[1130] 肩関節外転運動における肩峰骨頭間距離の観察
Keywords:肩峰骨頭間距離, 超音波画像, 肩関節
【はじめに,目的】
肩関節疾患の中でも多くの割合を占めるインピンジメント症候群には肩峰下インピンジメントとインターナルインピンジメントがある。肩峰下インピンジメントは上腕骨頭と烏口肩峰アーチとの間で大結節周囲に位置する腱板組織や上腕二頭筋長頭腱,肩峰下滑液包などが挟み込まれる病態(Neer,1972)である。また,インターナルインピンジメントは腱板の関節面が上腕骨頭と関節唇あるいは関節窩との間で挟まれる病態(Walch,1992)である。しかし,これまで用いられてきた理学検査においてこの2つのインピンジメントを鑑別する明確な方法がない。鑑別診断のためには肩甲上腕関節がどの程度の外転位になった時に肩峰と上腕骨大結節の接触がみられるのかという基礎データが必要になる。現状では単純レントゲンを用いた肩峰骨頭間距離acromio-humeral interval(以下,AHI)による評価が行われている。一方,インピンジメント症候群の診断に際しリアルタイムで深部筋の撮像を目的として侵襲のない超音波診断装置を用いた肩関節の評価が行われるようになってきているが,肩関節外転に伴うAHIの詳細な変化や,肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する角度に関しては我々が渉猟し得た限り報告が見当たらない。本研究の目的は,超音波診断装置を用いて肩関節外転運動に伴うAHI変化や,肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する肩関節外転角度について明らかにすることである。
【方法】
対象は,肩関節に既往歴のない若年男子21名42肩(平均年齢20.2±0.8歳,平均身長167.3±9.9 cm,平均体重57.9±9.4 kg)とした。課題動作は,肩関節外転動作とし,外上方走査にて肩甲骨の長軸に沿った前額面像を撮像した状態で外転動作中の大結節外側端の通過角度を観察した。AHIは肩峰の最突出部の骨硬化像から上腕骨大結節外側端までの最短距離とした。測定角度は,肩関節外転0~80°までの角度で,10°ごとに測定を実施した。課題肢位は立位で,肘関節は伸展位,前腕は中間位に設定して行った。測定順は,コンピュータにてランダム化した。使用器具は,超音波診断装置(GE社製),リニア型プローブ,Bモードにて計測を実施した。分析方法は,条件間の比較には2(左右)×9(角度)の二元配置分散分析後,Bonferroni法による多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の趣旨と方法に関しての説明を十分に行い,研究同意の撤回がいつでも可能な事を説明したうえで,研究に協力することに対し,書面にて同意を得た対象者にのみ実施した。
【結果】
交互作用は認められず,角度に主効果を認めたが,左右には主効果を認めなかった。肩関節外転運動における肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する角度は,40°で6肩,50°で12肩,60°で24肩が通過していた。AHIは,0°で左右平均1.72±0.13cm,10°で1.59±0.16cm,20°で1.44±0.17cm,30°で1.23±0.28cm,40°で0.77±0.25cm,50°で0.41±0.31cmとなった。それ以降の角度は通過していたため測定困難であった。AHI測定値は,0°に比べ40°~60°で有意に距離が減少していた(p<0.01)。
【考察】
本研究により,肩関節外転運動におけるAHIである肩峰最突出部の下方を上腕骨頭上端が通過する角度が,左右ともに40~60°であることが明らかとなった。中村ら(2000)は,体幹に対し約120°で上腕骨の大結節が肩峰に対面し,それ以上の外転が妨げられると報告している。また,単純レントゲン写真を用いたAHIに関する報告として,Broom(1991)は自動外転運動をすると骨頭が肩峰に接近しスペースが狭くなることや,Solem(1993)は,肩甲骨が内転位から外転位をとるとAHIが狭くなることを観察している。また,Desmeules(2004)は健常者を対象に外転角度0°,45°,60°の3つの角度でAHIを測定した結果,外転角度の増加に伴いAHIが狭くなることを報告している。本研究では,超音波診断装置を用いて肩関節外転運動におけるAHIを生体にて観察した結果,先行研究を支持する結果が得られた。以上より,本研究結果は,肩関節外転運動において40°から60°までの間に肩峰下インピンジメントが生じることが示唆された。本研究は体幹に対する肩関節外転角度で測定を行ったが,Neer impingement signなどの理学検査では肩甲骨を固定して上肢挙上が行われるため,今後はどの肩甲上腕関節角度で大結節周囲の組織が肩峰と上腕骨頭に挟まれるのか調べる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
肩関節外転運動における肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する角度が明らかとされ,肩峰下インピンジメントとインターナルインピンジメントとの鑑別に有用な知見になると考える。
肩関節疾患の中でも多くの割合を占めるインピンジメント症候群には肩峰下インピンジメントとインターナルインピンジメントがある。肩峰下インピンジメントは上腕骨頭と烏口肩峰アーチとの間で大結節周囲に位置する腱板組織や上腕二頭筋長頭腱,肩峰下滑液包などが挟み込まれる病態(Neer,1972)である。また,インターナルインピンジメントは腱板の関節面が上腕骨頭と関節唇あるいは関節窩との間で挟まれる病態(Walch,1992)である。しかし,これまで用いられてきた理学検査においてこの2つのインピンジメントを鑑別する明確な方法がない。鑑別診断のためには肩甲上腕関節がどの程度の外転位になった時に肩峰と上腕骨大結節の接触がみられるのかという基礎データが必要になる。現状では単純レントゲンを用いた肩峰骨頭間距離acromio-humeral interval(以下,AHI)による評価が行われている。一方,インピンジメント症候群の診断に際しリアルタイムで深部筋の撮像を目的として侵襲のない超音波診断装置を用いた肩関節の評価が行われるようになってきているが,肩関節外転に伴うAHIの詳細な変化や,肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する角度に関しては我々が渉猟し得た限り報告が見当たらない。本研究の目的は,超音波診断装置を用いて肩関節外転運動に伴うAHI変化や,肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する肩関節外転角度について明らかにすることである。
【方法】
対象は,肩関節に既往歴のない若年男子21名42肩(平均年齢20.2±0.8歳,平均身長167.3±9.9 cm,平均体重57.9±9.4 kg)とした。課題動作は,肩関節外転動作とし,外上方走査にて肩甲骨の長軸に沿った前額面像を撮像した状態で外転動作中の大結節外側端の通過角度を観察した。AHIは肩峰の最突出部の骨硬化像から上腕骨大結節外側端までの最短距離とした。測定角度は,肩関節外転0~80°までの角度で,10°ごとに測定を実施した。課題肢位は立位で,肘関節は伸展位,前腕は中間位に設定して行った。測定順は,コンピュータにてランダム化した。使用器具は,超音波診断装置(GE社製),リニア型プローブ,Bモードにて計測を実施した。分析方法は,条件間の比較には2(左右)×9(角度)の二元配置分散分析後,Bonferroni法による多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の趣旨と方法に関しての説明を十分に行い,研究同意の撤回がいつでも可能な事を説明したうえで,研究に協力することに対し,書面にて同意を得た対象者にのみ実施した。
【結果】
交互作用は認められず,角度に主効果を認めたが,左右には主効果を認めなかった。肩関節外転運動における肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する角度は,40°で6肩,50°で12肩,60°で24肩が通過していた。AHIは,0°で左右平均1.72±0.13cm,10°で1.59±0.16cm,20°で1.44±0.17cm,30°で1.23±0.28cm,40°で0.77±0.25cm,50°で0.41±0.31cmとなった。それ以降の角度は通過していたため測定困難であった。AHI測定値は,0°に比べ40°~60°で有意に距離が減少していた(p<0.01)。
【考察】
本研究により,肩関節外転運動におけるAHIである肩峰最突出部の下方を上腕骨頭上端が通過する角度が,左右ともに40~60°であることが明らかとなった。中村ら(2000)は,体幹に対し約120°で上腕骨の大結節が肩峰に対面し,それ以上の外転が妨げられると報告している。また,単純レントゲン写真を用いたAHIに関する報告として,Broom(1991)は自動外転運動をすると骨頭が肩峰に接近しスペースが狭くなることや,Solem(1993)は,肩甲骨が内転位から外転位をとるとAHIが狭くなることを観察している。また,Desmeules(2004)は健常者を対象に外転角度0°,45°,60°の3つの角度でAHIを測定した結果,外転角度の増加に伴いAHIが狭くなることを報告している。本研究では,超音波診断装置を用いて肩関節外転運動におけるAHIを生体にて観察した結果,先行研究を支持する結果が得られた。以上より,本研究結果は,肩関節外転運動において40°から60°までの間に肩峰下インピンジメントが生じることが示唆された。本研究は体幹に対する肩関節外転角度で測定を行ったが,Neer impingement signなどの理学検査では肩甲骨を固定して上肢挙上が行われるため,今後はどの肩甲上腕関節角度で大結節周囲の組織が肩峰と上腕骨頭に挟まれるのか調べる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
肩関節外転運動における肩峰最突出部の下方を上腕骨大結節外側端が通過する角度が明らかとされ,肩峰下インピンジメントとインターナルインピンジメントとの鑑別に有用な知見になると考える。