[1255] 体幹深層筋群の活性化は体幹表層筋群の活動性を減少させるか
キーワード:体幹深層・表層筋群, 慢性腰痛症例, 重量物挙上
【はじめに,目的】第48回日本理学療法学術大会において我々は,体幹深層筋群を活性化させる腹部引き込み運動,いわゆるDraw-inを行った状態での重量物挙上課題において,健常者では外腹斜筋および脊柱起立筋の筋活動量に減少が認められたことを報告した。腹横筋や内腹斜筋といった体幹深層筋群はインナーユニットとして体幹の安定化に寄与することが過去より報告されており,Draw-inによるインナーユニットの活性化が外腹斜筋や脊柱起立筋といったいわゆるアウターユニットに対する努力要求量を減少させた結果であると推察している。また,非特異的慢性腰痛症例においてこのインナーユニットの活動性が低下している一方,アウターユニットの過活動がみられるとの報告もある。アウターユニットの過剰な同時収縮は腰椎にかかる圧迫力を増加させ,腰痛の発症や増悪のリスクとなり得る。本研究の目的は,慢性腰痛症例における体幹深層筋群の活性化が体幹表層筋群の活動性にどのような影響を与えるかについて調査することである。
【方法】対象は,三ヶ月以上続く腰痛を有する慢性腰痛症例8名(22.4±1.8歳,170.9±4.5 cm,60.4±5.7 kg)とした。筋活動の記録にはワイヤレス表面筋電計(日本光電社製)を周波数1000 Hzで使用し,対象とする筋は右側の三角筋前部線維,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋-腹横筋重層部,脊柱起立筋,腰部多裂筋とした。立位姿勢にて重量物(0,5,10%Body weight;BW)を挙上する課題を実施した。挙上運動は通常挙上(Normal挙上)と,内腹斜筋-腹横筋を活性化する腹部引きこみ運動を行った状態での挙上(Draw-in挙上)の2つの異なる条件とした。各条件において挙上時の筋活動量を計測し,band-pass filter(15-500 Hz)を実施した後にroot-mean-square(RMS)にて整流化した。全課題を終えた後に各筋の最大等尺性収縮(MVIC)により筋電データを正規化した。挙上の開始を加速度計にて決定し,挙上開始前後200 ms間の筋電データを解析に使用した。統計解析は各課題の比較に二元配置分散分析(SPSS Advanced Statistics 17,IBM社製)を使用し,post-hoc testにはFisher’s LSDを用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の被験者は事前に研究について十分な説明を受け,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した。本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】外腹斜筋および脊柱起立筋においては重量条件の有意な主効果が認められ,10%BWの筋活動量は0,5%BWより有意に増加していた(P<.05)。また両筋は全ての重量条件においてNormal挙上とDraw-in挙上の条件間で筋活動量に有意差は認められなかった。内腹斜筋-腹横筋重層部においては,重量条件と挙上条件で有意な交互作用が認められ,5,10%BWにおいてNormal挙上と比較してDraw-in挙上で有意に筋活動量が減少していた(P<.05)。腹直筋および腰部多裂筋には有意差は認められなかった。
【考察】本結果より,慢性腰痛症例においては体幹深層筋群の活性化は体幹表層筋群の活動性に影響を与えないことが示された。体幹表層筋群である外腹斜筋と脊柱起立筋は,Normal挙上とDraw-in挙上において筋活動量に違いがなく,かつ重量の増加に伴いその活動性が増加した。さらに,内腹斜筋-腹横筋重層部の筋活動量はDraw-in時に減少していた。慢性腰痛症例は重量物を挙上する際,体幹深層筋群から成るインナーユニットを活性化することができず,重量の増加に伴いアウターユニットの活動性を増加させることで課題を遂行しているものと推察される。これは健常者にみられる結果とは異なるものであり,慢性腰痛症例における体幹深層筋群の機能低下を示唆するものである。臨床においてはアウターユニットの活動量を制限し,インナーユニットを活性化させより安全な脊椎環境にするリハビリテーションプログラムが実施されている。本研究はそのプログラムの施行を支持するものであり,アウターユニットの活動性の増加は腰椎負荷のリスクを増加させる可能性があるため,将来的な腰痛の増悪や繰り返しの発症を避けるためにも,その活動量を制限することは重要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】慢性腰痛症例においては体幹深層筋群の活性化が困難であり,体幹表層筋群の活動性の減少がみられなかった。腰椎負荷増加のリスクを避け,将来的な腰痛増悪を防ぐためにも体幹表層筋群の活動量の制限は重要であり,本所見は非特異的慢性腰痛症例に対するリハビリテーションの一助となるものと考える。
【方法】対象は,三ヶ月以上続く腰痛を有する慢性腰痛症例8名(22.4±1.8歳,170.9±4.5 cm,60.4±5.7 kg)とした。筋活動の記録にはワイヤレス表面筋電計(日本光電社製)を周波数1000 Hzで使用し,対象とする筋は右側の三角筋前部線維,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋-腹横筋重層部,脊柱起立筋,腰部多裂筋とした。立位姿勢にて重量物(0,5,10%Body weight;BW)を挙上する課題を実施した。挙上運動は通常挙上(Normal挙上)と,内腹斜筋-腹横筋を活性化する腹部引きこみ運動を行った状態での挙上(Draw-in挙上)の2つの異なる条件とした。各条件において挙上時の筋活動量を計測し,band-pass filter(15-500 Hz)を実施した後にroot-mean-square(RMS)にて整流化した。全課題を終えた後に各筋の最大等尺性収縮(MVIC)により筋電データを正規化した。挙上の開始を加速度計にて決定し,挙上開始前後200 ms間の筋電データを解析に使用した。統計解析は各課題の比較に二元配置分散分析(SPSS Advanced Statistics 17,IBM社製)を使用し,post-hoc testにはFisher’s LSDを用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の被験者は事前に研究について十分な説明を受け,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した。本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】外腹斜筋および脊柱起立筋においては重量条件の有意な主効果が認められ,10%BWの筋活動量は0,5%BWより有意に増加していた(P<.05)。また両筋は全ての重量条件においてNormal挙上とDraw-in挙上の条件間で筋活動量に有意差は認められなかった。内腹斜筋-腹横筋重層部においては,重量条件と挙上条件で有意な交互作用が認められ,5,10%BWにおいてNormal挙上と比較してDraw-in挙上で有意に筋活動量が減少していた(P<.05)。腹直筋および腰部多裂筋には有意差は認められなかった。
【考察】本結果より,慢性腰痛症例においては体幹深層筋群の活性化は体幹表層筋群の活動性に影響を与えないことが示された。体幹表層筋群である外腹斜筋と脊柱起立筋は,Normal挙上とDraw-in挙上において筋活動量に違いがなく,かつ重量の増加に伴いその活動性が増加した。さらに,内腹斜筋-腹横筋重層部の筋活動量はDraw-in時に減少していた。慢性腰痛症例は重量物を挙上する際,体幹深層筋群から成るインナーユニットを活性化することができず,重量の増加に伴いアウターユニットの活動性を増加させることで課題を遂行しているものと推察される。これは健常者にみられる結果とは異なるものであり,慢性腰痛症例における体幹深層筋群の機能低下を示唆するものである。臨床においてはアウターユニットの活動量を制限し,インナーユニットを活性化させより安全な脊椎環境にするリハビリテーションプログラムが実施されている。本研究はそのプログラムの施行を支持するものであり,アウターユニットの活動性の増加は腰椎負荷のリスクを増加させる可能性があるため,将来的な腰痛の増悪や繰り返しの発症を避けるためにも,その活動量を制限することは重要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】慢性腰痛症例においては体幹深層筋群の活性化が困難であり,体幹表層筋群の活動性の減少がみられなかった。腰椎負荷増加のリスクを避け,将来的な腰痛増悪を防ぐためにも体幹表層筋群の活動量の制限は重要であり,本所見は非特異的慢性腰痛症例に対するリハビリテーションの一助となるものと考える。