[1209] 膝前十字靭帯損傷後経過期間が歩行時膝関節運動に与える影響
キーワード:前十字靭帯損傷, 経過期間, 歩行解析
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;以下ACL)は膝関節の安定性に重要な役割を果たしており,損傷により前方不安定性や回旋不安定性が生じる。その不安定性を代償するため,歩行において荷重応答期から立脚中期の屈曲運動や,立脚中期から終期にかけての伸展運動が減少し,遊脚期には屈曲運動の減少がみられる。またACL損傷後6か月以上経過すると半月板損傷頻度は増加するという報告や,膝の安定性の獲得に損傷から手術までの期間は関与しないという報告など,損傷からの経過期間が膝関節の構造学的変化や術後の成績に与える影響を報告した研究は数多くされている。
しかし損傷後経過期間の違いによって術前の歩行時膝関節運動に与える影響を報告した研究は我々の渉猟しえた範囲では見当たらない。そこで本研究では,ACL損傷後の歩行を受傷後経過期間の違いによって検討し,ACL損傷後経過期間が歩行時膝関節運動に与える影響を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象はACL損傷と診断され,受傷から再建術までの期間が8週以下(平均6週)であった5名を新鮮群,9週以上(平均22週)であった5名を陳旧群とした。また下肢に整形外科的疾患を有さない健常女子大学生6名をcontrol群とした。課題動作は10mの快適速度歩行とし,測定膝はACL損傷側及び健常女性のランダムに決定した下肢側とした。計測には三次元動作解析装置VICON612(Vicon Motor Systems社)と床反力計(AMTI社)を用いた。Point Cluster法を参考に,下肢に貼付した反射マーカ21個の座標を記録した。解析期間は測定側の踵接地から同側の踵接地までとし,100%に時間正規化後,1歩行周期中の0~60%を立脚期,61~100%を遊脚期とした。解析データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求め,膝関節の屈曲角度,回旋角度,脛骨前後偏位量を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には事前に実験内容を説明し,協力の同意を得た。本研究は広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会(No.1347)および広島大学疫学研究倫理審査委員会(承認番号:第疫―458号)の承認を得て行った。
【結果】
膝関節屈曲角度について,新鮮群・陳旧群ともにcontrol群と比較し,立脚中期から後期における伸展運動の減少がみられた。遊脚期では陳旧群が新鮮群と比較して屈曲運動が増大した。膝関節回旋角度について,新鮮群・陳旧群ともに膝関節内旋位での歩行を示した。また,脛骨前後偏位量について,陳旧群では新鮮群より減少する傾向を示した。
【考察】
本研究では,陳旧群では新鮮群と比較しよりcontrol群と近い運動を行っているという結果を示した。つまりACL損傷後の経過期間が長くなることで正常運動に近づけるように代償機構が働いていることが判明したといえる。しかし膝関節屈曲角度に着目すると,陳旧群においても立脚中期から後期にかけての膝関節伸展角度の減少がみられ,屈曲拘縮を生じる可能性が考えられる。また屈曲位での歩行により二次性半月板損傷や変形性膝関節症を招くことが危惧される。また脛骨前方変位を制動するためにハムストリングスが代償的に作用している可能性があり,先行研究より大腿四頭筋の筋力低下を生じることが予想される。代償的な運動パターンは次第に習慣化していくことに加え,異常パターンでの歩行を繰り返す期間が長ければ膝関節の伸展制限や大腿四頭筋の筋力低下を慢性化させ,術後機能回復に時間がかかることが多いことから,異常パターンでの歩行を呈す期間は短い方が好ましいことが考えられる。
以上より,ACL損傷後経過期間が長いほど異常パターンでの歩行を呈す期間が長くなることが示唆された。よって再建術を選択する時期として急性期症状が消失されるとされている3~4週以降なるべく早く行うことが適切であり,異常運動パターンを改善するアプローチを行うことが重要であることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
再建術選択の時期として,急性期症状の消失後なるべく早く行うべきである。またリハビリテーションにおいて可動域の改善や筋力強化だけではなく,異常運動パターンを改善することも重要であることが示唆された。
膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;以下ACL)は膝関節の安定性に重要な役割を果たしており,損傷により前方不安定性や回旋不安定性が生じる。その不安定性を代償するため,歩行において荷重応答期から立脚中期の屈曲運動や,立脚中期から終期にかけての伸展運動が減少し,遊脚期には屈曲運動の減少がみられる。またACL損傷後6か月以上経過すると半月板損傷頻度は増加するという報告や,膝の安定性の獲得に損傷から手術までの期間は関与しないという報告など,損傷からの経過期間が膝関節の構造学的変化や術後の成績に与える影響を報告した研究は数多くされている。
しかし損傷後経過期間の違いによって術前の歩行時膝関節運動に与える影響を報告した研究は我々の渉猟しえた範囲では見当たらない。そこで本研究では,ACL損傷後の歩行を受傷後経過期間の違いによって検討し,ACL損傷後経過期間が歩行時膝関節運動に与える影響を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象はACL損傷と診断され,受傷から再建術までの期間が8週以下(平均6週)であった5名を新鮮群,9週以上(平均22週)であった5名を陳旧群とした。また下肢に整形外科的疾患を有さない健常女子大学生6名をcontrol群とした。課題動作は10mの快適速度歩行とし,測定膝はACL損傷側及び健常女性のランダムに決定した下肢側とした。計測には三次元動作解析装置VICON612(Vicon Motor Systems社)と床反力計(AMTI社)を用いた。Point Cluster法を参考に,下肢に貼付した反射マーカ21個の座標を記録した。解析期間は測定側の踵接地から同側の踵接地までとし,100%に時間正規化後,1歩行周期中の0~60%を立脚期,61~100%を遊脚期とした。解析データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求め,膝関節の屈曲角度,回旋角度,脛骨前後偏位量を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には事前に実験内容を説明し,協力の同意を得た。本研究は広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会(No.1347)および広島大学疫学研究倫理審査委員会(承認番号:第疫―458号)の承認を得て行った。
【結果】
膝関節屈曲角度について,新鮮群・陳旧群ともにcontrol群と比較し,立脚中期から後期における伸展運動の減少がみられた。遊脚期では陳旧群が新鮮群と比較して屈曲運動が増大した。膝関節回旋角度について,新鮮群・陳旧群ともに膝関節内旋位での歩行を示した。また,脛骨前後偏位量について,陳旧群では新鮮群より減少する傾向を示した。
【考察】
本研究では,陳旧群では新鮮群と比較しよりcontrol群と近い運動を行っているという結果を示した。つまりACL損傷後の経過期間が長くなることで正常運動に近づけるように代償機構が働いていることが判明したといえる。しかし膝関節屈曲角度に着目すると,陳旧群においても立脚中期から後期にかけての膝関節伸展角度の減少がみられ,屈曲拘縮を生じる可能性が考えられる。また屈曲位での歩行により二次性半月板損傷や変形性膝関節症を招くことが危惧される。また脛骨前方変位を制動するためにハムストリングスが代償的に作用している可能性があり,先行研究より大腿四頭筋の筋力低下を生じることが予想される。代償的な運動パターンは次第に習慣化していくことに加え,異常パターンでの歩行を繰り返す期間が長ければ膝関節の伸展制限や大腿四頭筋の筋力低下を慢性化させ,術後機能回復に時間がかかることが多いことから,異常パターンでの歩行を呈す期間は短い方が好ましいことが考えられる。
以上より,ACL損傷後経過期間が長いほど異常パターンでの歩行を呈す期間が長くなることが示唆された。よって再建術を選択する時期として急性期症状が消失されるとされている3~4週以降なるべく早く行うことが適切であり,異常運動パターンを改善するアプローチを行うことが重要であることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
再建術選択の時期として,急性期症状の消失後なるべく早く行うべきである。またリハビリテーションにおいて可動域の改善や筋力強化だけではなく,異常運動パターンを改善することも重要であることが示唆された。