[1125] 人工膝関節全置換術患者における術前後のADL変化,および各時期のADLに関連する因子の検討
キーワード:人工膝関節全置換術, 変形性膝関節症, 日常生活動作
【はじめに,目的】
変形性膝関節症患者に対する治療の1つとして人工膝関節全置換術(以下TKA)がある。当院では,膝外傷および変形性膝関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:以下KOOS)を使用し,TKA術前・術後の患者にアンケート調査を行っている。理学療法施行上,日常生活動作(以下ADL)は最も重要視する指標の1つである。本研究の目的は,TKA術前後のADL変化,および術前後のADLに関連を与える因子を調査することである。今回ADLの評価としてKOOSの中の日常生活の項目(以下K-A)を使用し検討することとした。
【方法】
対象は当院にてTKAを施行された33例33膝(男性6例,女性27例)とした。属性は年齢75.4±6.2歳,身長151.9±8.6cm,体重58.5±13.4kg,Body Math Index(以下BMI)25.2±4.9(各 平均±標準偏差)であった。対象者は当院のTKAプロトコールに準じ,術翌日より両下肢荷重,関節可動域(range of motion以下ROM)練習,膝セッティング,2日目より全荷重・歩行練習を行い,入院期間は22.3±6.0日であった。ADL評価にはK-A(17項目,各0-4点,百分率で表記,割合の高い方が良好)を使用し,術側膝疼痛の評価にはVisual Analog Scale(以下VAS)を使用した。K-A,VASは術前,術後1ヶ月(以下1M),術後3ヶ月(以下3M)に紙面でアンケート調査した。その他測定項目は,術前,1M,3Mにおける年齢,BMI,術側膝関節自動・他動屈曲伸展ROM,術側膝伸展筋力,術側SLR筋力とした。疼痛の内訳として,KOOSの中の痛みの項目(9項目,以下K-P)を調査した。筋力はHand-held dynamometer(アニマ社製µTas F-1)を使用し,膝伸展は端座位,SLRは背臥位にて各2回測定し,その平均値を体重で除し筋力体重比を算出した。統計学的処理は,K-A,VASにおける術前,1M,3Mでの比較にFriedman検定を用いた。さらに,術前,1M,3MのK-Aと各測定項目との相関の検討にはSpearman順位相関係数検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての対象に研究の目的と内容を説明し,同意を得たうえで計測を行った。本研究はヘルシンキ宣言に沿っており,当院の倫理審査委員会の承認(承認番号:第24-28号)を受け実施した。
【結果】
K-A(%)は術前:37.0(33.5to47.5),1M:45.0(38.0to54.5),3M:52.0(43.5to55.5)。VAS(cm)は術前:4.8(2.8to7.2),1M:3.5(1.9to4.8),3M:1.4(0.6to2.2)。膝自動伸展ROM(°)は術前:-10.0(-10.0to-5.0),1M:-5.0(-10.0to-5.0),3M:-5.0(-10.0to0.0)。膝他動伸展ROM(°)は術前:-5.0(-10.0to0.0),1M:0.0(-5.0to0.0),3M:0.0(-5.0to0.0)。膝自動屈曲ROM(°)は術前:115.0(105.0to130.0),1M:105.0(97.5to115.0),3M:115.0(107.5to120.0)。膝他動屈曲ROM(°)は術前:125.0(115.0to140.0),1M:115.0(110.0to122.5),3M:120.0(115.0to125.0)。膝伸展筋力体重比(N/kg)は術前:2.7(2.2to3.2),1M:1.9(1.5to2.4),3M:3.0(2.3to3.2)。SLR筋力体重比(N/kg)は術前:1.0(0.8to1.6),1M:1.1(0.7to1.3),3M:1.2(0.9to1.5)。(各 中央値,IQR)。統計学的に有意差が認められたのは,K-Aの術前と3M(p<0.01),VASの術前と1M(p<0.05),1Mと3M(p<0.01),術前と3M(p<0.01)であった。相関が認められたのは術前のK-AとVAS(rs=-0.68),3MのK-AとVAS(rs=-0.63)であった。K-Pの質問項目で最低値であったのは,術前は「階段を上り下りする時」,1M・3Mは「膝を完全に曲げる時」であり,最高値は,術前・3Mは「座っている時や横になっている時」,1Mは「平らな場所を歩く時」であった。
【考察】
TKAでは1Mの時点で術前よりもADLが向上する傾向にあり,3Mで有意に術前よりも向上することが示唆された。術前,1M,3Mにおいて術側膝ROM,筋力はADLへの影響は少なく,術前,3Mにおいて疼痛がADLに強く影響を及ぼすことが示唆された。VASの結果より,術側膝疼痛は1M,3Mと経過とともに有意に減少している。疼痛はADL動作全般に影響を与える可能性が高いため,K-Aと強く関連したと考えた。K-Pの質問項目より術後の平地での歩行は比較的疼痛が少ない動作であることが分かる。TKAは術後早期から荷重・歩行練習が可能であり,歩行時の疼痛が少ないことは歩行獲得の一助となり,ADLの向上に寄与したのではないかと考える。1Mは退院時期に近いことから,積極的な外出や家事動作を行っていない可能性があり,疼痛とK-Aに関連が認められなかったのではないかと考えた。今回の結果より,ADL向上を図るためには膝関節痛に対するアプローチが重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ADLの評価としてKOOSを使用し,TKAの3Mでは疼痛がADLに影響を及ぼしており,ROMや筋力は影響が低いことを示した。そのため,TKAにおいてADLの向上を図るためには,疼痛管理が重要であることが示唆された。
変形性膝関節症患者に対する治療の1つとして人工膝関節全置換術(以下TKA)がある。当院では,膝外傷および変形性膝関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:以下KOOS)を使用し,TKA術前・術後の患者にアンケート調査を行っている。理学療法施行上,日常生活動作(以下ADL)は最も重要視する指標の1つである。本研究の目的は,TKA術前後のADL変化,および術前後のADLに関連を与える因子を調査することである。今回ADLの評価としてKOOSの中の日常生活の項目(以下K-A)を使用し検討することとした。
【方法】
対象は当院にてTKAを施行された33例33膝(男性6例,女性27例)とした。属性は年齢75.4±6.2歳,身長151.9±8.6cm,体重58.5±13.4kg,Body Math Index(以下BMI)25.2±4.9(各 平均±標準偏差)であった。対象者は当院のTKAプロトコールに準じ,術翌日より両下肢荷重,関節可動域(range of motion以下ROM)練習,膝セッティング,2日目より全荷重・歩行練習を行い,入院期間は22.3±6.0日であった。ADL評価にはK-A(17項目,各0-4点,百分率で表記,割合の高い方が良好)を使用し,術側膝疼痛の評価にはVisual Analog Scale(以下VAS)を使用した。K-A,VASは術前,術後1ヶ月(以下1M),術後3ヶ月(以下3M)に紙面でアンケート調査した。その他測定項目は,術前,1M,3Mにおける年齢,BMI,術側膝関節自動・他動屈曲伸展ROM,術側膝伸展筋力,術側SLR筋力とした。疼痛の内訳として,KOOSの中の痛みの項目(9項目,以下K-P)を調査した。筋力はHand-held dynamometer(アニマ社製µTas F-1)を使用し,膝伸展は端座位,SLRは背臥位にて各2回測定し,その平均値を体重で除し筋力体重比を算出した。統計学的処理は,K-A,VASにおける術前,1M,3Mでの比較にFriedman検定を用いた。さらに,術前,1M,3MのK-Aと各測定項目との相関の検討にはSpearman順位相関係数検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての対象に研究の目的と内容を説明し,同意を得たうえで計測を行った。本研究はヘルシンキ宣言に沿っており,当院の倫理審査委員会の承認(承認番号:第24-28号)を受け実施した。
【結果】
K-A(%)は術前:37.0(33.5to47.5),1M:45.0(38.0to54.5),3M:52.0(43.5to55.5)。VAS(cm)は術前:4.8(2.8to7.2),1M:3.5(1.9to4.8),3M:1.4(0.6to2.2)。膝自動伸展ROM(°)は術前:-10.0(-10.0to-5.0),1M:-5.0(-10.0to-5.0),3M:-5.0(-10.0to0.0)。膝他動伸展ROM(°)は術前:-5.0(-10.0to0.0),1M:0.0(-5.0to0.0),3M:0.0(-5.0to0.0)。膝自動屈曲ROM(°)は術前:115.0(105.0to130.0),1M:105.0(97.5to115.0),3M:115.0(107.5to120.0)。膝他動屈曲ROM(°)は術前:125.0(115.0to140.0),1M:115.0(110.0to122.5),3M:120.0(115.0to125.0)。膝伸展筋力体重比(N/kg)は術前:2.7(2.2to3.2),1M:1.9(1.5to2.4),3M:3.0(2.3to3.2)。SLR筋力体重比(N/kg)は術前:1.0(0.8to1.6),1M:1.1(0.7to1.3),3M:1.2(0.9to1.5)。(各 中央値,IQR)。統計学的に有意差が認められたのは,K-Aの術前と3M(p<0.01),VASの術前と1M(p<0.05),1Mと3M(p<0.01),術前と3M(p<0.01)であった。相関が認められたのは術前のK-AとVAS(rs=-0.68),3MのK-AとVAS(rs=-0.63)であった。K-Pの質問項目で最低値であったのは,術前は「階段を上り下りする時」,1M・3Mは「膝を完全に曲げる時」であり,最高値は,術前・3Mは「座っている時や横になっている時」,1Mは「平らな場所を歩く時」であった。
【考察】
TKAでは1Mの時点で術前よりもADLが向上する傾向にあり,3Mで有意に術前よりも向上することが示唆された。術前,1M,3Mにおいて術側膝ROM,筋力はADLへの影響は少なく,術前,3Mにおいて疼痛がADLに強く影響を及ぼすことが示唆された。VASの結果より,術側膝疼痛は1M,3Mと経過とともに有意に減少している。疼痛はADL動作全般に影響を与える可能性が高いため,K-Aと強く関連したと考えた。K-Pの質問項目より術後の平地での歩行は比較的疼痛が少ない動作であることが分かる。TKAは術後早期から荷重・歩行練習が可能であり,歩行時の疼痛が少ないことは歩行獲得の一助となり,ADLの向上に寄与したのではないかと考える。1Mは退院時期に近いことから,積極的な外出や家事動作を行っていない可能性があり,疼痛とK-Aに関連が認められなかったのではないかと考えた。今回の結果より,ADL向上を図るためには膝関節痛に対するアプローチが重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ADLの評価としてKOOSを使用し,TKAの3Mでは疼痛がADLに影響を及ぼしており,ROMや筋力は影響が低いことを示した。そのため,TKAにおいてADLの向上を図るためには,疼痛管理が重要であることが示唆された。