[1135] 立位における前・後足部荷重率と歩行の関係
Keywords:荷重率, 立位, 歩行
【はじめに,目的】
松瀬ら(2004)は重心が後方に位置している中高年者では重心動揺が大きく,更に高齢者の転倒は後方もしくは側方が多いと報告している。こうした報告によって,一般的には立位姿勢において後方重心は問題視されることが多い。しかし,後方重心の立位姿勢が歩行などの動作にどのように関与しているかは十分明らかになっていない。
したがって,本研究では立位時における前足部と後足部の荷重比と歩行の関係を明らかにすることを目的とした。これにより,後足部に荷重が偏っている者の歩行の特徴について考察した。
【方法】
対象は健常若年者36名(男性13名・女性23名,年齢22.0±1.1歳,身長165.3±8.1cm,体重57.7±7.8kg)とした。
計測機器は歩行解析用フォースプレートZebrisFDM system(Zebris medical社製)を用い,立位と歩行の計測を行った。
立位は足角,足幅を規定した肢位とし,計測周波数30Hzにて30秒間計測した。そして,第5中足骨底を基準に分けた前足部と後足部の荷重比(以下,前後荷重比[前足部荷重量/後足部荷重量])を算出した。
歩行は計測周波数100Hzにて左右各6歩分計測し,得られたデータを平均した。主要な算出項目は足角[外転(+)],歩隔,ステップ長,ステップ時間,歩行率,立脚初期の床反力鉛直成分の極大値(Max Heel Force:MHF),立脚後期の床反力鉛直成分の極大値(Max Toe Force:MTF),足圧中心移動軌跡の前後平均位置(以下,COP前後位置)とした。尚,MHFおよびMTFは体重比[%BW]を代表値とした。
データの正規性はShapiro-Wilk検定で確認した。立位における前後荷重比と歩行パラメータの関係はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づいて,対象者全員に本研究の趣旨と方法を十分に説明し,研究協力への同意を得た。
【結果】
立位における前後荷重比の平均は0.91±0.36であり,最大1.82から最少0.29までの個人差があった。
立位における前後荷重比と歩行パラメータの関係は,足角(r=0.42),ステップ時間(r=0.35),COP前後位置(r=0.42),MHF(r=0.35),歩隔(r=-0.45),歩行率(r=-0.32)に有意な相関を認めた。その他のパラメータに有意な相関は認めなかった。
【考察】
本研究の結果から,平均的な立位における前後荷重比は0.91であったが,個人差が大きいことが分かった。このことから健常な若年者であっても,立位における荷重線の前後位置は多様な位置に偏位していることが示唆された。
また,本研究では立位における荷重量の前後の偏りと歩行パラメータの比較から,以下の特徴があることが分かった。即ち,荷重が後足部に偏った立位姿勢を呈する者ほど,歩行時に足角の減少,歩隔の増加,ステップ時間の減少,歩行率の増加,MHFの減少,COPの後方化が認められた。
後足部荷重の立位姿勢は,脊柱が後弯し体幹が後方化することが原因となっていることが多い(福井1997)。体幹の後方化は歩行時の身体の推進性を低下させることから,ステップ時間の減少や,歩隔の拡大につながると考えられる。また,ステップ時間が減少することにより歩行率が増加したと考えられる。更に,体幹が後方化することによって,歩行時のCOPの前方移動が妨げられることでCOP前後位置は後方化し,両脚支持期に後方から前方の下肢への荷重の受け渡しが遅延することで立脚初期に床反力は減少すると考える。以上により,今回認められた立位での前後荷重比と各歩行パラメータの相関は,体幹の前後位置を考慮すると整合性があるものと考える。今後,立位での前後荷重比と体幹アライメントの関係,および体幹アライメントと歩行の関係を詳細に調べることで,より科学的な証明につながると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,立位における前後の荷重位置が歩行の特徴と関連することが分かった。このことから,立位姿勢の評価が歩行評価の一助になると考える。また,体幹を前方移動させ前足部荷重を促す立位エクササイズにより,今回関連の認められた歩行パラメータをコントロールすることができる可能性がある。
松瀬ら(2004)は重心が後方に位置している中高年者では重心動揺が大きく,更に高齢者の転倒は後方もしくは側方が多いと報告している。こうした報告によって,一般的には立位姿勢において後方重心は問題視されることが多い。しかし,後方重心の立位姿勢が歩行などの動作にどのように関与しているかは十分明らかになっていない。
したがって,本研究では立位時における前足部と後足部の荷重比と歩行の関係を明らかにすることを目的とした。これにより,後足部に荷重が偏っている者の歩行の特徴について考察した。
【方法】
対象は健常若年者36名(男性13名・女性23名,年齢22.0±1.1歳,身長165.3±8.1cm,体重57.7±7.8kg)とした。
計測機器は歩行解析用フォースプレートZebrisFDM system(Zebris medical社製)を用い,立位と歩行の計測を行った。
立位は足角,足幅を規定した肢位とし,計測周波数30Hzにて30秒間計測した。そして,第5中足骨底を基準に分けた前足部と後足部の荷重比(以下,前後荷重比[前足部荷重量/後足部荷重量])を算出した。
歩行は計測周波数100Hzにて左右各6歩分計測し,得られたデータを平均した。主要な算出項目は足角[外転(+)],歩隔,ステップ長,ステップ時間,歩行率,立脚初期の床反力鉛直成分の極大値(Max Heel Force:MHF),立脚後期の床反力鉛直成分の極大値(Max Toe Force:MTF),足圧中心移動軌跡の前後平均位置(以下,COP前後位置)とした。尚,MHFおよびMTFは体重比[%BW]を代表値とした。
データの正規性はShapiro-Wilk検定で確認した。立位における前後荷重比と歩行パラメータの関係はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づいて,対象者全員に本研究の趣旨と方法を十分に説明し,研究協力への同意を得た。
【結果】
立位における前後荷重比の平均は0.91±0.36であり,最大1.82から最少0.29までの個人差があった。
立位における前後荷重比と歩行パラメータの関係は,足角(r=0.42),ステップ時間(r=0.35),COP前後位置(r=0.42),MHF(r=0.35),歩隔(r=-0.45),歩行率(r=-0.32)に有意な相関を認めた。その他のパラメータに有意な相関は認めなかった。
【考察】
本研究の結果から,平均的な立位における前後荷重比は0.91であったが,個人差が大きいことが分かった。このことから健常な若年者であっても,立位における荷重線の前後位置は多様な位置に偏位していることが示唆された。
また,本研究では立位における荷重量の前後の偏りと歩行パラメータの比較から,以下の特徴があることが分かった。即ち,荷重が後足部に偏った立位姿勢を呈する者ほど,歩行時に足角の減少,歩隔の増加,ステップ時間の減少,歩行率の増加,MHFの減少,COPの後方化が認められた。
後足部荷重の立位姿勢は,脊柱が後弯し体幹が後方化することが原因となっていることが多い(福井1997)。体幹の後方化は歩行時の身体の推進性を低下させることから,ステップ時間の減少や,歩隔の拡大につながると考えられる。また,ステップ時間が減少することにより歩行率が増加したと考えられる。更に,体幹が後方化することによって,歩行時のCOPの前方移動が妨げられることでCOP前後位置は後方化し,両脚支持期に後方から前方の下肢への荷重の受け渡しが遅延することで立脚初期に床反力は減少すると考える。以上により,今回認められた立位での前後荷重比と各歩行パラメータの相関は,体幹の前後位置を考慮すると整合性があるものと考える。今後,立位での前後荷重比と体幹アライメントの関係,および体幹アライメントと歩行の関係を詳細に調べることで,より科学的な証明につながると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,立位における前後の荷重位置が歩行の特徴と関連することが分かった。このことから,立位姿勢の評価が歩行評価の一助になると考える。また,体幹を前方移動させ前足部荷重を促す立位エクササイズにより,今回関連の認められた歩行パラメータをコントロールすることができる可能性がある。