[1147] 座位での側方リーチ動作における圧中心(COP)の変化と内腹斜筋の筋活動について
Keywords:側方リーチ動作, COP, 内腹斜筋
【目的】我々は座位での様々な方向への体重移動による静的な姿勢保持時の腹斜筋群の働きについて研究を進めてきた。一昨年の本大会にて一側の体幹前面部から側腹部へ複数の電極を配置し,座位でのリーチ動作時の腹斜筋群の働きについて検討した。その研究から腹斜筋,なかでも内腹斜筋の働きを反映していると考えられる部位は,他の腹斜筋とは違う働きを示したため,その部位に着目し現在研究を進めている。今回側方リーチ動作におけるリーチ速度の違いが,両側内腹斜筋の筋活動とCOPの側方変位に及ぼす影響を検討したので報告する。
【方法】対象は整形外科,神経学的に問題のない健常男性6名(平均年齢23.7歳)の両側内腹斜筋とした。まず被験者に今回の課題である速度の違う2種類の座位での側方リーチ動作を以下のように説明した。2台の重心動揺計重心バランスシステムJK-101II(ユニメック社)の台上に開始肢位である足底を床に接地させない座位で,両肩関節外転90度を保持する。外転90度を保持した一側中指の指尖から側方20cmに測定板を配置し,メトロノームの合図に合わせ,①1秒間開始肢位を維持する,②1秒間で20cm側方へリーチする,③リーチした肢位を1秒間保持する,④1秒間で開始肢位に戻る,という課題(1秒課題)を解説した。次に上記の課題をそれぞれ2秒間で遂行する課題(2秒課題)を説明し,数回練習させた。この時,頭頸部は垂直位を維持し前方の一点を注視,両上肢は肩関節90度外転位から床と水平位を保持したままリーチさせ,リーチ反対側の骨盤挙上と体幹側屈,自然な両股関節内外旋は許可した。そして課題中にテレメトリー筋電計MQ-Air(キッセイコムテック社)にて,両側内腹斜筋の表面筋電図を測定した。測定した内腹斜筋はNgの報告した内腹斜筋単独部位と,その直上で両側の上前腸骨棘を結んだ線上の部位,および上前腸骨棘の直上の部位に両側それぞれに合計6電極を貼付した。課題は片側ずつ両側に実施し,測定時間は1秒課題で15秒間,2秒課題では25秒間とし,この時間のなかでリーチ動作を3回実施した。測定項目は,課題中の座面でのCOPの側方変位と筋電図波形とした。また側方20cmの測定板へ指尖が接地したタイミングの計測のためにリーチ側中指の指尖に電極を配置した。なおCOPの変位と筋電図には同期シグナルを入れ,測定後に解析ソフトBIMUTAS-Videoを用いCOPの変位と筋電図を同期し,筋電図波形は筋電図に精通した理学療法士が活動開始を確認し,COPとの関係を検討した。
【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み,実験に同意を得た者を対象にした。
【結果】両課題でのCOPの変化は全対象者で,リーチ側へCOPが変位する前に,反対側へわずかに変位してからリーチ側へCOPが移動した。この時の反対側へのCOPの変位量は1秒課題で平均12.0±3.0mm,2秒課題では平均4.9±1.1mmと,1秒課題の方が動作開始前のCOPの反対側への変位量が大きく(p<0.01),それにかかる時間には両課題で大きな差はなかった。
筋電図波形はリーチ側の内腹斜筋単独部位とその直上の電極より,上記したCOPの変位する時期に波形を認めた。リーチ速度の違いでは,1秒課題の方が筋電図波形で振幅が増大する傾向を認めた。反対側内腹斜筋3電極では,COPのリーチ側への変位とともに全電極で波形が確認でき,課題間の差異は認めなかった。
【考察】動作開始時のCOP逆応答現象は諸家らで報告され,本研究でもリーチ動作開始時やリーチ肢位保持から戻ってくる時のCOPの変位はCOP逆応答現象であり,リーチ動作開始に伴う先行性随伴性姿勢調節(APA)と考えられた。この時COPの反対側への変位量は,1秒課題の方が大きかった。また1秒課題における移動側内腹斜筋の筋電図波形に振幅の増加傾向を認めた。伊東は立位からつま先立ちになる際,APA局面でCOPの後方への移動量が増加すると,見越し前方推進力が増加すると報告している。またその時前脛骨筋の筋電図より平均振幅が,COPの後方移動や前方推進力の発生に重要な役割を果たすと述べている。今回の1秒課題ではより速くリーチ動作を実施するために,COPの反対側変位量を増大させ,移動側への推進力の発生に関与していたと考えられる。またその時に移動側内腹斜筋が関与することが推察された。
反対側内腹斜筋3電極からは,COPがリーチ側へ変位している間,全電極で筋活動を認め,課題間で大きな差異はなく,これはリーチ反対側の骨盤挙上(体幹側屈)に作用したと考える。
【理学療法学研究としての意義】座位で側方リーチ動作を用いる時,リーチ動作の速度を速くするためには,動作開始前のCOP逆応答現象におけるリーチ反対側へのCOP変位量を大きくするような配慮が必要となる。
【方法】対象は整形外科,神経学的に問題のない健常男性6名(平均年齢23.7歳)の両側内腹斜筋とした。まず被験者に今回の課題である速度の違う2種類の座位での側方リーチ動作を以下のように説明した。2台の重心動揺計重心バランスシステムJK-101II(ユニメック社)の台上に開始肢位である足底を床に接地させない座位で,両肩関節外転90度を保持する。外転90度を保持した一側中指の指尖から側方20cmに測定板を配置し,メトロノームの合図に合わせ,①1秒間開始肢位を維持する,②1秒間で20cm側方へリーチする,③リーチした肢位を1秒間保持する,④1秒間で開始肢位に戻る,という課題(1秒課題)を解説した。次に上記の課題をそれぞれ2秒間で遂行する課題(2秒課題)を説明し,数回練習させた。この時,頭頸部は垂直位を維持し前方の一点を注視,両上肢は肩関節90度外転位から床と水平位を保持したままリーチさせ,リーチ反対側の骨盤挙上と体幹側屈,自然な両股関節内外旋は許可した。そして課題中にテレメトリー筋電計MQ-Air(キッセイコムテック社)にて,両側内腹斜筋の表面筋電図を測定した。測定した内腹斜筋はNgの報告した内腹斜筋単独部位と,その直上で両側の上前腸骨棘を結んだ線上の部位,および上前腸骨棘の直上の部位に両側それぞれに合計6電極を貼付した。課題は片側ずつ両側に実施し,測定時間は1秒課題で15秒間,2秒課題では25秒間とし,この時間のなかでリーチ動作を3回実施した。測定項目は,課題中の座面でのCOPの側方変位と筋電図波形とした。また側方20cmの測定板へ指尖が接地したタイミングの計測のためにリーチ側中指の指尖に電極を配置した。なおCOPの変位と筋電図には同期シグナルを入れ,測定後に解析ソフトBIMUTAS-Videoを用いCOPの変位と筋電図を同期し,筋電図波形は筋電図に精通した理学療法士が活動開始を確認し,COPとの関係を検討した。
【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み,実験に同意を得た者を対象にした。
【結果】両課題でのCOPの変化は全対象者で,リーチ側へCOPが変位する前に,反対側へわずかに変位してからリーチ側へCOPが移動した。この時の反対側へのCOPの変位量は1秒課題で平均12.0±3.0mm,2秒課題では平均4.9±1.1mmと,1秒課題の方が動作開始前のCOPの反対側への変位量が大きく(p<0.01),それにかかる時間には両課題で大きな差はなかった。
筋電図波形はリーチ側の内腹斜筋単独部位とその直上の電極より,上記したCOPの変位する時期に波形を認めた。リーチ速度の違いでは,1秒課題の方が筋電図波形で振幅が増大する傾向を認めた。反対側内腹斜筋3電極では,COPのリーチ側への変位とともに全電極で波形が確認でき,課題間の差異は認めなかった。
【考察】動作開始時のCOP逆応答現象は諸家らで報告され,本研究でもリーチ動作開始時やリーチ肢位保持から戻ってくる時のCOPの変位はCOP逆応答現象であり,リーチ動作開始に伴う先行性随伴性姿勢調節(APA)と考えられた。この時COPの反対側への変位量は,1秒課題の方が大きかった。また1秒課題における移動側内腹斜筋の筋電図波形に振幅の増加傾向を認めた。伊東は立位からつま先立ちになる際,APA局面でCOPの後方への移動量が増加すると,見越し前方推進力が増加すると報告している。またその時前脛骨筋の筋電図より平均振幅が,COPの後方移動や前方推進力の発生に重要な役割を果たすと述べている。今回の1秒課題ではより速くリーチ動作を実施するために,COPの反対側変位量を増大させ,移動側への推進力の発生に関与していたと考えられる。またその時に移動側内腹斜筋が関与することが推察された。
反対側内腹斜筋3電極からは,COPがリーチ側へ変位している間,全電極で筋活動を認め,課題間で大きな差異はなく,これはリーチ反対側の骨盤挙上(体幹側屈)に作用したと考える。
【理学療法学研究としての意義】座位で側方リーチ動作を用いる時,リーチ動作の速度を速くするためには,動作開始前のCOP逆応答現象におけるリーチ反対側へのCOP変位量を大きくするような配慮が必要となる。