第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 教育・管理理学療法 ポスター

管理運営系2

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 ポスター会場 (教育・管理)

座長:山田千鶴子(専門学校社会医学技術学院理学療法学科)

教育・管理 ポスター

[1205] 理学療法士の精神的疲労に関する調査(2)

栗林由佳1, 上村佐知子2, 皆方伸1, 佐藤雄一1 (1.秋田県立脳血管研究センター機能訓練部, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻)

キーワード:精神的疲労, ストレスコーピング, メンタルヘルス

【はじめに,目的】理学療法士(以下PT)が患者対応の場面で精神的疲労を感じたとき,どのように対処しているかを経験年数ごとに知ることで,精神的疲労の軽減や今後のメンタルヘルスへの取り組みの手掛かりとする。
【方法】秋田県理学療法士会に所属し,医療機関に勤務するPTを対象に患者対応におけるストレスについてアンケート調査を行なった。調査内容は年齢,性別,勤務年数などの個人属性について質問した。患者対応における精神的疲労の調査は,4つの状況:①治療に対し,患者の理解が得られない状況(治療の拒否など),②患者に不適切な感情を抱かれた状況(患者に過度に依存されたなど),③患者に不適切な感情を抱いた状況(患者への嫌悪など),④患者が苦しんでいる状況(障害への悲観)に分類し,それぞれについて対処方法を質問した。対処方法はコーピングの分類(Steptoe,1994)を基に作成されたストレスコーピングに対応した質問表を用いて当てはまるものを選択してもらい(複数回答可),問題焦点型,情動焦点型,回避・逃避型の3つに分類した。経験年数と対処方法の傾向を調査するため,経験年数ごとに新人群(3年未満),中堅群(4~10年),ベテラン群(11年以上)の3群に分け,単純集計を実施した。さらに経験年数を説明変数,対処方法を独立変数としてSPSS17.0を用いて統計処理を実施した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的などを記載した依頼文を調査用紙とともに配布し,調査用紙への回答をもって同意したとみなした。なお,匿名性を保証するため,本調査は無記名にて実施した。
【結果】回収率は364名中239名(65.6%)であった。内訳は男性125名(52%),女性110名(46%),平均年齢は32.9歳,平均経験年数は9.53年であった。①の状況(治療の拒否など)では,経験年数とともに問題焦点型コーピングが増加する傾向があった。②の状況(患者に過度に依存されたなど)では,新人群では問題焦点型コーピングが少なく,また経験年数とともに回避・逃避型コーピングが増加する傾向があった。③の状況(患者への嫌悪など)では,経験年数とともに情動焦点型コーピングが減少し,新人群では回避・逃避型コーピングが多い傾向があった。④の状況(障害への悲観)では,問題焦点型コーピングは中堅群が最も多かった。経験年数と対処方法の傾向について,①の状況では,「時が過ぎるのを待つ」ことで対処する者は中堅群が新人群に比べ有意に多かった。③の状況では,「自分の置かれた状況を人に聞いてもらう」ことで対処する者が中堅群,ベテラン群ともに新人群よりも有意に多かった。④の状況では,「情報を集める」ことで対処する者が中堅群は新人群より有意に多かった。
【考察】患者対応における精神的疲労は,経験を積むとともに減少する傾向があると報告されている。本研究では,新人の精神的疲労への対処方法の特徴について考察する。一般に,ストレス状況をコントロール可能と認知した場合には問題焦点型コーピングが増加し,コントロールできないと判断すると情動焦点型コーピングや回避・逃避型コーピングが行なわれる。③の状況(患者への嫌悪など)以外では問題焦点型コーピング,回避・逃避型コーピングは経験年数とともに増加していた。これは経験を積むとともに,ストレス状況をPT自身でコントロール可能か否かを適切に判断できるようになったためと考えられる。一方,③の状況では問題焦点型コーピング,回避・逃避型コーピングは経験年数とともに減少傾向にあり,新人では約半数が回避・逃避型コーピングを選択していたが,中堅以上では「自分の置かれた状況を人に聞いてもらう」ことで対処する者が多かった。人に話を聞いてもらうことは問題に対する助言を求める問題焦点型コーピングと,心理的安定を図る情動焦点型コーピングの要素をもつとされている。自己の感情をコントロールすることが求められる③のような状況下において,中堅以上では心理的安定を図りつつ問題に向き合うが,新人はストレス反応を軽減させるため,問題に直面せずストレス状況を回避・逃避する特徴があるということが示された。
【理学療法学研究としての意義】本邦においては,理学療法士の身体的疲労に関する報告は多いが精神的疲労に関する報告は少ない。本研究ではPTの患者対応における精神的疲労への対処方法の傾向が示され,精神的疲労の軽減や今後のメンタルヘルスへの取り組みの手掛かりを提示できた。