第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脊髄損傷理学療法1

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM 第13会場 (5F 503)

座長:水上昌文(茨城県立医療大学理学療法学科)

神経 口述

[1176] 気管切開された筋萎縮症患者に対するPEEP弁付き救急蘇生バックを用いた深吸気療法の治療効果

佐藤善信1, 石蔵政昭2, 森兼竜二1, 春元康美1, 布原史翔1, 今泉正樹1, 桑田麻衣子1, 松本和美1, 鬮臺歩美1, 坂村慶明1, 星井輝之1, 中島光裕3, 福田清貴4, 岩﨑洋一1 (1.独立行政法人国立病院機構広島西医療センターリハビリテーション科, 2.独立行政法人国立病院機構広島西医療センター臨床工学室, 3.草津診療所, 4.独立行政法人国立病院機構広島西医療センター小児科)

Keywords:筋萎縮症, 救急蘇生バック, 治療効果

【はじめに,目的】
筋萎縮症患者に対する呼吸ケアとして,カフアシストや救急蘇生バックを気道クリアランスや肺吸気量を保つ目的で用いられている。しかし,気管切開された筋萎縮症患者において肺吸気量を保つことに対する効果を明らかにした先行研究は少ない。今回,PEEP弁付き救急蘇生バックを用いた深吸気療法をカフアシストの影響を除外するため痰絡みなどが少なくカフアシストと徒手介助を加えた器械的咳介助(mechanically assisted coughing:MAC)を定期的に行っていなかった患者に限定し肺機能に対する効果を検証することを目的とした。
【方法】
研究デザインは,非ランダム化比較対照試験とした。対象は,当院入所中または外来フォロー中の筋萎縮症患者161例のうち除外基準に該当しなかったDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)2例,福山型筋ジストロフィー(FCMD)6例,筋萎縮性側索硬化症(ALS)15例の計23例である。MACを定期的に実施していなかった群(7例)に対して,PEEP弁付き救急蘇生バックを用いたMIC(PEEP lung insufflation capacity:PIC)を5秒間息溜めし10セット毎週2回の頻度で3ヵ月間PEEP弁20cm H2O,その後3ヵ月間30cmH2Oにて実施した。定期的(約週2回の頻度)にMACを実施している群(16例)を対照群とした。除外基準は,他の進行性肺疾患,気胸の既往,血圧など不安定な患者,深吸気療法に同意を得られなかった患者等とした。PIC測定は,簡易流量計を用いてPEEP弁からリークするまで強制的に送気した後,PEEP弁を外して脱気した値とした。統計解析は,介入前後と対照群とのPICの比較に分割プロットデザインの分散分析を用い,事後検定として2標本t検定,Bonferroniの方法を選択した。統計学的有意水準は5%未満とした。統計ソフトにはSPSS17.0J for Windowsを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究実施においては,対象者に発表の趣旨を十分に説明し同意を得た上で行った。
【結果】
PIC介入群において多臓器不全などにより継続不可能となった2名を除いた計21例を対象としper protocol based解析を行った。ベースライン時において患者背景,PICに対して2群間に有意差は認めなかった。6ヵ月間の介入後,分割プロットデザインの分散分析から交互作用(p<0.05)を認めた。MAC群は前後比較で有意差を認めず,PIC介入群においては,前後比較(p<0.05),対照群との比較(p<0.05)に対して有意差を認めた。また,気胸などの合併症も全例認めなかった。
【考察】
6ヵ月間のPIC介入により2例を除いた全例においてPICの増加が認められた。気管切開された患者において,長期的に肺吸気量が低下し無気肺などを呈する可能性がある。筋萎縮症患者に対する長期的な呼吸ケアにおいて,PEEP弁付き救急蘇生バックを用いた深吸気療法は肺胞拡張を得るための方法として有用である可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
気管切開された筋萎縮症患者において,肺吸気量を保つことは重要と考えられているが,肺吸気量に関する先行研究は少なく効果に対するevidenceは乏しい。本研究では,PEEP弁付救急蘇生バックを用いて非ランダム化比較対照試験にて肺吸気量に対する効果をevidence level IIaにて証明した。また,PEEP弁付救急蘇生バックは,カフアシストと比較し排痰においては不利であるが安価で比較的簡便に使用することが可能であり,吸気量を測定することも可能である。気管切開された筋萎縮患者において,深吸気療法の効果に対する有用な知見が得られた。