[1234] MMTの判定基準についての提言
キーワード:MMT4, HHD, 肩関節
【はじめに,目的】
Manual Muscle Testing(以下MMT)は重力と抵抗の概念に基づく筋力評価法で,簡便かつ経済的な検査法であるため,臨床の場で頻繁に活用されている。しかしMMT4以上の段階付けに関しては,検者の徒手抵抗感によって評価され,性別,体格などの影響を大きく受け,定量的でなく判定が曖昧になるなど,いくつかの問題点が指摘されている。本研究では,肩関節のMMTを定量評価できる判定基準確立のため,MMT5と3の割合を明らかにし,MMT4前後の判定法を検討したので報告する。
【方法】
対象は,上肢に障害のない健常人132名(男性63名,女性69名,平均年齢41.8±15.6歳)である。肩外転のBreak testを想定した設定で,MMT3の基準作りとして,対象者を背もたれ椅子座位にし,机上に設置した重量計(株式会社タニタ社製 デジタルヘルスメーター)に利き手側上肢を90°外転させた状態で乗せ,上肢重量:UMを測定した(3回測定の平均値が測定結果)。また上肢長:UL(肩峰~第3指先端)と上腕長:HL(肩峰~上腕骨外顆)を測定した。次にMMT5の基準作りとして,対象者の利き腕で,机上に設置したHand Held Dynamometer(酒井医療株式会社製 モービィMT-100;以下HHD)を上から押し,最大抵抗量:MRを測定した(3回測定の平均値が測定結果)。その際,対象者の体重が乗らないよう,HHDと肩の高さを平行に保ちながら行った。統計解析は解析ソフトJMP ver10を使用し,性別の一元配置分析はt検定(p<0.05を有意),世代別(若年群:22~33歳,中年群:34~55歳,高年群:56~76歳)の分析はTukey-KramerのHSD検定(値が正の場合,ペアになっている平均の間は有意)にて行った。MMT3およびMMT5はDanielsらの定義に基づき次のような計算式にて算出した。
MMT3[Nm]=UM(kg)・重力加速度g(m/s2)・UL(m)・重心位置0.46
MMT5[Nm]=MR(kg)・g(m/s2)・HL(m)+MMT3(Nm)
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿って研究計画され,当院の倫理委員会で承認を得たものである。対象者には,研究の主旨,個人情報保護,利益と不利益,参加は自由意志であることなどを十分に説明し同意を得た。収集した情報は連結可能匿名化にて扱った。
【結果】
男女全体では,UM(以下mean±SD):3.06±0.52,UL:0.7±0.06,HL:0.29±0.02,MR:13.71±4.48で,MMT5に対するMMT3の割合は19.9%となり,宇佐ら(2011)の20.9%に近い割合となった。ちなみにMMT5に対するMMT2の割合は6.29%(UM/MR)であった。世代別の比較において,LSD閾値行列は全て負を示し有意差を認めなかったが,性別による比較では,男性の方が有意(p=0.001)に大きかったため,男性,女性それぞれのMMT5に対するMMT3の割合も算出した。結果,男性MMT5に対する男性MMT3の割合(以下男5-男3の形式に置き換える):17.61%,男5-女3:15.2%,女5-男3:25.9%,女5-女3:22.6%となった。
【考察】
結果から,MMT3とMMT5は約80%のひらきがあり,MMT4の幅広さと難しさを物語る結果となった。MMTの段階に+や-を付け加えることは奨められない。“Fair+”と“Poor-”の場合は認めてよい(Hislopら)とあるが,本当に詳細な段階付けが必要なのはMMT3~5の間ではないかと思われる。そこで,MMT3とMMT5の中間である60%にMMT4を位置づけ,次のように定量的な判定基準を考案した。MMT5=100%に対して,20%:3,30%:3+,40%:3+~4-,50%:4-,60%:4,70%:4+,80%:4+~5-,90%:5-,100%:5。小松ら(2007)はHHDなどで筋力の実測値フィードバックを実施することにより妥当性が高まることを示唆しており,検者自身の抵抗量実測値を熟知することで,評価の信頼性や妥当性が高まるのではないかと思われる。
【理学療法研究としての意義】
理学療法評価として,MMTの判定基準について報告した研究は少なく,その結果は学術的,社会的に意義のあるものと考えられる。すなわち,MMTを等尺評価として認識することで,左右差や改善度合いがより明確化されるため,臨床あるいは教育現場での応用が期待できるのではないかと思われる。
Manual Muscle Testing(以下MMT)は重力と抵抗の概念に基づく筋力評価法で,簡便かつ経済的な検査法であるため,臨床の場で頻繁に活用されている。しかしMMT4以上の段階付けに関しては,検者の徒手抵抗感によって評価され,性別,体格などの影響を大きく受け,定量的でなく判定が曖昧になるなど,いくつかの問題点が指摘されている。本研究では,肩関節のMMTを定量評価できる判定基準確立のため,MMT5と3の割合を明らかにし,MMT4前後の判定法を検討したので報告する。
【方法】
対象は,上肢に障害のない健常人132名(男性63名,女性69名,平均年齢41.8±15.6歳)である。肩外転のBreak testを想定した設定で,MMT3の基準作りとして,対象者を背もたれ椅子座位にし,机上に設置した重量計(株式会社タニタ社製 デジタルヘルスメーター)に利き手側上肢を90°外転させた状態で乗せ,上肢重量:UMを測定した(3回測定の平均値が測定結果)。また上肢長:UL(肩峰~第3指先端)と上腕長:HL(肩峰~上腕骨外顆)を測定した。次にMMT5の基準作りとして,対象者の利き腕で,机上に設置したHand Held Dynamometer(酒井医療株式会社製 モービィMT-100;以下HHD)を上から押し,最大抵抗量:MRを測定した(3回測定の平均値が測定結果)。その際,対象者の体重が乗らないよう,HHDと肩の高さを平行に保ちながら行った。統計解析は解析ソフトJMP ver10を使用し,性別の一元配置分析はt検定(p<0.05を有意),世代別(若年群:22~33歳,中年群:34~55歳,高年群:56~76歳)の分析はTukey-KramerのHSD検定(値が正の場合,ペアになっている平均の間は有意)にて行った。MMT3およびMMT5はDanielsらの定義に基づき次のような計算式にて算出した。
MMT3[Nm]=UM(kg)・重力加速度g(m/s2)・UL(m)・重心位置0.46
MMT5[Nm]=MR(kg)・g(m/s2)・HL(m)+MMT3(Nm)
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿って研究計画され,当院の倫理委員会で承認を得たものである。対象者には,研究の主旨,個人情報保護,利益と不利益,参加は自由意志であることなどを十分に説明し同意を得た。収集した情報は連結可能匿名化にて扱った。
【結果】
男女全体では,UM(以下mean±SD):3.06±0.52,UL:0.7±0.06,HL:0.29±0.02,MR:13.71±4.48で,MMT5に対するMMT3の割合は19.9%となり,宇佐ら(2011)の20.9%に近い割合となった。ちなみにMMT5に対するMMT2の割合は6.29%(UM/MR)であった。世代別の比較において,LSD閾値行列は全て負を示し有意差を認めなかったが,性別による比較では,男性の方が有意(p=0.001)に大きかったため,男性,女性それぞれのMMT5に対するMMT3の割合も算出した。結果,男性MMT5に対する男性MMT3の割合(以下男5-男3の形式に置き換える):17.61%,男5-女3:15.2%,女5-男3:25.9%,女5-女3:22.6%となった。
【考察】
結果から,MMT3とMMT5は約80%のひらきがあり,MMT4の幅広さと難しさを物語る結果となった。MMTの段階に+や-を付け加えることは奨められない。“Fair+”と“Poor-”の場合は認めてよい(Hislopら)とあるが,本当に詳細な段階付けが必要なのはMMT3~5の間ではないかと思われる。そこで,MMT3とMMT5の中間である60%にMMT4を位置づけ,次のように定量的な判定基準を考案した。MMT5=100%に対して,20%:3,30%:3+,40%:3+~4-,50%:4-,60%:4,70%:4+,80%:4+~5-,90%:5-,100%:5。小松ら(2007)はHHDなどで筋力の実測値フィードバックを実施することにより妥当性が高まることを示唆しており,検者自身の抵抗量実測値を熟知することで,評価の信頼性や妥当性が高まるのではないかと思われる。
【理学療法研究としての意義】
理学療法評価として,MMTの判定基準について報告した研究は少なく,その結果は学術的,社会的に意義のあるものと考えられる。すなわち,MMTを等尺評価として認識することで,左右差や改善度合いがより明確化されるため,臨床あるいは教育現場での応用が期待できるのではないかと思われる。