[1210] 膝前十字靱帯損傷が非損傷膝の歩行時膝関節運動に及ぼす影響
キーワード:前十字靱帯損傷, 動作解析, 膝関節
【はじめに,目的】
膝前十字靱帯(Anterior cruciate ligament;以下,ACL)は膝関節の安定に重要な役割を果たし,スポーツ活動時に損傷しやすい靭帯である。ACLを損傷した場合膝関節の構造的な不安定性が生じ,正常とは異なる膝関節運動が生じるとされている。ACL不全膝の異常な膝関節運動についての報告は多くなされている。一方,ACL損傷後の固有感覚は,損傷膝だけでなく反対側も健常群と異なる結果を示したという報告もあり,ACL損傷が非損傷膝にも影響を与えていると考えられる。しかし,ACL損傷者の非損傷膝の運動学的変化について一側性のACL損傷膝では両側性の変化が生じるというような報告はあるものの,非損傷膝と健常膝の違いを調べたものは多くない。そこで本研究ではACL損傷患者の損傷膝と非損傷膝,健常者の歩行時膝関節運動を比較することで,ACL損傷が対側の非損傷膝に対しどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はACL損傷と診断され,対側下肢に整形外科的疾患の既往のない女性患者5名(以下,ACL損傷群)で,損傷膝5膝(以下,ACL-i群),非損傷膝5膝(以下,ACL-u群)である。また,下肢に整形外科的疾患をもたない健常女性6名6膝をcontrol群とした。課題動作は被験者自身の至適速度での10m歩行とした。計測には三次元動作解析装置と床反力計を用いて,Point-Cluster法を基に骨盤と両下肢に貼付した反射マーカの座標を記録した。データ解析はPoint-cluster法を用いて行った。解析期間は計測下肢の踵接地から同側の次の踵接地までを1歩行周期とし,100%に正規化した。解析データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求めた。算出項目は①膝関節屈曲角度,②脛骨回旋角度,③脛骨前後移動量の3項目とした。脛骨前後移動量は1歩行周期中の脛骨前方最大偏位と脛骨後方最大偏位の差とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て行った。対象は自らの意思に基づき本研究に参加し,測定前に研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。
【結果】
①膝関節屈曲角度: ACL損傷群は類似した膝関節屈曲角度の推移を示した。またcontrol群と比較し,立脚中期から後期にかけて屈曲角度が大きい傾向がみられ,遊脚期により小さい屈曲角度を示す傾向がみられた。②脛骨回旋角度:ACL損傷群はほぼ類似した脛骨回旋角度の推移を示し,control群と比較し踵接地時に外旋位を示し,その後立脚期にかけてより内旋位傾向を示した。ACL損傷群内ではACL-u群がACL-i群と比較し,遊脚中期から終期にかけてより外旋位傾向を示した。③脛骨前後移動量:1歩行周期中の脛骨前後移動量はACL-u群で3.4±31.2mm,ACL-i群で1.9±0.5mm,control群で2.1±0.2mmであった。
【考察】
本研究にて,ACL損傷患者の非損傷膝は膝関節屈曲運動や脛骨回旋運動で損傷膝と類似した運動パターンを示した。ACL損傷患者の歩行時膝関節運動は健常者と異なるパターンを示し,膝関節の不安定性を補うためQuadriceps avoidance gaitや膝関節の屈伸運動を減少させる歩行を行うことが知られている。本研究の結果から膝関節屈曲角度で損傷膝,非損傷膝ともにcontrol群と比較し屈伸角度の変化量が小さく,立脚中期から後期にかけて伸展運動が減少する傾向が示された。また脛骨回旋角度でもcontrol群と比較し,より内旋位傾向を示した。したがってこれまで報告されてきたACL損傷膝に特徴的な歩行パターンが本研究でも示され,非損傷膝も損傷膝と同様に類似した運動を呈していた。
一方,脛骨前後移動量では損傷膝が非損傷膝と比較し,小さい傾向を示した。膝関節の屈伸・回旋運動で類似したパターンを示した両群だが,実際に膝関節の安定性を欠く損傷膝では脛骨の前方移動を制動する筋の活動,あるいは運動力学的な代償が生じ,脛骨前後移動量を減少させた可能性がある。
以上より,ACL損傷患者では損傷膝の運動に適応するため非損傷膝にも運動学的な変化が生じることが示唆され,ACL損傷患者の歩行時膝関節運動では損傷膝だけでなく非損傷膝にも影響を及ぼす可能性が示された。
【理学療法研究としての意義】
本研究の意義は,歩行時におけるACL損傷患者の非損傷膝関節運動を運動学的に検討し,ACL損傷が損傷膝のみでなく非損傷膝に影響を及ぼすことを示唆したことである。またACL損傷・再建術後の理学療法を行う上で非損傷側も考慮する必要性を示したことである。
膝前十字靱帯(Anterior cruciate ligament;以下,ACL)は膝関節の安定に重要な役割を果たし,スポーツ活動時に損傷しやすい靭帯である。ACLを損傷した場合膝関節の構造的な不安定性が生じ,正常とは異なる膝関節運動が生じるとされている。ACL不全膝の異常な膝関節運動についての報告は多くなされている。一方,ACL損傷後の固有感覚は,損傷膝だけでなく反対側も健常群と異なる結果を示したという報告もあり,ACL損傷が非損傷膝にも影響を与えていると考えられる。しかし,ACL損傷者の非損傷膝の運動学的変化について一側性のACL損傷膝では両側性の変化が生じるというような報告はあるものの,非損傷膝と健常膝の違いを調べたものは多くない。そこで本研究ではACL損傷患者の損傷膝と非損傷膝,健常者の歩行時膝関節運動を比較することで,ACL損傷が対側の非損傷膝に対しどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はACL損傷と診断され,対側下肢に整形外科的疾患の既往のない女性患者5名(以下,ACL損傷群)で,損傷膝5膝(以下,ACL-i群),非損傷膝5膝(以下,ACL-u群)である。また,下肢に整形外科的疾患をもたない健常女性6名6膝をcontrol群とした。課題動作は被験者自身の至適速度での10m歩行とした。計測には三次元動作解析装置と床反力計を用いて,Point-Cluster法を基に骨盤と両下肢に貼付した反射マーカの座標を記録した。データ解析はPoint-cluster法を用いて行った。解析期間は計測下肢の踵接地から同側の次の踵接地までを1歩行周期とし,100%に正規化した。解析データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求めた。算出項目は①膝関節屈曲角度,②脛骨回旋角度,③脛骨前後移動量の3項目とした。脛骨前後移動量は1歩行周期中の脛骨前方最大偏位と脛骨後方最大偏位の差とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て行った。対象は自らの意思に基づき本研究に参加し,測定前に研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。
【結果】
①膝関節屈曲角度: ACL損傷群は類似した膝関節屈曲角度の推移を示した。またcontrol群と比較し,立脚中期から後期にかけて屈曲角度が大きい傾向がみられ,遊脚期により小さい屈曲角度を示す傾向がみられた。②脛骨回旋角度:ACL損傷群はほぼ類似した脛骨回旋角度の推移を示し,control群と比較し踵接地時に外旋位を示し,その後立脚期にかけてより内旋位傾向を示した。ACL損傷群内ではACL-u群がACL-i群と比較し,遊脚中期から終期にかけてより外旋位傾向を示した。③脛骨前後移動量:1歩行周期中の脛骨前後移動量はACL-u群で3.4±31.2mm,ACL-i群で1.9±0.5mm,control群で2.1±0.2mmであった。
【考察】
本研究にて,ACL損傷患者の非損傷膝は膝関節屈曲運動や脛骨回旋運動で損傷膝と類似した運動パターンを示した。ACL損傷患者の歩行時膝関節運動は健常者と異なるパターンを示し,膝関節の不安定性を補うためQuadriceps avoidance gaitや膝関節の屈伸運動を減少させる歩行を行うことが知られている。本研究の結果から膝関節屈曲角度で損傷膝,非損傷膝ともにcontrol群と比較し屈伸角度の変化量が小さく,立脚中期から後期にかけて伸展運動が減少する傾向が示された。また脛骨回旋角度でもcontrol群と比較し,より内旋位傾向を示した。したがってこれまで報告されてきたACL損傷膝に特徴的な歩行パターンが本研究でも示され,非損傷膝も損傷膝と同様に類似した運動を呈していた。
一方,脛骨前後移動量では損傷膝が非損傷膝と比較し,小さい傾向を示した。膝関節の屈伸・回旋運動で類似したパターンを示した両群だが,実際に膝関節の安定性を欠く損傷膝では脛骨の前方移動を制動する筋の活動,あるいは運動力学的な代償が生じ,脛骨前後移動量を減少させた可能性がある。
以上より,ACL損傷患者では損傷膝の運動に適応するため非損傷膝にも運動学的な変化が生じることが示唆され,ACL損傷患者の歩行時膝関節運動では損傷膝だけでなく非損傷膝にも影響を及ぼす可能性が示された。
【理学療法研究としての意義】
本研究の意義は,歩行時におけるACL損傷患者の非損傷膝関節運動を運動学的に検討し,ACL損傷が損傷膝のみでなく非損傷膝に影響を及ぼすことを示唆したことである。またACL損傷・再建術後の理学療法を行う上で非損傷側も考慮する必要性を示したことである。