第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動生理学2

Sat. May 31, 2014 3:45 PM - 4:35 PM ポスター会場 (基礎)

座長:高橋真(広島大学大学院医歯薬保健学研究院統合健康科学部門)

基礎 ポスター

[1185] 42℃20分間の入浴における唾液中分泌型グロブリンA動態

山城麻未1, 木下利喜生2, 櫻井雄太1, 小川真輝4, 藤田恭久2, 森木貴司2, 太田晴基1, 東山理加1, 児嶋大介3, 幸田剣1, 田島文博2 (1.那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科, 2.公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション科, 3.公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院紀北分院リハビリテーション科, 4.社会医療法人黎明会北出病院リハビリテーション科)

Keywords:分泌型免疫グロブリンA, 温熱療法, 交感神経

【はじめに】
唾液中に含まれる分泌型免疫グロブリンA(sIgA)は病原体の粘膜下への侵入を防ぐことで感染を防御し,口腔内局所免疫機能における主要な役割を果たすと考えられている。また比較的容易にかつ非侵襲的に採取が可能なこともあり口腔内免疫機能の評価に多く用いられている。
免疫機能は栄養状態やストレスにより影響される。高強度の運動後では,唾液中sIgA濃度やnatural killer細胞活性が一過性に低下するため,感染症を引き起こし易いと言われている。栄養状態や免疫機能が低下している患者に対し,運動負荷を加えていくためにこれらの知見を理解しておくことは重要である。
また湯治に代表されるように,入浴は免疫機能を向上させる。42℃の足浴が唾液中sIgAを上昇させたとの報告もあるが,我々の知る限り42℃の入浴による唾液中sIgA動態を調査した報告は見当たらない。42℃の入浴は高温水であるため逆に強いストレスとなり,唾液中sIgAに影響する可能性も考えられる。今回,42℃20分間の入浴前後での唾液中sIgAと,その動態に関する自律神経活動の指標であるアドレナリン・ノルアドレナリン,及びストレスの指標としてコルチゾール・ボルグスケールを測定し,検討することで若干の知見を得たため報告する。
【方法】
健常成人男性8名(平均年齢25.8±1.2歳)を対象とした。室温28℃の環境下で30分間の安静座位をとり,42℃20分間の入浴を行った。その後,再び室温28℃の環境下で1時間安静座位をとった。実験中は自由飲水としたが,唾液採取15分前から唾液採取までは飲水を控えた。唾液採取と採血は,入浴前,入浴終了直後(入浴直後),入浴後1時間(入浴後1h)に行った。唾液採取はDraining methodを用いて,2または3分間で行い,測定に最低限必要となる1gを得るため実験前に唾液採取のプレを実施し,採取時間を決定した。測定項目は唾液中sIgA,血中アドレナリン,ノルアドレナリン,コルチゾール,ボルグスケールとした。各項目の平均値と標準誤差を求め,ボルグスケールは中央値と四分位偏差を求めた。統計解析は入浴前後で一元配置分散分析を行った後,post hoc testとしてFisher’s LSDを用いて検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会で承認された。被験者に実験の目的,方法及び危険性を説明し,同意を得た上で行った。
【結果】
唾液採取時間は,8名中3名が2分間,5名が3分間であった。唾液量は入浴前後で有意差は認められなかった。唾液中sIgA濃度は入浴前(5.45±1.67mg/dl)と比較し,入浴直後(8.16±1.47 mg/dl)(p<0.05)に有意な上昇が認められ,入浴後1hには入浴前水準に戻った。
血中アドレナリン・ノルアドレナリンは入浴前(52.4±6.9pg/ml,236.9±21.4pg/ml)と比較し,入浴直後(114.9±28.8pg/ml,493.0±51.6pg/ml)(p<0.01)に有意な上昇が認められ,入浴後1hには入浴前水準に戻った。
コルチゾールは入浴前(11.3±1.0μg/dl)と比較し,入浴直後では有意差は認められず,入浴後1h(18.7±1.7μg/dl)(p<0.01)で有意な上昇を認めた。ボルグスケールは入浴前が7±1.5,入浴直後が17±0.3,入浴1h後が6.5±3.0であった。
【考察】
本研究において,42℃20分間での入浴により唾液中sIgA濃度が一過性に上昇することが判明した。唾液量の変動はみられなかったため,唾液量減少からの唾液中sIgA濃度上昇の可能性はないと考える。したがって,高温水での入浴による温熱負荷が唾液中sIgA濃度上昇を惹起する因子であると考えられる。唾液中sIgA濃度を上昇させる因子として交感神経活動による機序が報告されている。Proctorらはラットのβアドレナリン受容体を刺激することで唾液中sIgA分泌が上昇すると報告し,Judithらも交感神経賦活が唾液量に影響を及ぼす事なく唾液中sIgA分泌率を上昇させると報告している。本研究では,血中アドレナリンとノルアドレナリンが有意に上昇しており,交感神経活動亢進によって唾液中sIgA濃度が上昇したと考えられる。
また入浴直後のボルグスケールは17±0.3であり,入浴後1hのコルチゾールも有意に上昇していたことから42℃の入浴は強いストレスになると考えられた。しかし本研究により,高強度の運動負荷時のような唾液中sIgA濃度の低下は惹起されないことが分かった。
今回の結果より,唾液中sIgA濃度が上昇したことから,42℃20分間の入浴は,健康増進を目的とした温熱療法として推奨できると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において42℃20分間の入浴は,唾液中sIgA濃度の有意な上昇を認めた。ストレス環境下においても口腔内免疫機能低下は惹起されず,健康増進を目的とした入浴効果が得られることが示唆された。