[1218] 若年者の足部内側縦アーチの低下が膝関節バイオメカニクスに及ぼす影響
Keywords:内側縦アーチ, IR thrust, 内側型変形性膝関節症
【はじめに,目的】
内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)は膝関節内反,距骨下関節外反が生じ,扁平足を伴っていることが多いとされている。内側型膝OAの膝関節内側荷重増大は,膝の疼痛や症状の進行を誘発する重要な因子であることが知られている。加藤らによると,扁平足では立脚中期から前遊脚期において内側縦アーチが崩れ,後足部の外反と脛骨の内旋による内旋動揺(以下,IR thrust)が起こるとしており,膝関節内側に剪断力が生じることで内側型膝OAを増悪させると報告している。本研究は,内側縦アーチの低下と膝関節内側荷重に着目した。足アーチに関する研究では,歩行における動的変化の特徴を明らかにすることは重要であるとされているが,その解析は未だ十分ではない。本研究では「内側縦アーチ低下群と健常群における外部膝関節内反モーメントおよび膝関節内旋角度に差がある」とする仮説を立てた。本研究により,内側縦アーチ低下による後足部のアライメント不良が膝関節に及ぼす二次的障害リスクを明らかにすることは,適切な運動療法を選択するための一助となると考えられる。
【方法】
被験者は,下肢に外傷や疾患の既往のない若年女性10名の健常群5名,内側縦アーチ低下群5名とした。アーチ高率の測定は,大久保らの足アーチ高測定方法を使用した。アーチ高測定法は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出したものである。被験者には赤外線反射マーカー(直径9mmの球状)39個を貼付した。課題動作は,静止立位および歩行の2課題とした。計測環境は,7mの歩行路に3次元動作解析装置VICON MX(VICON PEAK社製,200Hz)と床反力計(AMTI社製,100Hz)8枚を使用した。得られた標点座標データからセグメント座標系を定義し,股・膝・足関節の角度および下肢関節モーメントと前足部・後足部の角度を算出した。今回,足部セグメント座標系として前足部は第1中足骨頭-第5中足骨頭のX軸を第1軸,第5中足骨底-第5中足骨頭を仮軸としてZ軸を第二軸と定義した(XZY)。後足部は内側踵骨-外側踵骨のX軸を第1軸,踵骨-踵骨中央を仮軸としてZ軸を第二軸と定義した(XZY)。外部膝関節モーメントの算出は,3次元動作解析装置と床反力計から得られた運動学・運動力学データと身長,体重からデータ演算ソフトBodybuilder(Vicon-Peak社)を用いて行った。歩行は,計測肢の初期接地から前遊脚期を100%として時間正規化を行い,加算平均した。統計処理を行うために立脚期を荷重応答期,立脚中期,立脚終期,前遊脚期の4相に分けて,各相の外部膝関節内反モーメントおよび膝関節内旋角度の最大値を指標として群間の比較を行った。統計学的解析にはDr.SPSSIIを使用し,正規性の検定にはShapiro-Wilk検定を用いた。正規分布に従う場合は2標本t検定を,正規分布に従わない場合はMann-Whitney U検定を行った。値は平均±標準偏差で表し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
各被験者には,実験前に研究の目的と方法を十分説明し,同意を得た。なお本研究は広島国際大学の倫理小委員会の承認を得て実施した。
【結果】
外部膝関節内反モーメントおよび後足部回内角度において,荷重応答期,立脚中期,立脚終期,前遊脚期の4相ともに二群間で有意差は認められなかったが,膝関節内旋角度において有意差が認められた(p<0.05)。
【考察】
本研究は,歩行の立脚期全般において内側縦アーチ低下群の膝関節内旋角度は健常群より有意に大きかったものの,外部膝関節内反モーメントに有意差を認めなかったことから,本研究の仮説である「内側縦アーチ低下群と健常群における外部膝関節内反モーメントおよび内旋角度に差がある」は一部否定された。今回,Kirsten Tulchinらの先行研究をもとに足部を前足部および後足部に分けてセグメント座標系を定義した。しかし,セグメントの都合上,後足部は下腿と踵骨により測定しているために,距骨下関節の運動をうまく反映できなかったことで正確なデータを得られなかったと考えられる。そのため後足部の回内運動として有意差は認められなかった可能性がある。荷重下での足関節背屈運動では,距腿関節と距骨下関節は必ず連動して動き,距骨下関節の回内外が下腿の内外旋として現れることから,内側縦アーチ低下群の過度な回内運動に伴い立脚期に下腿内旋運動が生じていることが確認できた。内側縦アーチ低下が下腿内旋運動を増強し,膝関節アライメント異常を引き起こしており,今後,膝関節不安定性によりIR thrustを助長し,内側膝関節に退行性変化を及ぼすことで膝OAを発症する危険性が推察された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究により,今後加齢に伴う退行性変化に対して,装具療法や運動療法による予防的介入の必要性が示唆される。
内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)は膝関節内反,距骨下関節外反が生じ,扁平足を伴っていることが多いとされている。内側型膝OAの膝関節内側荷重増大は,膝の疼痛や症状の進行を誘発する重要な因子であることが知られている。加藤らによると,扁平足では立脚中期から前遊脚期において内側縦アーチが崩れ,後足部の外反と脛骨の内旋による内旋動揺(以下,IR thrust)が起こるとしており,膝関節内側に剪断力が生じることで内側型膝OAを増悪させると報告している。本研究は,内側縦アーチの低下と膝関節内側荷重に着目した。足アーチに関する研究では,歩行における動的変化の特徴を明らかにすることは重要であるとされているが,その解析は未だ十分ではない。本研究では「内側縦アーチ低下群と健常群における外部膝関節内反モーメントおよび膝関節内旋角度に差がある」とする仮説を立てた。本研究により,内側縦アーチ低下による後足部のアライメント不良が膝関節に及ぼす二次的障害リスクを明らかにすることは,適切な運動療法を選択するための一助となると考えられる。
【方法】
被験者は,下肢に外傷や疾患の既往のない若年女性10名の健常群5名,内側縦アーチ低下群5名とした。アーチ高率の測定は,大久保らの足アーチ高測定方法を使用した。アーチ高測定法は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出したものである。被験者には赤外線反射マーカー(直径9mmの球状)39個を貼付した。課題動作は,静止立位および歩行の2課題とした。計測環境は,7mの歩行路に3次元動作解析装置VICON MX(VICON PEAK社製,200Hz)と床反力計(AMTI社製,100Hz)8枚を使用した。得られた標点座標データからセグメント座標系を定義し,股・膝・足関節の角度および下肢関節モーメントと前足部・後足部の角度を算出した。今回,足部セグメント座標系として前足部は第1中足骨頭-第5中足骨頭のX軸を第1軸,第5中足骨底-第5中足骨頭を仮軸としてZ軸を第二軸と定義した(XZY)。後足部は内側踵骨-外側踵骨のX軸を第1軸,踵骨-踵骨中央を仮軸としてZ軸を第二軸と定義した(XZY)。外部膝関節モーメントの算出は,3次元動作解析装置と床反力計から得られた運動学・運動力学データと身長,体重からデータ演算ソフトBodybuilder(Vicon-Peak社)を用いて行った。歩行は,計測肢の初期接地から前遊脚期を100%として時間正規化を行い,加算平均した。統計処理を行うために立脚期を荷重応答期,立脚中期,立脚終期,前遊脚期の4相に分けて,各相の外部膝関節内反モーメントおよび膝関節内旋角度の最大値を指標として群間の比較を行った。統計学的解析にはDr.SPSSIIを使用し,正規性の検定にはShapiro-Wilk検定を用いた。正規分布に従う場合は2標本t検定を,正規分布に従わない場合はMann-Whitney U検定を行った。値は平均±標準偏差で表し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
各被験者には,実験前に研究の目的と方法を十分説明し,同意を得た。なお本研究は広島国際大学の倫理小委員会の承認を得て実施した。
【結果】
外部膝関節内反モーメントおよび後足部回内角度において,荷重応答期,立脚中期,立脚終期,前遊脚期の4相ともに二群間で有意差は認められなかったが,膝関節内旋角度において有意差が認められた(p<0.05)。
【考察】
本研究は,歩行の立脚期全般において内側縦アーチ低下群の膝関節内旋角度は健常群より有意に大きかったものの,外部膝関節内反モーメントに有意差を認めなかったことから,本研究の仮説である「内側縦アーチ低下群と健常群における外部膝関節内反モーメントおよび内旋角度に差がある」は一部否定された。今回,Kirsten Tulchinらの先行研究をもとに足部を前足部および後足部に分けてセグメント座標系を定義した。しかし,セグメントの都合上,後足部は下腿と踵骨により測定しているために,距骨下関節の運動をうまく反映できなかったことで正確なデータを得られなかったと考えられる。そのため後足部の回内運動として有意差は認められなかった可能性がある。荷重下での足関節背屈運動では,距腿関節と距骨下関節は必ず連動して動き,距骨下関節の回内外が下腿の内外旋として現れることから,内側縦アーチ低下群の過度な回内運動に伴い立脚期に下腿内旋運動が生じていることが確認できた。内側縦アーチ低下が下腿内旋運動を増強し,膝関節アライメント異常を引き起こしており,今後,膝関節不安定性によりIR thrustを助長し,内側膝関節に退行性変化を及ぼすことで膝OAを発症する危険性が推察された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究により,今後加齢に伴う退行性変化に対して,装具療法や運動療法による予防的介入の必要性が示唆される。