第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅7

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:寺島秀幸(訪問看護リハビリステーション桜)

生活環境支援 ポスター

[1200] 当院訪問リハビリテーションにおける,熱中症予防の取り組み

今井隆雄, 長尾哲也, 竹内丘, 金崎嘉恵, 香川久圭, 友森沙弥華 (三豊市立西香川病院リハビリテーション科)

キーワード:訪問リハビリテーション, 在宅支援, 熱中症

【はじめに,目的】
近年,急激な温暖化現象に伴い,夏場になると,熱中症で搬送された人や,不幸にも亡くなられた人のニュースが毎日のように流れている。その数も年々増加している。その多くは,エアコンを使ってなかったり,十分な水分摂取ができてなかったことが原因で,家屋内にて,熱中症を発症している。
訪問リハ利用者にも,エアコンの設置が無い部屋で,すごされている人や,エアコンの風が麻痺側に当たると痛いから等,エアコンがあっても使用していない人,またリハビリ時には使用しているが普段は,ほとんど使用していない人,トイレに行く回数が増えるからと水分摂取の少ない人など,熱中症のリスクの高い人がいる。
訪問リハ時,熱中症予防の指導として,エアコンの使用や水分摂取を促し,対処方法を伝えている。しかし口頭だけの指導であったため,まだまだ十分な対策を実施できていない人がいる。
そこで,利用者の現状を把握し,熱中症に対する情報(厚生労働省,消防庁,環境省,自治体など)を詳しく調べた。それらを資料にして渡し,熱中症に注意を促すことを目的とした。
【方法】
対象は,当院訪問リハ利用者69名(男性44名,女性25名,平均年齢79.1±10.0歳,平均要介護度2.9)とした。
調査は,各担当療法士が聞き取り調査用紙を用いて行った。
現状の調査項目は,性別,年齢,主疾患,要介護度,エアコンの使用状況,一日の水分摂取量,の6項目とした。
熱中症対策として,本人・家族に資料を手渡し,室温のコントロールと水分摂取に注意を促した。後日,資料配布と説明による効果を調査し,分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
訪問リハ利用者・ご家族に,本研究の意図を十分に説明し,同意を得た上で,聞き取り調査を実施した。
【結果】
現状の調査では,エアコンをほぼ常時使用している人は,49名(71.0%),リハビリ時のみ使用11名(15.9%),あるが未使用6名(8.7%),なし3名(4.3%)であった。
一日の水分摂取量は,1500ml以上26名(39.4%),1200~1499mlは13名(19.7%),1000~1199mlは15名(22.7%),1000ml未満12名(18.2%)であった。(PEG 2名とIVH 1名は水分摂取の計算から省いた)
性別による違いは認められなかったが,主疾患による違いとしては,エアコンの設置なし3名と未使用者6名は,すべて脳神経疾患者であった。要介護度による違いは,水分摂取において要介護度の高い人ほど,水分摂取量が少ない傾向にあった。
資料配布と説明による効果として,室温のコントロール面では,エアコンの無かった3名のうち2名が新しく設置された。エアコン未使用だった6名のうち5名が使用するようになった。エアコンの使用時間の延長を図られた人が11名中6名であった。その結果,エアコンをほぼ常時使用している人は,58名(84.1%),リハビリ時のみ使用9名(13.0%),あるが未使用1名(1.4%),なし1名(1.4%)となった。室温計を新しく設置された人が4名となっている。
水分摂取の面では,水分摂取量の増加が15名(22.7%)にあった。その結果,1500ml以上29名(43.9%),1200~1499mlは14名(21.2%),1000~1199mlは16名(24.2%),1000ml未満7名(10.6%)と改善された。
家族も室温,水分摂取量に注意するようになったと答えられた人が43名(62.3%)であった。
多くの人が,熱中症を予防できたが,1名約3週間の入院となってしまった。
【考察】
熱中症対策として,本人・家族に資料を手渡し,室温が28℃を超えないようにエアコンを使用し,コントロールするように注意していただいた。また水分摂取は,一日に1500ml以上を目標とし,少なくとも1200mlは,取るように促した。
その結果,多くの人(58名84.1%)に,エアコンをほぼ常時使用した室温コントロールがなされるようになった。水分摂取においても,15名(22.7%)に摂取量増加が図られた。中には,経口補水液(OS-1)を購入して摂取されるようになった人もいた。また,飲料水からのみでは十分な量の摂取が難しい人にゼリーや果物から水分摂取するように工夫されている人もいた。
しかし,残念ながら1名に熱中症での入院があった。エアコンは常時使用されていたものの,一日の水分摂取量が800mlと少なかった。96歳で認知症もあったため,家族に摂取量を増やすよう依頼をしていたが,十分な量を得ることは難しく,入院となってしまった。
今回,資料を手渡しすることにより,目で見ても分かりやすく,具体的に数値で予防方法を伝えることで,本人・家族に注意を促すことができ,大多数の方が,室温や水分摂取量に注意するようになっており,効果があったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究は,在宅生活を支援する方法の一助になると考える。
在宅生活を支援する訪問リハの役割として,リハビリの成果をあげることだけでなく,各種疾患の予防に取り組むことも大切な要素であると考える。
今後は,冬場に多いインフルエンザやおう吐下痢症といった他疾患の注意喚起も資料を用いて実施していきたい。