[1236] ハンドヘルドダイナモメータを使用した等尺性膝伸展筋力測定の妥当性について
キーワード:ハンドヘルドダイナモメータ, 等尺性膝伸展筋力, 妥当性
【はじめに,目的】
臨床において客観的な筋力測定の必要性がいわれ,簡易的なハンドヘルドダイナモメータ(以下,HHD)の使用がひろがってきている。膝伸展筋力のような強い筋力を測定する場合,HHDの再現性には問題があることが多くの研究で指摘されているが,加藤らはHHDを固定用ベルトで固定する方法(以下,HHD法)では再現性のある測定が可能であると報告している。また平澤らはHHD法とトルクマシンで測定した等尺性膝伸展筋力には強い相関が認められHHD測定は妥当であると報告している。平澤らの研究ではHHD法の際,端座位をとった被験者にベッド端を握らせて測定している。我々は等尺性筋力測定器を使用し被験者の体の固定方法の違いによる等尺性膝伸展筋力の差を明らかにし,固定なしの場合に比べ上肢把持すると有意に筋力値が高くなり,さらに被験者の体をベルトで椅子に固定した場合の筋力値と比べても差がないことを報告した。一般的なHHD測定は端座位で上肢を体側に支持するか胸に組んで行われるため,上肢把持した場合に比べると筋力値が低いことが予測される。よってこの場合の測定の妥当性について検討する必要がある。
そこで本研究では,等尺性膝伸展筋力についてゴールドスタンダードであるトルクマシンと上肢を体側に支持するHHD法とで比較し,相関分析からHHD法の妥当性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は20~35歳の健常成人,除外基準として測定下肢または腰に痛みのある者,過去に測定下肢の膝関節,大腿部の外傷既往がある者とした。
同一の検者1名,助手1名で全ての測定を行った。測定機器はトルクマシンにはBiodex4(Biodex社製),HHDにはMobie(酒井医療社製)を使用し,右下肢の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。測定姿勢は股関節,膝関節屈曲90度の座位とした。トルクマシンの測定では椅子に体幹,骨盤,大腿をベルトで固定し上肢は手すりを把持した。また,アタッチメントの下縁をアキレス腱移行部にあて固定した。HHD法は端座位で体は固定せず上肢は体側に支持し,測定中は体幹を正中位に保ち殿部が挙上しないよう指示した。また,センサベルト下縁を外果下縁から3横指上の下腿前面に下腿軸に垂直にあて,ベルトが床と水平になるように後方支柱に締結した。膝関節中心からセンサベルト中心までの距離を測定し,得られた筋力をトルク換算するために使用した。条件はトルクマシンとHHD法の2条件。1条件につき5秒の最大収縮を60秒の休憩を挟んで2回実施。条件間は10分休憩,測定順はランダムとした。測定中はかけ声をかけ,被験者,検者とも筋力値をみないよう盲検化した。痛みがあったら中止するよう説明した。
データ分析には2回測定の最大値を用い,正規性の検定後,トルクとトルク体重比の2種類について対応のあるt検定,ピアソンの相関分析を行った(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学医学部医倫理委員会の承認を得た。被験者には研究の内容を説明し参加の同意を得た。
【結果】
対象者は15名(男性8名,女性7名),うち測定中膝に痛みを起こした男性1名を除いた14名で分析した。年齢21.4±3.9歳,身長167.6±7.7cm,体重60.0±7.8kgであった。各条件のトルクはトルクマシン171.61±47.12Nm,HHD法115.27±21.25Nmで有意にHHD法が低かった。トルク体重比は,トルクマシン2.86±0.73 Nm/kg,HHD法1.93±0.27Nm/kgで有意にHHD法が低かった。トルクマシンとHHD法の間にはトルク,トルク体重比とも有意な相関が認められなかった。トルク体重比の散布図よりHHD法は2.5Nm/kgを上限に頭打ちになることがわかった。
【考察】
HHD法はトルクマシンと比べトルク,トルク体重比とも有意に低く,両者の間に相関は認められなかった。よって,今回対象にした若い健常男女のように筋力の強い対象者の膝伸展筋力測定では,HHD法での最大筋力測定が困難であることが明らかとなった。上肢を体側に支持するHHD法は体の固定がないため,膝伸展トルクが被験者の上体の重さによるトルク以上だと体が浮き上がってしまい,測定できるトルク体重比が頭打ちになったと考えられる。平澤らの研究のように上肢把持すると体の浮き上がりがある程度防げるため,簡易的なHHD法の妥当性を高める方法としては上肢把持が必要であることが示唆された。しかし,平澤らの研究はHHDの筋力(kg)とトルクマシンのトルク(Nm)の相関分析のみで系統誤差の分析はされていないため,本当に妥当な測定が行えるのか不明である。今後は上肢把持したHHD法の妥当性について相関分析に加え系統誤差の分析を行った上で検討する必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
等尺性膝伸展筋力測定を強い筋力対象者で行う場合,上肢を体側についたHHD法は妥当ではないことが示された。
臨床において客観的な筋力測定の必要性がいわれ,簡易的なハンドヘルドダイナモメータ(以下,HHD)の使用がひろがってきている。膝伸展筋力のような強い筋力を測定する場合,HHDの再現性には問題があることが多くの研究で指摘されているが,加藤らはHHDを固定用ベルトで固定する方法(以下,HHD法)では再現性のある測定が可能であると報告している。また平澤らはHHD法とトルクマシンで測定した等尺性膝伸展筋力には強い相関が認められHHD測定は妥当であると報告している。平澤らの研究ではHHD法の際,端座位をとった被験者にベッド端を握らせて測定している。我々は等尺性筋力測定器を使用し被験者の体の固定方法の違いによる等尺性膝伸展筋力の差を明らかにし,固定なしの場合に比べ上肢把持すると有意に筋力値が高くなり,さらに被験者の体をベルトで椅子に固定した場合の筋力値と比べても差がないことを報告した。一般的なHHD測定は端座位で上肢を体側に支持するか胸に組んで行われるため,上肢把持した場合に比べると筋力値が低いことが予測される。よってこの場合の測定の妥当性について検討する必要がある。
そこで本研究では,等尺性膝伸展筋力についてゴールドスタンダードであるトルクマシンと上肢を体側に支持するHHD法とで比較し,相関分析からHHD法の妥当性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は20~35歳の健常成人,除外基準として測定下肢または腰に痛みのある者,過去に測定下肢の膝関節,大腿部の外傷既往がある者とした。
同一の検者1名,助手1名で全ての測定を行った。測定機器はトルクマシンにはBiodex4(Biodex社製),HHDにはMobie(酒井医療社製)を使用し,右下肢の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。測定姿勢は股関節,膝関節屈曲90度の座位とした。トルクマシンの測定では椅子に体幹,骨盤,大腿をベルトで固定し上肢は手すりを把持した。また,アタッチメントの下縁をアキレス腱移行部にあて固定した。HHD法は端座位で体は固定せず上肢は体側に支持し,測定中は体幹を正中位に保ち殿部が挙上しないよう指示した。また,センサベルト下縁を外果下縁から3横指上の下腿前面に下腿軸に垂直にあて,ベルトが床と水平になるように後方支柱に締結した。膝関節中心からセンサベルト中心までの距離を測定し,得られた筋力をトルク換算するために使用した。条件はトルクマシンとHHD法の2条件。1条件につき5秒の最大収縮を60秒の休憩を挟んで2回実施。条件間は10分休憩,測定順はランダムとした。測定中はかけ声をかけ,被験者,検者とも筋力値をみないよう盲検化した。痛みがあったら中止するよう説明した。
データ分析には2回測定の最大値を用い,正規性の検定後,トルクとトルク体重比の2種類について対応のあるt検定,ピアソンの相関分析を行った(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学医学部医倫理委員会の承認を得た。被験者には研究の内容を説明し参加の同意を得た。
【結果】
対象者は15名(男性8名,女性7名),うち測定中膝に痛みを起こした男性1名を除いた14名で分析した。年齢21.4±3.9歳,身長167.6±7.7cm,体重60.0±7.8kgであった。各条件のトルクはトルクマシン171.61±47.12Nm,HHD法115.27±21.25Nmで有意にHHD法が低かった。トルク体重比は,トルクマシン2.86±0.73 Nm/kg,HHD法1.93±0.27Nm/kgで有意にHHD法が低かった。トルクマシンとHHD法の間にはトルク,トルク体重比とも有意な相関が認められなかった。トルク体重比の散布図よりHHD法は2.5Nm/kgを上限に頭打ちになることがわかった。
【考察】
HHD法はトルクマシンと比べトルク,トルク体重比とも有意に低く,両者の間に相関は認められなかった。よって,今回対象にした若い健常男女のように筋力の強い対象者の膝伸展筋力測定では,HHD法での最大筋力測定が困難であることが明らかとなった。上肢を体側に支持するHHD法は体の固定がないため,膝伸展トルクが被験者の上体の重さによるトルク以上だと体が浮き上がってしまい,測定できるトルク体重比が頭打ちになったと考えられる。平澤らの研究のように上肢把持すると体の浮き上がりがある程度防げるため,簡易的なHHD法の妥当性を高める方法としては上肢把持が必要であることが示唆された。しかし,平澤らの研究はHHDの筋力(kg)とトルクマシンのトルク(Nm)の相関分析のみで系統誤差の分析はされていないため,本当に妥当な測定が行えるのか不明である。今後は上肢把持したHHD法の妥当性について相関分析に加え系統誤差の分析を行った上で検討する必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
等尺性膝伸展筋力測定を強い筋力対象者で行う場合,上肢を体側についたHHD法は妥当ではないことが示された。