内バルーンパンピングを挿入し循環補助を行った。しかし肺高血圧症と心原性肺水腫を合併したため肺動脈圧は80/40mmHg台と高値を認めた。さらに,肺炎からの重症感染症による敗血症性ショックとなり尿量低下を認めたため,第4,第5病日にエンドトキシン吸着療法を,第4病日から第6病日まで持続的血液濾過透析を実施した。この間は,循環動態不安定のため体位呼吸療法を休止した。覚醒すると血圧が著明に増加し,後負荷上昇による肺高血圧症が増悪するため,第9病日に鎮静剤および交感神経β受容体遮断薬を増量した。同日から循環動態が安定したため,完全側臥位の体位呼吸療法を再開した。IABPを抜去した第10病日に撮影したCTで両側背側に無気肺および胸水を認めた。同日から17病日まで無気肺および酸素化の改善目的に,腹臥位療法を実施した。1日の腹臥位実施時間は3.5±1.7時間であった。第20病日に気管切開術を施行し,第30病日から車いす座位練習を開始した。第32病日に人工呼吸器から離脱し第61病日に他院へ転院した。
【倫理的配慮,説明と同意】
発表の趣旨と目的を本人,家族に説明し,書面による同意を得た。
【結果】
肺動脈圧は第11病日腹臥位実施前は75/43mmHg,腹臥位終了直後は53/33 mmHgであった。P/F比は第10病日で190,第18病日で272と体位呼吸療法の継続とともに上昇した。腹臥位中に灰白色年稠性痰を回収し,聴診で下葉の複雑音を聴取しなくなった。
腹臥位後30分,40分,50分,60分,70分,80分,90分の各時点での心拍出量は6.1,5.2,4.7,4.4,5.0,4.9,4.7(L/min),連続心係数は3.7,3.1,2.8,2.7,3.0,3.0,2.8(L/min/m2)であった。腹臥位中の収縮期血圧は110~120mmHgを推移していた。
転院時Barthel indexは15/100点,改訂長谷川式知能評価スケールは19/30点であった。
【考察】
本症例は安静臥床や心原性肺水腫によって肺胞内浸出液や痰貯留のため背側無気肺を生じていた。そのため低酸素性肺血管収縮を広範囲に生じ,肺高血圧症が増悪したと考える。
腹臥位を含む体位呼吸療法により,背側肺胞からの分泌物排出や虚脱肺胞の再拡張が得られる。それに伴い肺胞気酸素分圧が上昇することで酸素化改善や肺動脈血管拡張による肺高血圧症の緩和が期待できると考えた。
また,腹臥位では下大静脈の圧迫や胸腔内圧上昇によって静脈環流量が低下し,心拍出量が低下する。それにより前負荷が軽減し肺高血圧症および肺水腫の軽減につながった可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
病態や循環動態を考慮して早期から腹臥位や完全側臥位の体位呼吸療法を実施することで肺高血圧症の緩和に寄与できる可能性がある。