[1208] 膝前十字靭帯損傷膝の膝関節不安定性の検討-歩行及びランニング動作に着目して-
Keywords:前十字靭帯損傷, 膝関節, 運動学的解析
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷はスポーツ活動で発生頻度の高い障害のひとつであるが,損傷による膝関節不安定性により日常生活やスポーツ活動などに影響を及ぼす。一般に,ACLは脛骨の前方制動や回旋制動などに関与していることが知られている。またACL損傷によって膝関節の前方不安定性や回旋不安定性が生じ,正常な膝関節運動の破綻を招くことが報告されている。先行研究において,ACL損傷膝における歩行時の膝関節運動を検討した報告は数多く見受けられるが,ランニング動作時の膝関節運動を検討した報告は少ない。そこで本研究では,歩行及びランニング動作時のACL損傷膝の運動学的変化について検証することを目的とする。
【方法】
対象は片側ACL損傷患者(以下,ACL-d)6名と下肢に整形外科的既往のない健常者(以下,Control)5名とした。課題動作は至適速度での歩行及びランニングとし,測定側はACL-dは損傷側,Controlはランダムに決定した下肢側とした。計測には三次元動作解析装置VICON612(Vicon Motion System社製),床反力計(AMTI社製)を用いて,Point Cluster法を基に下肢に貼付した反射マーカ21個の座標を記録した。解析期間は足部接地から爪先離地(立脚期),爪先離地から次の足部接地(遊脚期)までとし,歩行及びランニングの立脚期,遊脚期それぞれを時系列で100%に正規化した。解析データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求め,歩行及びランニングの立脚期,遊脚期それぞれの大腿骨に対する脛骨の前後移動量,回旋角度変位量を算出した。統計処理には各動作の両群間での比較には対応のないt検定を,各群の動作間での比較には対応のあるt検定を用い,危険率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。対象には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。
【結果】
歩行動作時の脛骨前後移動に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期,遊脚期それぞれで後方に変位していた。また脛骨回旋角度に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期では初期接地から荷重応答期で外旋,荷重応答期から前遊脚期で内旋していた。遊脚期では遊脚初期から遊脚中期で内旋,遊脚終期で外旋していた。脛骨前後移動量,脛骨回旋角度変位量に関して,立脚期の脛骨回旋角度変位量に有意差を認めた(ACL-d:16.5±2.4°,Control:9.2±3.3°,p<0.01)。ランニング動作時の脛骨前後移動に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期,遊脚期それぞれで後方に変位していた。また脛骨回旋角度に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期,遊脚期それぞれで内旋していた。脛骨前後移動量,脛骨回旋角度変位量に関して,ACL-dとControlに有意差を認めなかった。各群における歩行及びランニング動作時の脛骨前後移動量,脛骨回旋角度変位量に関して,ACL-dの各動作時の立脚期及び遊脚期の脛骨回旋角度変位量に有意差を認めた(立脚期;歩行:16.5±2.4°,ランニング:8.2±2.8°,p<0.01)(遊脚期;歩行:15.1±3.0°,ランニング:10.4±5.5°,p<0.05)。
【考察】
本研究では,ACL-dはControlに比べ,歩行及びランニング時において脛骨が後方変位し,また歩行時の荷重応答期から遊脚中期,ランニング時の立脚期,遊脚期において脛骨が内旋変位していた。先行研究では,歩行時にACL損傷膝と健常膝の脛骨の前後移動に有意差を認めないという報告や,ACL損傷膝の脛骨が内旋変位するという報告などがある。本研究におけるACL-dの歩行時の脛骨前後移動は先行研究と異なる結果を示したが,脛骨回旋角度は先行研究と同様の結果を示した。加えて,ACL-dのランニング時の脛骨の前後移動や回旋角度は,歩行時のそれとほぼ同様の傾向を示した。ACL-dの脛骨回旋角度変位量は,歩行時に比べ,ランニング時において有意に減少した。これは,ACL損傷膝ではより高負荷での運動時に,より筋活動などを高めることで脛骨の回旋を制動した可能性がある。しかしながら,より高い筋活動などによる制動は関節内圧を高め,より早期からの関節症変化を誘発する要因となると推察できる。またACL損傷膝での脛骨の前後移動,回旋運動の変化は,関節面の不適合を招き,半月板損傷や軟骨損傷などにつながるとされ,ACL損傷膝における脛骨の内旋変位は,特に膝関節内側コンパートメントの軟骨損傷などにつながる可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷膝では特にランニング動作時の脛骨の回旋運動の変化に対し,その制動に関与する筋などのより高い活動が要求されると考える。しかし,より筋活動などを高めることによる制動は,より早期からの膝蓋大腿関節などの関節症変化を誘発する要因となりうる。
膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷はスポーツ活動で発生頻度の高い障害のひとつであるが,損傷による膝関節不安定性により日常生活やスポーツ活動などに影響を及ぼす。一般に,ACLは脛骨の前方制動や回旋制動などに関与していることが知られている。またACL損傷によって膝関節の前方不安定性や回旋不安定性が生じ,正常な膝関節運動の破綻を招くことが報告されている。先行研究において,ACL損傷膝における歩行時の膝関節運動を検討した報告は数多く見受けられるが,ランニング動作時の膝関節運動を検討した報告は少ない。そこで本研究では,歩行及びランニング動作時のACL損傷膝の運動学的変化について検証することを目的とする。
【方法】
対象は片側ACL損傷患者(以下,ACL-d)6名と下肢に整形外科的既往のない健常者(以下,Control)5名とした。課題動作は至適速度での歩行及びランニングとし,測定側はACL-dは損傷側,Controlはランダムに決定した下肢側とした。計測には三次元動作解析装置VICON612(Vicon Motion System社製),床反力計(AMTI社製)を用いて,Point Cluster法を基に下肢に貼付した反射マーカ21個の座標を記録した。解析期間は足部接地から爪先離地(立脚期),爪先離地から次の足部接地(遊脚期)までとし,歩行及びランニングの立脚期,遊脚期それぞれを時系列で100%に正規化した。解析データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求め,歩行及びランニングの立脚期,遊脚期それぞれの大腿骨に対する脛骨の前後移動量,回旋角度変位量を算出した。統計処理には各動作の両群間での比較には対応のないt検定を,各群の動作間での比較には対応のあるt検定を用い,危険率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。対象には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。
【結果】
歩行動作時の脛骨前後移動に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期,遊脚期それぞれで後方に変位していた。また脛骨回旋角度に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期では初期接地から荷重応答期で外旋,荷重応答期から前遊脚期で内旋していた。遊脚期では遊脚初期から遊脚中期で内旋,遊脚終期で外旋していた。脛骨前後移動量,脛骨回旋角度変位量に関して,立脚期の脛骨回旋角度変位量に有意差を認めた(ACL-d:16.5±2.4°,Control:9.2±3.3°,p<0.01)。ランニング動作時の脛骨前後移動に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期,遊脚期それぞれで後方に変位していた。また脛骨回旋角度に関して,ACL-dはControlに比べ,立脚期,遊脚期それぞれで内旋していた。脛骨前後移動量,脛骨回旋角度変位量に関して,ACL-dとControlに有意差を認めなかった。各群における歩行及びランニング動作時の脛骨前後移動量,脛骨回旋角度変位量に関して,ACL-dの各動作時の立脚期及び遊脚期の脛骨回旋角度変位量に有意差を認めた(立脚期;歩行:16.5±2.4°,ランニング:8.2±2.8°,p<0.01)(遊脚期;歩行:15.1±3.0°,ランニング:10.4±5.5°,p<0.05)。
【考察】
本研究では,ACL-dはControlに比べ,歩行及びランニング時において脛骨が後方変位し,また歩行時の荷重応答期から遊脚中期,ランニング時の立脚期,遊脚期において脛骨が内旋変位していた。先行研究では,歩行時にACL損傷膝と健常膝の脛骨の前後移動に有意差を認めないという報告や,ACL損傷膝の脛骨が内旋変位するという報告などがある。本研究におけるACL-dの歩行時の脛骨前後移動は先行研究と異なる結果を示したが,脛骨回旋角度は先行研究と同様の結果を示した。加えて,ACL-dのランニング時の脛骨の前後移動や回旋角度は,歩行時のそれとほぼ同様の傾向を示した。ACL-dの脛骨回旋角度変位量は,歩行時に比べ,ランニング時において有意に減少した。これは,ACL損傷膝ではより高負荷での運動時に,より筋活動などを高めることで脛骨の回旋を制動した可能性がある。しかしながら,より高い筋活動などによる制動は関節内圧を高め,より早期からの関節症変化を誘発する要因となると推察できる。またACL損傷膝での脛骨の前後移動,回旋運動の変化は,関節面の不適合を招き,半月板損傷や軟骨損傷などにつながるとされ,ACL損傷膝における脛骨の内旋変位は,特に膝関節内側コンパートメントの軟骨損傷などにつながる可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷膝では特にランニング動作時の脛骨の回旋運動の変化に対し,その制動に関与する筋などのより高い活動が要求されると考える。しかし,より筋活動などを高めることによる制動は,より早期からの膝蓋大腿関節などの関節症変化を誘発する要因となりうる。