[1170] 難治性の慢性痛患者に対する学際的グループプログラムの有効性について
Keywords:慢性痛, グループプログラム, 学際的アプローチ
【はじめに,目的】外来治療に難渋する慢性痛患者は,痛みと局所部位との関連性が低いケースが多く,また痛みの長期化による心理的負荷や社会的要因が混在し,病態をより複雑なものにしている。このような慢性痛患者に対し,痛みに対する多角的評価および認知行動療法に基づく多職種による学際的アプローチが推奨されている。我々は平成23年より,愛知医科大学学際的痛みセンターと運動療育センターとの共同で,学際的アプローチによる,認知行動療法と運動療法を基盤としたグループプログラムを,「慢性痛教室」の名称で実施している。このプログラムは,欧米諸国で実施されているグループプログラムを参考として立案したものであり,これまでに良好な成績を得ている。第48回日本理学療法学術大会において,本プログラムの有効性について報告したが,今回,効果の大きさを分析することを目的として,改善を認めた評価項目について効果量(Effect Size)を用いて検討したので報告する。
【方法】対象は,平成23年10月から平成25年9月までに開催された本プログラムの参加者37名(男性13名,女性24名),平均年齢66.2歳(34~81歳)である。1グループの定員は5~7名とし,週1回,全9回のスケジュールで実施した。プログラムは,痛みのメカニズム,ペーシング,睡眠,栄養などについての講義(30分),リラクセーション,ストレッチング,自重負荷による筋力強化エクササイズ(30分),エルゴメーターを使用した有酸素エクササイズ(10分),歩行を中心とした水中エクササイズ(30分)から構成される。講義は医師(整形外科,精神科,麻酔科),理学療法士,管理栄養士が担当し,適宜グループミーティングを交えて行った。また運動指導は医師(整形外科),理学療法士,トレーナーが担当した。本プログラム開始時と終了時に下記の評価を実施し,各評価項目の変化および効果量について調査,検討した。痛みの評価は,痛みの強さ:Visual Analog Scale(VAS),ADL:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),精神・心理:Hospital Anxiety and Depression scale(HAD不安,HAD抑うつ),Pain Catastrophizing Scale(PCS),QOL:EuroQol 5 Dimension(EQ-5D),自己効力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)などの質問票を使用した。また身体機能評価は,体重,長座体前屈(前屈),開眼片脚立位保持時間(片脚立位),10mジグザグ歩行(10m歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業能力テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD),開眼立位重心動揺検査(重心動揺),等尺性体幹屈曲・伸展筋力,等尺性膝屈曲・伸展筋力などを計測した。統計学的処理は,各評価項目の前後比較に対応のあるt検定を使用し,危険率を5%未満とした。また効果量は,Cohenの方法を使用して差の大きさを表す指標であるdを算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】参加者は全て愛知医科大学痛みセンターを受診する患者であり,本プログラム参加に先立ち,主治医から,1)教室内容,2)安全に十分に配慮して実施すること,3)参加者の個人情報の保護に関する事項等に関し,十分な説明を行った後,参加同意を得た。
【結果】プログラム前後において,痛みの評価では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,PCS,EQ-5D,PSEQに有意な改善を認めた(p<0.05)。また身体機能評価では,体重,前屈,10m歩行,起居動作,身辺作業,6MD,重心動揺に有意な改善を認めた(p<0.05)。これら有意な改善を認めた項目のうち,PDAS,身辺作業は効果量大(0.8≦d)を示し,VAS,HAD抑うつ,PCS,EQ-5D,PSEQ,起居動作,6MDは効果量中(0.5≦d<0.8)を示した。また,HAD不安,前屈,10m歩行,重心動揺は効果量小(0.2≦d<0.5)を示した。
【考察】慢性痛患者は,痛みに対する認知の歪みから,過度の安静による活動量の減少や,運動に対する恐怖が生じやすいとされる。そのため,不安や抑うつ傾向などの精神・心理機能の低下,QOL,ADL,全身持久力,筋柔軟性および筋力などの低下を認めることが多く,本プログラム参加者においても同様の傾向であった。今回,学際的アプローチによる,認知行動療法に基づく講義と運動療法を組み合わせたことで,痛みに対する合理的な認知の構成や,適切な痛みへの対処法を習得し,運動に対する恐怖が軽減したと推察する。これに加えてグループの力動による継続効果も作用し,精神・心理機能の改善,全身持久力およびADLなどの向上を認め,二次的に痛みの改善に繋がったと推察する。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,難治性の慢性痛患者に対する学際的グループプログラムの有効性や効果の大きさを明らかにしたものであり,今後の慢性痛患者に対する治療アプローチの一助になるものと考える。
【方法】対象は,平成23年10月から平成25年9月までに開催された本プログラムの参加者37名(男性13名,女性24名),平均年齢66.2歳(34~81歳)である。1グループの定員は5~7名とし,週1回,全9回のスケジュールで実施した。プログラムは,痛みのメカニズム,ペーシング,睡眠,栄養などについての講義(30分),リラクセーション,ストレッチング,自重負荷による筋力強化エクササイズ(30分),エルゴメーターを使用した有酸素エクササイズ(10分),歩行を中心とした水中エクササイズ(30分)から構成される。講義は医師(整形外科,精神科,麻酔科),理学療法士,管理栄養士が担当し,適宜グループミーティングを交えて行った。また運動指導は医師(整形外科),理学療法士,トレーナーが担当した。本プログラム開始時と終了時に下記の評価を実施し,各評価項目の変化および効果量について調査,検討した。痛みの評価は,痛みの強さ:Visual Analog Scale(VAS),ADL:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),精神・心理:Hospital Anxiety and Depression scale(HAD不安,HAD抑うつ),Pain Catastrophizing Scale(PCS),QOL:EuroQol 5 Dimension(EQ-5D),自己効力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)などの質問票を使用した。また身体機能評価は,体重,長座体前屈(前屈),開眼片脚立位保持時間(片脚立位),10mジグザグ歩行(10m歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業能力テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD),開眼立位重心動揺検査(重心動揺),等尺性体幹屈曲・伸展筋力,等尺性膝屈曲・伸展筋力などを計測した。統計学的処理は,各評価項目の前後比較に対応のあるt検定を使用し,危険率を5%未満とした。また効果量は,Cohenの方法を使用して差の大きさを表す指標であるdを算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】参加者は全て愛知医科大学痛みセンターを受診する患者であり,本プログラム参加に先立ち,主治医から,1)教室内容,2)安全に十分に配慮して実施すること,3)参加者の個人情報の保護に関する事項等に関し,十分な説明を行った後,参加同意を得た。
【結果】プログラム前後において,痛みの評価では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,PCS,EQ-5D,PSEQに有意な改善を認めた(p<0.05)。また身体機能評価では,体重,前屈,10m歩行,起居動作,身辺作業,6MD,重心動揺に有意な改善を認めた(p<0.05)。これら有意な改善を認めた項目のうち,PDAS,身辺作業は効果量大(0.8≦d)を示し,VAS,HAD抑うつ,PCS,EQ-5D,PSEQ,起居動作,6MDは効果量中(0.5≦d<0.8)を示した。また,HAD不安,前屈,10m歩行,重心動揺は効果量小(0.2≦d<0.5)を示した。
【考察】慢性痛患者は,痛みに対する認知の歪みから,過度の安静による活動量の減少や,運動に対する恐怖が生じやすいとされる。そのため,不安や抑うつ傾向などの精神・心理機能の低下,QOL,ADL,全身持久力,筋柔軟性および筋力などの低下を認めることが多く,本プログラム参加者においても同様の傾向であった。今回,学際的アプローチによる,認知行動療法に基づく講義と運動療法を組み合わせたことで,痛みに対する合理的な認知の構成や,適切な痛みへの対処法を習得し,運動に対する恐怖が軽減したと推察する。これに加えてグループの力動による継続効果も作用し,精神・心理機能の改善,全身持久力およびADLなどの向上を認め,二次的に痛みの改善に繋がったと推察する。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,難治性の慢性痛患者に対する学際的グループプログラムの有効性や効果の大きさを明らかにしたものであり,今後の慢性痛患者に対する治療アプローチの一助になるものと考える。