[1230] 歩行における中殿筋の筋収縮の様態
キーワード:中殿筋, 求心性収縮, 超音波画像診断装置
【はじめに,目的】
中殿筋の筋力低下によるトレンデレンブルグ歩行は臨床上問題になる。加藤らは変形性股関節症の症例の中殿筋に注目して,筋電図周波数解析や組織学的解析から,速筋線維の萎縮,とくに荷重応答期での速筋線維の活動性の低下が問題としている。そのため,荷重応答期における中殿筋の速筋線維の活動を高めることが重要になるとしている。一方,この時期の中殿筋の活動動態を可視化し,定量的に示した研究は見当たらない。歩行などの動作を改善するための運動療法では,課題間の類似性が重要になる。Schmidtは,類似性の要素として,筋収縮力や収縮形態,負荷量などを挙げている。そこで,異常歩行改善のための中殿筋の筋力強化トレーニングを再考するため歩行中の中殿筋の収縮の様態を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は下肢に障害を有していない健常成人12名(平均年齢20.9±2.8歳,平均身長168±3.3cm)とした。歩行計測はトレッドミル上にて,ビデオカメラを用いた2次元動作解析と超音波画像診断装置(以下エコー)(My Lab 25,株式会社日立メディコ社製)を同期して行った。左側の肩峰,大転子,膝関節裂隙にマーカを貼付し,股関節伸展角度と歩幅を算出した。エコーの撮影モードはBモード,プローブは12MHzのリニアプローブを使用した。大転子の近位部で,中殿筋の筋束と羽状角が超音波画像として得られる部位にプローブを固定し,動画にて撮影した。歩行速度は4.2km/hと6.0km/hに設定し,歩行開始より30秒以上経過した定常歩での超音波の動画から,ImageJを用いて,中殿筋の羽状角と筋厚値を算出した。得られた中殿筋の羽状角と筋厚値から筋線維束長を推定し,歩行周期中の経時的変化を確認した。立脚期における筋線維束長の変化量(以下D-MBL),股関節最大伸展角度,歩幅を2条件で比較検討した。統計学的手法には対応サンプルによるWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。さらに,2条件での各々の値の変化量の相関関係をspearmanの順位相関係数にて検討した。統計学的処理にはSPSSver.18を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の意義と目的,対象者の権利を紙面と口頭で説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
4.2km/hでの歩幅は平均62.5±3.3 cm,股関節伸展角度は平均16.3±2.6°,D-MBLは平均7.1±1.4 mmであった。一方,6.0km/hでの歩幅は平均77.9±4.0cm,股関節伸展角度は平均21.8±2.5°,D-MBLは平均10.1±3.1mmであった。全てのパラメータで2条件間で有意差を認めた。また,D-MBLと歩幅・股関節伸展角度の変化量の相関係数はそれぞれ0.53,0.71で,股関節伸展角度にのみ有意な相関関係を認めた。
【考察】
従来,立脚期には骨盤の水平位を保持するため,中殿筋は遠心性もしくは等尺性収縮をしていると考えられていた。しかし,今回の結果から,初期接地から立脚中期にかけて,中殿筋の筋線維束長が減少していた。河上らは中殿筋の前方筋腹は股屈曲,後方筋腹は股伸展に作用するとしている。今回得た超音波画像は後方筋腹であったため,股関節伸展運動に伴い,立脚期前半における中殿筋は求心性収縮をしていることが明らかになった。また,立脚期後半では筋線維束長の変化量は減少するものの,歩行速度が増加することで短縮量が増加していた。歩行速度が増加することで,歩幅・股関節伸展角度が増加し,股関節伸展角度と筋線維束長に有意な相関を認めたことから,この筋線維束長の変化は歩行速度が高まることによる股関節伸展角度の増加の影響を受けていると考えられる。fukunagaらは歩行中の下腿三頭筋において,立脚期で足関節が背屈する際,下腿三頭筋は等尺性収縮しており,腱や筋膜が伸張されることで,筋膜や腱の高い弾性力を利用していると報告している。股関節においては,股関節伸展角度が増加する中,中殿筋が求心性収縮を行うことで,殿筋膜や停止腱は伸張され,筋膜や腱の弾性力が高くなり,効率的に股関節の安定性を高める歩行になっていることが考えられる。つまり,中殿筋の筋力低下により生じるトレンデレンブルグ歩行の運動療法においては,中殿筋の求心性収縮を強調したトレーニングや股関節伸展角度を増加させたステップ課題の提示が重要になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,立脚期における中殿筋の後方筋腹の収縮の様態は求心性収縮であった。また,歩行速度の増加に伴う股関節伸展角度の増加が,殿筋膜や停止腱の弾性力により股関節の安定性を高めていると考えられる。今後は,中殿筋の筋力低下を呈した高齢者を対象に比較検討を行うとともに,中殿筋の求心性収縮を中心とした,より具体的な運動療法やそれに伴うトレーニング効果についても検討したい。
中殿筋の筋力低下によるトレンデレンブルグ歩行は臨床上問題になる。加藤らは変形性股関節症の症例の中殿筋に注目して,筋電図周波数解析や組織学的解析から,速筋線維の萎縮,とくに荷重応答期での速筋線維の活動性の低下が問題としている。そのため,荷重応答期における中殿筋の速筋線維の活動を高めることが重要になるとしている。一方,この時期の中殿筋の活動動態を可視化し,定量的に示した研究は見当たらない。歩行などの動作を改善するための運動療法では,課題間の類似性が重要になる。Schmidtは,類似性の要素として,筋収縮力や収縮形態,負荷量などを挙げている。そこで,異常歩行改善のための中殿筋の筋力強化トレーニングを再考するため歩行中の中殿筋の収縮の様態を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は下肢に障害を有していない健常成人12名(平均年齢20.9±2.8歳,平均身長168±3.3cm)とした。歩行計測はトレッドミル上にて,ビデオカメラを用いた2次元動作解析と超音波画像診断装置(以下エコー)(My Lab 25,株式会社日立メディコ社製)を同期して行った。左側の肩峰,大転子,膝関節裂隙にマーカを貼付し,股関節伸展角度と歩幅を算出した。エコーの撮影モードはBモード,プローブは12MHzのリニアプローブを使用した。大転子の近位部で,中殿筋の筋束と羽状角が超音波画像として得られる部位にプローブを固定し,動画にて撮影した。歩行速度は4.2km/hと6.0km/hに設定し,歩行開始より30秒以上経過した定常歩での超音波の動画から,ImageJを用いて,中殿筋の羽状角と筋厚値を算出した。得られた中殿筋の羽状角と筋厚値から筋線維束長を推定し,歩行周期中の経時的変化を確認した。立脚期における筋線維束長の変化量(以下D-MBL),股関節最大伸展角度,歩幅を2条件で比較検討した。統計学的手法には対応サンプルによるWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。さらに,2条件での各々の値の変化量の相関関係をspearmanの順位相関係数にて検討した。統計学的処理にはSPSSver.18を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の意義と目的,対象者の権利を紙面と口頭で説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
4.2km/hでの歩幅は平均62.5±3.3 cm,股関節伸展角度は平均16.3±2.6°,D-MBLは平均7.1±1.4 mmであった。一方,6.0km/hでの歩幅は平均77.9±4.0cm,股関節伸展角度は平均21.8±2.5°,D-MBLは平均10.1±3.1mmであった。全てのパラメータで2条件間で有意差を認めた。また,D-MBLと歩幅・股関節伸展角度の変化量の相関係数はそれぞれ0.53,0.71で,股関節伸展角度にのみ有意な相関関係を認めた。
【考察】
従来,立脚期には骨盤の水平位を保持するため,中殿筋は遠心性もしくは等尺性収縮をしていると考えられていた。しかし,今回の結果から,初期接地から立脚中期にかけて,中殿筋の筋線維束長が減少していた。河上らは中殿筋の前方筋腹は股屈曲,後方筋腹は股伸展に作用するとしている。今回得た超音波画像は後方筋腹であったため,股関節伸展運動に伴い,立脚期前半における中殿筋は求心性収縮をしていることが明らかになった。また,立脚期後半では筋線維束長の変化量は減少するものの,歩行速度が増加することで短縮量が増加していた。歩行速度が増加することで,歩幅・股関節伸展角度が増加し,股関節伸展角度と筋線維束長に有意な相関を認めたことから,この筋線維束長の変化は歩行速度が高まることによる股関節伸展角度の増加の影響を受けていると考えられる。fukunagaらは歩行中の下腿三頭筋において,立脚期で足関節が背屈する際,下腿三頭筋は等尺性収縮しており,腱や筋膜が伸張されることで,筋膜や腱の高い弾性力を利用していると報告している。股関節においては,股関節伸展角度が増加する中,中殿筋が求心性収縮を行うことで,殿筋膜や停止腱は伸張され,筋膜や腱の弾性力が高くなり,効率的に股関節の安定性を高める歩行になっていることが考えられる。つまり,中殿筋の筋力低下により生じるトレンデレンブルグ歩行の運動療法においては,中殿筋の求心性収縮を強調したトレーニングや股関節伸展角度を増加させたステップ課題の提示が重要になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,立脚期における中殿筋の後方筋腹の収縮の様態は求心性収縮であった。また,歩行速度の増加に伴う股関節伸展角度の増加が,殿筋膜や停止腱の弾性力により股関節の安定性を高めていると考えられる。今後は,中殿筋の筋力低下を呈した高齢者を対象に比較検討を行うとともに,中殿筋の求心性収縮を中心とした,より具体的な運動療法やそれに伴うトレーニング効果についても検討したい。