第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

代謝2

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 ポスター会場 (内部障害)

座長:重田暁(北里大学北里研究所病院診療技術部リハビリテーション技術科)

内部障害 ポスター

[1194] 介護老人保健施設での運動療法と栄養管理による体重減量の取り組みが効果的だった症例

上杉睦, 園英則 (医療法人社団善仁会介護老人保健施設ハートフル瀬谷)

キーワード:介護老人保健施設, 肥満, 減量指導

【はじめに,目的】
肥満は様々な疾患の要因であり,整形疾患や内部障害などのガイドラインでも肥満の改善や減量指導が推奨されている。また,日常生活動作でも肥満は立ち上がり動作,歩行動作などの努力量を増加させる要因である。肥満に対しては有酸素運動や運動療法の実施と,栄養管理の継続が重要である。介護老人保健施設(老健)では多職種による包括的ケアの提供が可能で,運動療法や栄養管理を,中長期的に継続することが可能である。今回,老健の2度の入所と通所リハビリの利用による体重減少の取り組みが効果的であった症例を経験し,3年間の調査を行ったので報告する。
【方法】
80歳代,女性,身長160.0cm,BMI31.3,肥満II度(日本肥満学会基準),FIM93点(運動13項目73点),既往歴は脳梗塞,心不全。脳梗塞の発症により急性期病院に入院の後,当老健へ1度目の入所(初回入所)をする。6カ月の入所の後,在宅復帰し同老健の通所リハビリを週2回利用する(在宅)。在宅生活2年経過時に老健に2度目の入所(再入所)をする。9カ月の入所の後,再度在宅へ復帰する(再在宅)。老健入所時は運動療法を週5回,座位エルゴメータ15分(カルボーネン法,定数0.4にて目標心拍数を設定),連続歩行運動20分を実施した。栄養管理では管理栄養士により,1日エネルギー1500kcal,タンパク質60gの食事提供を行った。通所利用時は運動療法を週2回実施。内容は入所時と同様で負荷量の調整を行った。評価項目は全期間を通じて1ヵ月毎の体重を測定した。また,下肢伸展筋力(OG技研,GT-3500),Timed Up & Go Test(TUG),5m歩行速度,ファンクショナルリーチテスト(FRT),握力,FIMを3ヵ月ごとに測定した。また,5m歩行直後の膝関節の疼痛についてNRSを測定した。退所時の訪問指導では1度目の退所時は理学療法士による家屋改修,2度目は管理栄養士による栄養指導を本人と家族に行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の実施および個人情報の取り扱い方法に関してはヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針を順守し,対象者および家族に説明と書面の署名にて同意を得た。
【結果】
体重(kg)は初回入所時77.4,入所後6ヵ月後は67.9に減少した。しかし,在宅生活後10ヶ月に79.8に増加した。再入所後は入所後8ヶ月で71.0に減少し,再在宅後3ヵ月後も70.3で経過した。5m歩行(秒)は初回入所時13.3が6か月後12.4,再入所時38.7が入所後8か月後に11.7に改善した。TUG(秒)は初回入所時40.3が6ヵ月後34.9に,再入所時は67.0となったが再入所後7ヵ月後に27.9に改善した。NRSは初回入所時8/10が入所3日ヵ月後に5/10,5ヵ月後に3/10と改善した。膝伸展筋力,FRT,握力,FIMは特徴的な変化はなかった。
【考察】
老健入所における集中的な運動療法と栄養管理の実施により,1ヵ月に2~3kgの理想的な体重減少が達成できた。下肢筋力の変化はなかったが歩行速度が改善したことより,体重減少による動作の改善や膝関節の負担の軽減による疼痛の減少の効果が考えられる。老健入所による集中的な運動療法の実施や栄養管理の継続は肥満の改善に効果的である。一方,在宅生活では日常生活での運動量確保や栄養管理の徹底とその継続は難しく,本人,家族への指導や環境の調整と通所サービスの利用による継続的な管理が重要である。
【理学療法学研究としての意義】
老健の役割は在宅復帰支援,在宅生活の継続支援である。現在の法制度において今回の症例のように,疾患名に関わらず中,長期的に理学療法士や他の職種が包括的に介入できる環境が老健の特徴である。今後,老健で理学療法士の役割の拡大を図る取り組が必要である