第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅7

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:寺島秀幸(訪問看護リハビリステーション桜)

生活環境支援 ポスター

[1199] 訪問リハ対象者の生活形態と睡眠の関係

江口宏1, 青木大輔1, 松尾恵利香1, 村尾彰悟1, 堀健作1, 江原加一1, 谷口善昭3, 福田恵美子1, 當利賢一2, 百留あかね1, 大久保智明1, 野尻晋一1,2, 山永裕明3 (1.訪問看護ステーション清雅苑, 2.介護老人保健施設清雅苑, 3.熊本機能病院)

キーワード:睡眠障害, 生活活動, PSQI

【はじめに,目的】
睡眠障害には服薬など医学的介入だけでなく,日常生活への包括的な介入が必要とされる。睡眠状態を規定する因子には睡眠負債と体内時計がある。睡眠負債とは覚醒時間が長いほど眠気が増す概念を指す。体内時計とは各体細胞が時計をもつという概念で,眠気は体内時計の影響で変化する。訪問リハは,睡眠負債を適切に保つための活動性向上や,体内時計を社会的時刻に合わせるための生活習慣の指導を生活の現場で実施できる。このことから,訪問リハは在宅生活者の睡眠状態を改善できる可能性を持つ。今回,訪問リハ対象者の生活形態と睡眠との関連を調査し,睡眠に対する訪問リハの在り方を考察した。
【対象】
対象は訪問リハ利用者74名(年齢69±11.52歳,男性37名女性37名)。疾患内訳は,脳血管障害40名,パーキンソン病13名,骨関節疾患18名,神経難病3名。要介護度分布は,要介護者63名(要介護1:17名,2:26名,3:11名,4:5名,5:4名),要支援者11名(要支援1:3名,2:8名)。通所サービス利用率は70%(52/74人)。
【方法】
H25.7.1~H25.7.30に訪問リハスタッフが問診でピッツバーグ睡眠質問票(以下,PSQI)を記入した。PSQIは過去1か月間の量的・質的な睡眠状態を把握するもので,信頼性・妥当性の証明された尺度である。この評価で「睡眠の質」,「睡眠時間」,「入眠時間」,「睡眠効率」,「睡眠困難」,「眠剤使用」,「日中の眠気」の7つの睡眠障害要素(以下,要素)が把握できる。各要素の得点(0-3点)を加算し総得点(21点満点)を算出する。高得点ほど睡眠が障害されていると評価する。
PSQIの総得点を目的変数とした重回帰分析(変数選択増減法)を行った。説明変数は基本属性として年齢,要介護度,訪問リハ開始からの日数,睡眠負債に関与する変数として2次活動(家事など義務的性格が強いもの)割合(%/週),主体的3次活動(散歩,読書,創作活動など主体的で活動性の高いもの)割合(%/週),消極的3次活動(ごろ寝,テレビ鑑賞など受動的で活動性の低いもの)割合(%/週),体内時計に関与する変数としてH25.7.15熊本地方での日の出時刻と起床時刻の差(分,以下時刻差)とした。統計はExcel統計2010を用い,P値・標準偏相関係数(β),修正R2を算出した。有意水準は0.05%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当研究は法人内倫理委員会の規定に則り,研究の主旨を対象者に説明,同意を得て実施した。
【結果】
PSQI総得点は6.5±3.9点であった(男性5.5±3.9点,女性7.5±3.8点)。西村らが行った健常者60歳以上587名のPSQI総得点は男性2.8±2.1点,女性3.8±2.8で,本研究の対象の睡眠状態が悪かった。また,要素間では「睡眠の質」(83.8%),「睡眠困難」(74.3%),「入眠時間」(56.8%)に問題を有した。
重回帰分析の結果,①主体的3次活動割合p=0.026β=-0.2537,②訪問開始からの日数p=0.036β=0.2395,③時間差p=0.1309β=0.1715が抽出された。修正R2=0.1007。なお,すべての説明変数間で多重共線性はなかった。
【考察】
本研究での対象者は中途覚醒,入眠困難を有す者が多く,健常者よりも睡眠状態が悪い傾向にあった。
年齢,要介護度に関わらず,主体的3次活動割合が高いほど睡眠状態が良かった。消極的3次活動割合はPSQIの総得点と有意な相関がないことから,介入は単に日中覚醒時間を増やすだけでなく主体的3次活動の導入・継続が睡眠状態の改善に必要と考えられた。
また,在宅生活期間が長いほど睡眠状態が悪かった。今回は横断研究にて同対象者間の睡眠状態の変化を調査していないが,在宅生活者の睡眠状態は経時的に変わる可能性が示唆された。
時刻差は睡眠状態との有意な相関はなかった。閉眼状態でも光は受容できるとされており,起床前に光を受容している可能性がある。そのため時刻差のみの変数では体内時計への関与が説明できなかったと考えられる。
修正R2は0.1007と低かった。これは睡眠状態を規定する因子が他にもあることを意味する。今後多くの対象者の睡眠に関心をもち,様々な介入戦略をもつ必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
主体的3次活動を獲得させることが良質な睡眠に必要と示唆された。訪問リハ利用者が主体的3次活動を獲得するには,専門的な介入が必要である。理学療法士が対象者の心身機能・活動について深く評価し,時間をかけ粘り強く介入することが効果的である。睡眠の介入において,理学療法士が担う重要性を認識できた研究である。