第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節30

2014年5月31日(土) 15:45 〜 16:35 ポスター会場 (運動器)

座長:前野里恵(横浜市立市民病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[1219] 認知機能低下を伴う整形外科疾患症例の痛み行動評価の検討

若月勇輝1, 平井達也1, 三浦安佳里1, 松原崇紀2, 平賀慎一郎3, 肥田朋子3 (1.医療法人田中会西尾病院リハビリテーション室, 2.ひろし整形外科リハビリテーション科, 3.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

キーワード:認知機能低下, 痛み行動評価, 痛みの自己報告評価

【はじめに,目的】
痛みの臨床的評価にはVisual Analogue Scale(VAS)やNumerical Rating Scale(NRS)などの自己報告評価がよく用いられている。しかし,認知機能が低下している高齢の症例において他覚的には痛みを生じていると疑われるにも関わらず自覚的な痛みを訴えないことを経験する。このような症例は,理解能力,判断能力,言語能力などが低下しており,痛みの自己報告評価の使用には妥当性が疑われる。実際に,Horgasら(2009)は,認知症骨折群は痛みの行動評価に対して自己報告を低く評価すると報告し,行動評価と自己報告評価が乖離することを示した。日本人に対する痛みの行動評価は日本語版Abbey Pain Scale(APS-J)が報告され,妥当性と信頼性が確認されている。APS-Jは規定された動作中に現れる,声を上げる,表情など6項目の行動を0~3点(合計18点)で評価する。程度は,痛みなし(0~2点),軽度(3~7点),中等度(8~13点),重度(14~18点)の4段階で分類するものであり比較的簡便であるが,理学療法対象者においては検討されていない。本研究の目的は,認知機能の低い整形外科疾患症例は痛みの自己報告評価と痛み行動評価に乖離が生じるかを検討することであった。
【方法】対象者は腰部下肢の整形外科疾患を有する高齢者11名(年齢:平均83.9歳,範囲64~96歳)とした。認知機能評価は日本語版mini-mental state examination(MMSE-J:平均21.3点,範囲14~30点)を使用し,総得点から3群に分けた。健常群(MMSE-J 24点以上)4名,認知機能の軽度低下群(MMSE-J 18~23点)3名,および中等度低下群(MMSE-J 17点以下)4名であった。対象者は5分間座位にて休息後,運動課題(歩行,移乗どちらか)を1分間行い,その際検者がAPS-Jを評価した。また課題前後にNRSを評価した。データ分析は,3群間のAPS-J得点の比較を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者または代諾者には本研究の主旨と倫理的配慮について口頭または書面にて説明し署名にて同意を得た。また,当院倫理委員会の承認を受けた(承認番号:025-02)
【結果】
いずれの対象者も運動前および運動後のNRSは0と自己報告した。APS-Jの結果,健常高齢群は痛みなし(0~2点)4名,軽度低下群は痛みなし(0~2点)2名,軽度(3~7点)1名,中等度低下群は痛みなし(0~2点)1名,軽度(3~7点)3名であった。
【考察】
運動直後のNRSが0であるならば,運動中の痛み行動は現れないはずである。しかし,認知機能が低下した症例は痛み行動が現れる傾向にあり,自己報告評価と行動評価に乖離が生じた。このことはHorgasらが報告した,認知症群が痛みの行動評価に対して自己報告を低く評価するという結果と一致する。以上のことから,認知機能の低下した症例に対する痛み行動評価の重要性が示唆された。APS-Jはオーストラリアで開発され,日本にて看護領域で検討されてきた。我々は,理学療法領域における評価の信頼性を検討し,中等度の検者内,検者間信頼性を認めた。しかし,APS-Jの項目は,元々文化的背景の異なる人種に対して作成されたものであり,日本人の文化に適さない項目(ボディランゲージ)や不明確な項目(行動の変化)も存在する。日本人への適用及び理学療法分野での応用していくためには,項目の工夫が必要となると考える。
【理学療法研究としての意義】
本研究は,認知機能の低下した症例に対し行動評価により痛みを評価できる可能性を示し,臨床における認知機能低下した整形外科疾患症例のリスク管理や効果判定に貢献し得る。