[1207] 膝前十字靱帯損傷および再建術後の重心動揺に与える運動覚,下肢筋力の影響
Keywords:前十字靱帯, 重心動揺, 性差
【はじめに,目的】
膝前十字靱帯(以下,ACL)損傷者の重心の動揺性は,受傷後早期から慢性期にかけて低下し,再建術後1年以上経過すると改善されると報告されている。それらの報告は膝関節固有感覚と関連付けたものが多い。しかし,ACL損傷および再建術後の重心動揺について,下肢筋力を含め多角的に検討したものや潜在的な平衡機能の性差を考慮した報告は少ない。そこで本研究では,ACL損傷および再建術後患者において,重心動揺に与える固有感覚の一つである運動覚,下肢筋力の影響を男女別に検討することを目的とする。
【方法】
対象は片側ACL損傷後,ACL再建術を施行した患者26名(男性13名,女性13名)とした。再建術前,術後6ヶ月(以下,6M),術後12ヶ月(以下,12M)の計3回の時期に,以下の3項目を測定した。1)重心動揺の測定には,下肢加重計G-620(ANIMA社製)を使用し,閉眼片脚立位を20秒間測定した。測定項目は総軌跡長,外周面積とした。2)膝関節運動覚の測定には,固有位置覚・運動覚測定装置(センサー社製)を使用し,膝関節15°屈曲位から,屈曲または伸展方向へ角速度0.2°/secにて他動的に下腿を動かした。対象者が運動開始からスイッチを押すまでの経過時間を記録した。3)下肢筋力の測定には等速性筋力測定装置BIODEX System3(BIODEX Medical社製)を使用し,角速度60°/secにて膝関節伸展および屈曲筋力を測定した。測定値は最大トルク値を体重で正規化した。
統計処理には男女別に各項目の各時期の値の比較に一元配置分散分析とBonferroniの多重比較検定を用い,各時期における重心動揺と下肢筋力,運動覚の関係性をPearsonの相関分析を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨を説明し,協力の同意を得た。本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】
総軌跡長は男性では有意な改善はみられなかったが,女性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に改善した。外周面積および運動覚は,男女ともに有意な改善はみられなかった。膝関節伸展筋力は男性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に増加し,女性では各時期において有意に増加した。膝関節屈曲筋力は男性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に増加し,女性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に増加した。
重心動揺との相関関係について,男性は6Mで総軌跡長と膝関節伸展筋力に強い負の相関,総軌跡長と運動覚伸展方向に強い正の相関を認め,12Mで総軌跡長および外周面積と膝関節伸展筋力に中等度の負の相関を認めた。一方,女性では6Mで外周面積と運動覚屈曲方向に中等度の正の相関を認め,12Mでは外周面積と運動覚伸展方向に中等度の正の相関を認めた。
【考察】
今回の結果,総軌跡長は女性の12Mで,膝関節屈曲伸展筋力は男女の主に12Mで改善がみられたが,運動覚の有意な改善はみられなかった。またACL再建術後の重心動揺には,男性では6Mで膝関節伸展筋力および運動覚,12Mで膝関節伸展筋力が関連し,女性では6M,12Mで運動覚が関連していた。先行研究において,ACL損傷者の重心動揺の増加は固有感覚の低下によるものと結論付けている報告が多い。しかし,本研究では術前の重心動揺と固有感覚の一つである運動覚との間に有意な相関関係を認めなかった。これは靭帯損傷による特有の病変などが寄与して求心性神経の病変が起こる,関節の求心路遮断が一因だと考えられる。これにより,運動覚情報の中枢への伝達が阻害され,運動覚情報を姿勢制御にフィードバックすることができなかったと考える。またACL損傷膝ではこのような機能的不安定性だけでなく,機械的不安定性などのその他様々な要因が重心動揺に影響を与えると考える。そしてACL再建後については,再建靭帯での体性感覚誘発電位で,術後6ヶ月で中枢神経系の回復が認められたという報告から,術後6ヶ月以降では求心性神経の病変が改善された可能性があり,重心動揺と運動覚の相関が認められたと考えられる。また男性のみ重心動揺と膝関節伸展筋力の相関を認めたのは,大腿四頭筋とハムストリングの同時収縮による膝関節運動の制動力は,女性より男性の方が大きいことが一因であると考える。それにより,男性では片脚立位時の膝関節の動揺を制御するために,下肢筋力の影響が大きくなると考えられる。今回の結果から,ACL再建後の重心動揺に与える影響因子に性差がみられたため,それらを理学療法プログラムに活かすことが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後の重心動揺を改善するためには,男女ともに運動覚の改善が必要であり,特に男性では膝関節伸展筋力が影響することが示唆された。理学療法を行う際には,これらのことに留意して重心動揺の改善を図るべきである。
膝前十字靱帯(以下,ACL)損傷者の重心の動揺性は,受傷後早期から慢性期にかけて低下し,再建術後1年以上経過すると改善されると報告されている。それらの報告は膝関節固有感覚と関連付けたものが多い。しかし,ACL損傷および再建術後の重心動揺について,下肢筋力を含め多角的に検討したものや潜在的な平衡機能の性差を考慮した報告は少ない。そこで本研究では,ACL損傷および再建術後患者において,重心動揺に与える固有感覚の一つである運動覚,下肢筋力の影響を男女別に検討することを目的とする。
【方法】
対象は片側ACL損傷後,ACL再建術を施行した患者26名(男性13名,女性13名)とした。再建術前,術後6ヶ月(以下,6M),術後12ヶ月(以下,12M)の計3回の時期に,以下の3項目を測定した。1)重心動揺の測定には,下肢加重計G-620(ANIMA社製)を使用し,閉眼片脚立位を20秒間測定した。測定項目は総軌跡長,外周面積とした。2)膝関節運動覚の測定には,固有位置覚・運動覚測定装置(センサー社製)を使用し,膝関節15°屈曲位から,屈曲または伸展方向へ角速度0.2°/secにて他動的に下腿を動かした。対象者が運動開始からスイッチを押すまでの経過時間を記録した。3)下肢筋力の測定には等速性筋力測定装置BIODEX System3(BIODEX Medical社製)を使用し,角速度60°/secにて膝関節伸展および屈曲筋力を測定した。測定値は最大トルク値を体重で正規化した。
統計処理には男女別に各項目の各時期の値の比較に一元配置分散分析とBonferroniの多重比較検定を用い,各時期における重心動揺と下肢筋力,運動覚の関係性をPearsonの相関分析を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨を説明し,協力の同意を得た。本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】
総軌跡長は男性では有意な改善はみられなかったが,女性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に改善した。外周面積および運動覚は,男女ともに有意な改善はみられなかった。膝関節伸展筋力は男性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に増加し,女性では各時期において有意に増加した。膝関節屈曲筋力は男性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に増加し,女性では12Mにおいて術前,6Mに比べ有意に増加した。
重心動揺との相関関係について,男性は6Mで総軌跡長と膝関節伸展筋力に強い負の相関,総軌跡長と運動覚伸展方向に強い正の相関を認め,12Mで総軌跡長および外周面積と膝関節伸展筋力に中等度の負の相関を認めた。一方,女性では6Mで外周面積と運動覚屈曲方向に中等度の正の相関を認め,12Mでは外周面積と運動覚伸展方向に中等度の正の相関を認めた。
【考察】
今回の結果,総軌跡長は女性の12Mで,膝関節屈曲伸展筋力は男女の主に12Mで改善がみられたが,運動覚の有意な改善はみられなかった。またACL再建術後の重心動揺には,男性では6Mで膝関節伸展筋力および運動覚,12Mで膝関節伸展筋力が関連し,女性では6M,12Mで運動覚が関連していた。先行研究において,ACL損傷者の重心動揺の増加は固有感覚の低下によるものと結論付けている報告が多い。しかし,本研究では術前の重心動揺と固有感覚の一つである運動覚との間に有意な相関関係を認めなかった。これは靭帯損傷による特有の病変などが寄与して求心性神経の病変が起こる,関節の求心路遮断が一因だと考えられる。これにより,運動覚情報の中枢への伝達が阻害され,運動覚情報を姿勢制御にフィードバックすることができなかったと考える。またACL損傷膝ではこのような機能的不安定性だけでなく,機械的不安定性などのその他様々な要因が重心動揺に影響を与えると考える。そしてACL再建後については,再建靭帯での体性感覚誘発電位で,術後6ヶ月で中枢神経系の回復が認められたという報告から,術後6ヶ月以降では求心性神経の病変が改善された可能性があり,重心動揺と運動覚の相関が認められたと考えられる。また男性のみ重心動揺と膝関節伸展筋力の相関を認めたのは,大腿四頭筋とハムストリングの同時収縮による膝関節運動の制動力は,女性より男性の方が大きいことが一因であると考える。それにより,男性では片脚立位時の膝関節の動揺を制御するために,下肢筋力の影響が大きくなると考えられる。今回の結果から,ACL再建後の重心動揺に与える影響因子に性差がみられたため,それらを理学療法プログラムに活かすことが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後の重心動揺を改善するためには,男女ともに運動覚の改善が必要であり,特に男性では膝関節伸展筋力が影響することが示唆された。理学療法を行う際には,これらのことに留意して重心動揺の改善を図るべきである。