第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸8

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:宮崎慎二郎(KKR高松病院リハビリテーションセンター)

内部障害 ポスター

[1111] ARDS後の回復過程に呼吸リハビリテーションを継続し復職に至った1症例

辻洋文, 中西憂菜, 丹羽亜希美, 徳富真洋, 江口典孝 (大阪府済生会泉尾病院)

Keywords:呼吸機能, 運動耐容能, 患者教育

【はじめに,目的】
急性呼吸促迫症候群(以下ARDS)ではびまん性肺胞障害により線維化などのリモデリングが認められ,拘束性換気障害や低酸素血症の後遺症を残すことがある。今回,肺炎球菌性肺炎を契機にARDSとなり,炎症鎮静後,著明な拘束性換気障害と運動誘発性低酸素血症(以下EIH)を認めた症例を担当した。薬物治療後,呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)を継続し,呼吸機能と運動耐容能の改善,動作のセルフコントロールの獲得により自宅退院し復職可能となった。本症例を通じて,ARDS後の回復過程における呼吸リハの効果について検討する。
【方法】
対象:50歳代男性。運送業務に従事。咳嗽,発熱が続き当院受診,肺炎球菌性肺炎と呼吸不全認め当院入院。抗生剤投与とリザーバーマスク8l/minにて酸素療法開始したがARDSを合併,インスピロンネブライザーFIO250%でP/Fratio97.8まで酸素化が悪化した。第5病日より理学療法介入,高熱と咳嗽が続き,排痰介助やコンディショニングを中心に実施した。第34病日に抗生剤治療終了となったが,オキシマイザー2l/minでの酸素療法が必要であり呼吸器症状が強く残存していた。CT所見では両側の間質性陰影と両肺底区に牽引性気管支拡張が認められ線維化進行が疑われた。聴診では両肺底区で肺胞呼吸音減弱,吸気時捻髪音を確認した。呼吸様式は胸式優位で頚部呼吸補助筋の収縮を伴い,腹筋群は過緊張であった。動作時の咳嗽とEIHを認め,30mの歩行器歩行でSpO297%から87%へ低下した。復職を目標に以下の方法で呼吸リハを継続した。
方法:①胸式呼吸パターンの修正・呼吸機能改善を目的に腹筋群の筋緊張緩和と横隔膜・肋間筋トレーニングを行った。また両肺底区の換気改善を目的に腹臥位で深吸気に合わせて肺底区へ呼吸介助を行い,聴診で確認しながら吸気流速を調節した。
②運動耐容能改善を目的に筋力トレーニングと自転車エルゴメーターを実施した。運動負荷はカルボーネン法を用いて運動強度50%に設定した。咳嗽や低酸素血症が生じないように呼吸リズム調整と酸素投与を行った。運動時間は段階的に15分まで延長し,週3~4回の頻度で行った。
③動作のセルフコントロール獲得を目的に動作指導と患者教育を実施した。呼吸機能・運動耐容能改善に合わせて運動と呼吸リズムの調整と指導を行った。SpO2低下の自覚症状が乏しかった為,脈拍とSpO2値の関係を評価し,患者には自己検脈しながらSpO2値を予測させ,休息のタイミングや負荷調整が適切に行えるよう反復練習させた。
評価:呼吸パターン・呼吸機能は,身体所見,胸郭拡張差,肺機能検査で評価した。肺病変は画像所見で確認し,酸素化能,ガス交換能の指標にはP/Fratio,A-aDO2を用いた。運動耐容能とEIHは6分間歩行テストを行い歩行距離(以下6MD)とSpO2により評価した。動作のセルフコントロールについては動作中に低酸素血症が生じていないか適宜確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院規定用紙に沿って説明を行い同意と承認を得た。
【結果】
胸郭拡張差(深呼吸時)は腋下高:22mmから25mm,剣状突起高:23mmから33mm,第10肋骨高:20mmから34mmへ改善した。%VCは45.2%から65.0%,%FEV1は54.0%から70.5%,%MVVは65.1%から97.1%へ換気機能改善を認めた。腹筋群の過緊張は軽減し腹式優位の呼吸パターンとなった。聴診では両下葉の捻髪音は消失し肺胞呼吸音が増強した。P/Fratioは312から431,A-aDO2は25.3から4.6となり,第75病日酸素療法離脱に至った。6MDは206mから565mと運動耐容能は改善したがEIHは残存した。速歩や階段昇降,応用動作ではSpO280%台へ低下を認めたが,自己検脈を行いながら動作スピードやリズムを調整し,適切に休息をとることでSpO290%台を維持して動作が可能となり,第85病日自宅退院し復職した。
【考察】
本症例では,肺底区を中心とした繊維化と肺胞換気低下によって拡散障害や換気血流不均等の存在が推察される。病変の回復過程において肺底区への換気促進と横隔膜を利用した呼吸パターンへの修正は換気血流不均等の改善に繋がったと考える。拘束性換気障害とEIHは残存したが,早期から呼吸器症状に合わせた段階的な運動療法実施と患者教育による動作のセルフコントロール獲得が復職達成を可能にしたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本症例においてARDS後の回復過程に合わせた呼吸リハは,呼吸機能や運動耐用能の改善と共にQOL向上に効果的であった。今後症例を重ねてより適切なアプローチを検討していく必要がある。