第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節12

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM 第12会場 (5F 502)

座長:神戸晃男(金沢医科大学病院医療技術部心身機能回復技術部門)

運動器 口述

[1169] 物理刺激ならびにストレッチが骨格筋の伸張性に及ぼす影響について

内川智貴1, 坂野裕洋1, 佐々木翔矢1, 中村郁美1, 豊田慎一2, 柳瀬準3 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.星城大学リハビリテーション学院, 3.前原外科整形外科リハビリテーション部)

Keywords:物理刺激, ストレッチ, 骨格筋

【はじめに,目的】
理学療法では,筋スパズムに代表されるような反射的に引き起こされる骨格筋の過収縮によって,骨格筋の伸張性が低下して関節可動域制限の原因となる場合がある。このような場合には,脊髄前角細胞の抑制やリラクセーション,筋血流の改善や軟部組織の伸張性向上を目的に,温熱,寒冷,振動刺激などの物理刺激やストレッチなどが行われる。しかしながら,これらの介入方法を比較し,その有用性について検討している報告は少ない。そこで本研究では,骨格筋の伸張性改善を目的とした理学療法介入効果に関する基礎研究として,健常者の下腿三頭筋を対象に,温熱,寒冷,振動刺激といった物理刺激やストレッチが脊髄前角細胞の興奮性やstiffness,stretch toleranceに及ぼす影響について比較検討した。
【方法】
対象は,下肢に神経障害の既往がない健常大学生20名(男性12名,女性8名,平均年齢21.7±1.1歳)とした。対象部位は右下腿三頭筋とし,介入条件は無処置の対照条件,ホットパックによる加温を行う温熱条件,アイスパックによる冷却を行う寒冷条件,振動刺激装置を用いてアキレス腱部に振動刺激を加える振動刺激条件,膝関節伸展位で下腿三頭筋を持続的にストレッチするストレッチ条件の5条件を設定し,24時間以上の間隔を空けて実施した。なお,実験室の室温は25℃とした。介入ならびに測定肢位は,腹臥位にて膝伸展位,足関節軽度底屈位とした。実験は,安静10分,介入10分,回復10分の計30分とし,介入直前,介入直後,介入10分後に測定を行った。測定項目は,脊髄前角細胞の興奮性の指標としてヒラメ筋のH/M比,下腿三頭筋の剛性と伸張に対する耐性の指標としてstiffnessとstretch toleranceを測定した。なお,統計学的解析にはKruskal-Wallis検定を用い,有意差を認めた場合には,事後検定としてWilcoxonの符号順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とした医学研究倫理)に準じて行い,全対象者には研究の趣旨を文書及び口頭にて説明し,研究参加に対する同意を得た。
【結果】
H/M比は,振動刺激条件のみ介入直前と比較し,介入直後に有意な低下を認めた。また,介入直後の振動刺激条件は,対照条件と比較して有意に低値であった。stiffnessは,ホットパック条件とストレッチ条件において介入直前と比較し,介入直後に有意な低下を認め,ストレッチ条件では介入10分後まで有意な低下を維持していた。また,介入直後のホットパック条件とストレッチ条件は,対照条件と比較して有意に低値であった。stretch toleranceは,ホットパック条件とストレッチ条件において介入直前と比較し,介入直後に有意な増加を認め,ストレッチ条件では介入10分後まで有意な増加を維持していた。また,介入直後と介入10分後のホットパック条件とストレッチ条件は,対照条件と比較して有意に高値であった。
【考察】
本研究結果から,H/M比は振動刺激のみで刺激直後に低下する事が明らかとなった。これは,アキレス腱に加えられた振動刺激によって,微小な筋長の変化を筋紡錘および腱紡錘が感知し,その情報がIa,Ib,およびII感覚線維に伝えられ,介在神経を介したシナプス前抑制によってα運動神経が抑制されたためと考えられる。しかしながら,振動刺激では骨格筋のstiffnessやstretch toleranceが変化しなかった事から,健常者では筋スパズムに代表されるような反射的に引き起こされる骨格筋の過収縮の影響が少ないため,脊髄前角細胞の抑制が骨格筋のstiffnessやstretch toleranceに影響しなかったと推察される。一方,骨格筋のstiffnessやstretch toleranceについては,ホットパックによる加温や持続的なストレッチが有効であることが明らかとなった。これは,加温による血流動態の変化や熱感覚入力,持続的な張力負荷による骨格筋の形態的変化などによってもたらされた可能性が推測される。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法では,筋スパズムに代表されるような骨格筋の過収縮によって,その伸張性が低下し,関節可動域制限の原因となる場合があり,一般的には,脊髄前角細胞の抑制やリラクセーション,筋血流の改善や軟部組織の伸張性向上を目的に,温熱,寒冷,振動刺激などの物理刺激やストレッチなどが行われる。しかしながら,これらの介入方法を比較し,その有用性について検討している報告は少ない。本研究は,骨格筋の伸張性改善を目的とした理学療法介入効果に関する基礎研究であり,その結果は骨格筋の過収縮やそれに伴う伸張性低下,関節可動域制限に対する介入方法の選択に際して有益な情報を提供する。