[1136] 重度身体障害者支援施設における骨密度と骨折に関する調査
Keywords:骨密度, 骨折, 障害者支援施設
【はじめに,目的】
高齢者の骨折は,その多くが,骨強度低下が要因である脆弱性骨折であり,ADL(日常生活活動)やQOL(生活の質)の低下,機能予後や生命予後の悪化をもたらす可能性が報告されている。石井によると特別養護老人保健施設入所者の骨密度を調査し,入所者の95%が骨粗鬆症を呈していたこと,車いす生活や寝たきりなど,要介護度が高くなるにつれて骨密度が低下していることが報告されているが,重度身体障害者支援施設入所者に対する骨折と骨密度の関係についての研究は少ない。そこで,本研究は,重度身体障害者支援施設の骨折と骨密度との関係を明らかにするために,縦断的調査を行い,施設における骨折予防の一助として反映させていきたいと考えた。
【方法】
対象は2006年10月から2013年7月の調査期間中,重度身体障害者支援施設に入所中,あるいは入所していた入所者のうち,2006年時と2013年時の両時期で骨密度測定が行えた104名(男性61名,女性43名,平均年齢62.9±11.8歳)とした。調査項目は,両時期の骨密度測定結果と,調査期間中の骨折の有無および骨折状況とした。骨密度は,超音波骨密度測定装置(CM-100:古野電気社)を用い,両側の踵骨に対して,QUS(定量的超音波)法による測定を実施した。なお,骨密度測定の結果は,最低値を解析対象とし,20代成人の平均値を基準としたTスコアに変換して解析を行った。統計学的分析にはχ二乗検定,対応のあるt検定および対応のないt検定を用い,統計処理はRソフトウェア(3.0.1)を用いて確認した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に関わる全ての研究者は『ヘルシンキ宣言』および,「疫学研究に関する倫理指針」の趣旨に沿い実施した。なお,本研究内容および研究手順は北里大学医学部・病院倫理委員会の観察・疫学研究審査委員会によって承認されたものである(承認番号B13-177)。
【結果】
骨密度は,2006年時は-2.45±0.9,2013年時では-2.73±0.7であり,両時期で有意な差が認められ(p<0.01),重度身体障害者においても,加齢とともに骨密度が低下することが明らかになった。なお,Tスコアは,-1.0を超えるものを正常,-1.0以下~-2.5を超えるものを骨量低下群,-2.5以下を骨粗鬆症群と判断されるため,対象者の多くで,骨粗鬆症と診断される領域まで低下していることが示された。また,調査期間中に骨折をした入所者は16名(男性4名,女性12名),24件(男性4件,女性20件)であり,受傷部位は,脊椎が7件(29.2%),次に大腿骨が5件(20.8%),上腕骨が4件(16.7%)であった。なお,受傷機転は,不明が16件(66.7%),移乗時が4件(16.7%),転倒・転落が2件(8.3%)であった。骨折の有無と性差についてχ二乗検定を行ったところ,女性の方が有意に多いという結果が示された(p=0.02)。さらに,調査期間中に骨折した入所者と骨折していない入所者の2群で2013年の骨密度を比較すると,骨折した入所者は-2.76±0.9,骨折していない入所者は-2.73±0.7であり,統計学的有意差は認められなかった。
【考察】
Stoneらは,骨折のほとんどが骨密度の減少と有意な関係があると報告しており,一般的には骨密度低下と骨折には大きな関係があると認知されている。骨折状況をみると,女性は骨密度低下による脆弱性骨折が起こりやすいといわれる結果を支持するものであったが,男女問わず重度身体障害者支援施設の多くの入所者で,既に骨粗鬆症と診断される領域まで低下を来していたため,必ずしも,骨密度低下が骨折に関係するとは言えないものと考えられた。また,Cummingsによると,骨粗鬆症患者の骨折要因の約9割が転倒であったという報告があるものの,今回調査した重度身体障害者支援施設の入所者においては,転倒・転落は8.3%と非常に少ない割合であった。その一方で,受傷機転が不明な事例が67%と多く,これは,ADLの自立度が低い重度障害者支援施設入所者の特徴とも考えられた。不明な事例に関しては,圧迫骨折など自然発生的に骨折が生じることも考えられるが,一方で,日常的に行われる介助が骨折に繋がっているという可能性も示唆された。今後の課題として,入所者の骨密度と骨折に関する現状を正確に把握した上で,介護に関する正しい知識と介助技術の伝達が行われ,受傷機転の不明な骨折の減少あるいは明確化に繋がることが期待される。
【理学療法学研究としての意義】
重度身体障害者支援施設では,骨密度が総じて低く自然発生的に骨折を呈してしまう状況であることを,より広く啓蒙し認知させていく必要がある。また,介助者に対する骨・関節学的な解剖学の知識に基づいた介助技術の伝達が理学療法士として求められているものと考える。
高齢者の骨折は,その多くが,骨強度低下が要因である脆弱性骨折であり,ADL(日常生活活動)やQOL(生活の質)の低下,機能予後や生命予後の悪化をもたらす可能性が報告されている。石井によると特別養護老人保健施設入所者の骨密度を調査し,入所者の95%が骨粗鬆症を呈していたこと,車いす生活や寝たきりなど,要介護度が高くなるにつれて骨密度が低下していることが報告されているが,重度身体障害者支援施設入所者に対する骨折と骨密度の関係についての研究は少ない。そこで,本研究は,重度身体障害者支援施設の骨折と骨密度との関係を明らかにするために,縦断的調査を行い,施設における骨折予防の一助として反映させていきたいと考えた。
【方法】
対象は2006年10月から2013年7月の調査期間中,重度身体障害者支援施設に入所中,あるいは入所していた入所者のうち,2006年時と2013年時の両時期で骨密度測定が行えた104名(男性61名,女性43名,平均年齢62.9±11.8歳)とした。調査項目は,両時期の骨密度測定結果と,調査期間中の骨折の有無および骨折状況とした。骨密度は,超音波骨密度測定装置(CM-100:古野電気社)を用い,両側の踵骨に対して,QUS(定量的超音波)法による測定を実施した。なお,骨密度測定の結果は,最低値を解析対象とし,20代成人の平均値を基準としたTスコアに変換して解析を行った。統計学的分析にはχ二乗検定,対応のあるt検定および対応のないt検定を用い,統計処理はRソフトウェア(3.0.1)を用いて確認した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に関わる全ての研究者は『ヘルシンキ宣言』および,「疫学研究に関する倫理指針」の趣旨に沿い実施した。なお,本研究内容および研究手順は北里大学医学部・病院倫理委員会の観察・疫学研究審査委員会によって承認されたものである(承認番号B13-177)。
【結果】
骨密度は,2006年時は-2.45±0.9,2013年時では-2.73±0.7であり,両時期で有意な差が認められ(p<0.01),重度身体障害者においても,加齢とともに骨密度が低下することが明らかになった。なお,Tスコアは,-1.0を超えるものを正常,-1.0以下~-2.5を超えるものを骨量低下群,-2.5以下を骨粗鬆症群と判断されるため,対象者の多くで,骨粗鬆症と診断される領域まで低下していることが示された。また,調査期間中に骨折をした入所者は16名(男性4名,女性12名),24件(男性4件,女性20件)であり,受傷部位は,脊椎が7件(29.2%),次に大腿骨が5件(20.8%),上腕骨が4件(16.7%)であった。なお,受傷機転は,不明が16件(66.7%),移乗時が4件(16.7%),転倒・転落が2件(8.3%)であった。骨折の有無と性差についてχ二乗検定を行ったところ,女性の方が有意に多いという結果が示された(p=0.02)。さらに,調査期間中に骨折した入所者と骨折していない入所者の2群で2013年の骨密度を比較すると,骨折した入所者は-2.76±0.9,骨折していない入所者は-2.73±0.7であり,統計学的有意差は認められなかった。
【考察】
Stoneらは,骨折のほとんどが骨密度の減少と有意な関係があると報告しており,一般的には骨密度低下と骨折には大きな関係があると認知されている。骨折状況をみると,女性は骨密度低下による脆弱性骨折が起こりやすいといわれる結果を支持するものであったが,男女問わず重度身体障害者支援施設の多くの入所者で,既に骨粗鬆症と診断される領域まで低下を来していたため,必ずしも,骨密度低下が骨折に関係するとは言えないものと考えられた。また,Cummingsによると,骨粗鬆症患者の骨折要因の約9割が転倒であったという報告があるものの,今回調査した重度身体障害者支援施設の入所者においては,転倒・転落は8.3%と非常に少ない割合であった。その一方で,受傷機転が不明な事例が67%と多く,これは,ADLの自立度が低い重度障害者支援施設入所者の特徴とも考えられた。不明な事例に関しては,圧迫骨折など自然発生的に骨折が生じることも考えられるが,一方で,日常的に行われる介助が骨折に繋がっているという可能性も示唆された。今後の課題として,入所者の骨密度と骨折に関する現状を正確に把握した上で,介護に関する正しい知識と介助技術の伝達が行われ,受傷機転の不明な骨折の減少あるいは明確化に繋がることが期待される。
【理学療法学研究としての意義】
重度身体障害者支援施設では,骨密度が総じて低く自然発生的に骨折を呈してしまう状況であることを,より広く啓蒙し認知させていく必要がある。また,介助者に対する骨・関節学的な解剖学の知識に基づいた介助技術の伝達が理学療法士として求められているものと考える。