第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学16

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM ポスター会場 (基礎)

座長:斉藤琴子(帝京平成大学地域医療学部理学療法学科)

基礎 ポスター

[1178] 健常成人の前方歩行と後方歩行の比較

牧野美里, 高見彰淑 (弘前大学大学院保健学研究科)

Keywords:後方歩行, 健常成人, 三次元動作解析

【はじめに,目的】後方歩行は,高齢者や脳卒中などの中枢神経疾患患者が困難とされる,後方へのバランス能力が必要であり,難易度が高い動作である。高齢者は若年者や中年者と比較し後方歩行パフォーマンスが著明に低下し,さらに転倒歴のある高齢者の方が無い高齢者に比べ著明に低下するという報告もある。しかし,脳卒中片麻痺患者を対象とした後方歩行に関する報告は見当たらない。今後,片麻痺患者への評価・治療につなげるため,パイロットスタディとして健常成人の後方歩行の特徴を捉えることを目的とした。
【方法】対象は下肢や腰部に問題となるような既往歴を有しない健常成人14名(男性7名・女性7名,年齢21.4±0.6歳,身長166.3±8.3cm,体重56.9±7.6kg)であった。
計測機器は,赤外線カメラ8台で構成される三次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製,Vicon Nexus)および床反力計1枚(AMTI社製,400mm×600mm)を使用し,サンプリング周波数は100Hzとした。三次元動作解析装置に設定されているPlug-in Gait Full Bodyモデルに従い,直径14mmの赤外線反射マーカーを対象者の身体の35か所に貼付した。解析には解析ソフトPolygon4を使用した。
床反力計上を通過するような5mの歩行路を設定し,床面に誘導用のラインを引いた。そのラインを見ながら,速度と歩幅は任意で前方歩行と後方歩行を行った。なお,後方歩行時は後方が見えずゴール地点が分からないため,ゴール手前1mから別の色のラインをもう1本引き,安全に止まれるよう何度が練習を行った。測定順序は前方歩行,後方歩行とした。
前方歩行では右踵接地から次の右踵接地まで,後方歩行では右前足部接地から次の右前足部接地までを1歩行周期とし,この期間の分析を行った。分析項目は,歩行速度,ストライド長,ケイデンス,立脚期,矢状面における下肢の関節角度と関節モーメントであった。統計学的分析は,対応のあるt検定とウィルコクソン符号付順位和検定を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者には本研究の概要等を充分に説明し,書面にて同意を得た。また弘前大学大学院医学研究科倫理員会の承認を得てから実施した。
【結果】結果を前方歩行,後方歩行の順で示す。歩行速度(m/sec)1.3±0.1,0.8±0.1,ストライド長(m)1.3±0.1,1.0±0.1,ケイデンス(steps/min)111.8±7.9,102.8±10.5であり,いずれも前方歩行と比較し後方歩行で有意に低下した。立脚期は59.8%,59.4%と有意差はなかった。関節角度の最大値(°)で有意差があったのは,股関節伸展14.8±5.0,5.1±4.7,膝関節屈曲59.5±7.6,40.0±9.0,足関節底屈14.0±6.5,2.7±7.8であった。股関節屈曲30.3±2.8,29.5±5.5,膝関節伸展-4.4±3.9,-5.1±5.5,足関節背屈16.9±4.4,23.2±5.9では有意差がなかった。関節モーメントの最大値(Nm/kg)で有意差があったのは,股関節屈曲0.7±0.3,0.4±0.1,股関節伸展0.7±0.2,0.6±0.3,膝関節屈曲0.4±0.1,0.3±0.1,膝関節伸展0.5±0.2,0.4±0.3であった。足関節背屈0.1±0.03,0.1±0.05,底屈1.6±0.2 N,1.5±0.3では有意差がなかった。
【考察】同じ歩行速度で比較した場合,後方歩行では前方歩行と比較してケイデンスが高値となり,歩幅が低値となると言われている。しかし,今回は後方歩行で歩行速度が有意に低下したため,ケイデンスが減少したと考える。
股・膝・足関節ともに,前方歩行と比較し後方歩行で関節運動範囲が減少していた。特に股関節伸展角度が減少したことにより,ストライド長が減少したと考える。また関節モーメントはレバーアームと力の積で算出されるが,健常前方歩行では,床反力が関節から遠く離れることはなく,関節モーメントは小さいと言われている。後方歩行では関節運動範囲の減少により,前方歩行より股関節と膝関節の関節モーメントが有意に低下したと考える。足関節に関しては,底屈モーメントに有意差は見られなかったが,ピークの出現位置が,前方歩行では立脚期の後半,後方歩行では前半と異なっていた。後方歩行は前足部から接地するため,前方歩行でみられるような蹴り出しが見られず,このこともストライド長の減少に関与していると思われる。
【理学療法学研究としての意義】健常成人の特徴を捉えることで,今後,片麻痺患者と比較することができると考える。片麻痺患者の特徴を捉えることができれば,より効果的なトレーニングの提供や,転倒リスクの評価や転倒防止対策の一助となる可能性もあり,臨床や日常生活への応用につなげることができると考える。