[1265] フラクタル解析による足踏み動作中の床反力データの時間変動解析
キーワード:フラクタル解析, 足踏み動作, 床反力
【はじめに,目的】
バイオメカニクスの分野では,人の動作は試行ごとに変動し,人の行う動作の変動は誤差として見なされ,加算平均を用いて除去されることが少なくない。しかし近年,動作の変動性は,動作パターンの時間変化の特徴を示すための重要な要素であることが認識されてきつつある。例えば健常者の歩行中のストライド時間にはフラクタルな性質が存在し,長時間相関を有すことが示されている。これは,ある一歩のストライド時間の変動はそれ以前,またそれ以降の一歩一歩のストライド時間の変動と関連していることを示しており,メトロノームの音などの外的刺激,加齢や神経変性疾患の罹患によってこの性質は変化することが明らかにされている。このように人の動作の変動性についての研究は,主に時空間的パラメータについて検討したものが多く,運動力学的パラメータがどのような時間変化の構造をもつかについて検討された研究は少ない。
そこで本研究は,足踏み動作中の床反力の時間変化の特徴を調べるためにフラクタル解析の一つであるDetrended Fluctuation Analysis(以下,DFA)を用いて,長時間相関の程度と,さらにそれはメトロノームによる時間的な制約によりどのように変化するかを明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人7人(男性4人,女性3人,年齢24.7±3.0歳)であった。課題動作として足踏み動作を,音刺激の無い状態で被験者の感じる快適なリズムで行う条件(以下,条件S)と,メトロノームの音刺激に合わせたリズムで行う条件(以下,条件M)の2条件で行った。メトロノームのテンポは,計測前の練習にて被験者の感じる快適なリズムで足踏み動作を行い決定した。各条件ともデータ計測は13分間行い,少なくとも648歩行周期分の床反力データを取得した。足踏み動作中の床反力データは,床反力計(テック技販社製)2基を用いて取得した。得られたデータを基に,左下肢の各歩行周期のストライド時間,床反力鉛直方向成分(以下,Fz)最大値,Fz積分値,Fz平均値を算出した。さらにMatLab R2012a(MathWorks社製)を使用してDFAを行い,各パラメータのフラクタル変動のスケーリング指標(α)を算出した。また条件S時の床反力データを用いて,信号の順序を無作為化して創出した時系列信号(以下,サロゲートデータ)のαを算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 22.0(IBM社製)を用い,データの正規性を確認した後に,2条件間の比較のために対応のあるt検定を行った。床反力データのαはサロゲートデータのαとの比較も行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,本研究を行うにあたり,本研究を実施した機関の倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,同意を得た後に実施した。
【結果】
ストライド時間のαは条件Sが条件Mと比較して有意に高値を示した(条件S:0.88±0.12,条件M:0.14±0.06,p<0.01)。Fz各パラメータのαは2条件間で有意な差を認めなかった。条件S時のFz各パラメータのα(Fz最大値:0.62±0.06,Fz積分値:0.70±0.12,Fz平均値:0.67±0.11)はサロゲートデータと比較して,いずれも有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】
αはα=0.5の場合,時間変化がランダムであることを示し,0.5<α<1.0の場合,長時間相関を有すことを示す。結果から,足踏み動作中のストライド時間は歩行についての先行研究と同様に長時間相関を有し,条件Mでは長時間相関の性質が失われたことが確認された。一方Fzの各パラメータは,いずれも0.5<α<1.0でサロゲートデータと比較して高値を示し,長時間相関を持つことは確認されたが,条件Mと比較して有意な変化は認められなかった。つまり,一定なテンポの外的刺激により変化するのは時空間的パラメータのみで,床反力データは影響を受けないことが示唆された。
床反力が長時間相関を有すということは,身体重心を制御するために作り出される床反力の変動の様式は,長期的に記憶され制御されていることが示唆された。一方で床反力は身体に外的負荷を与え,その負荷は,関節疾患を有す者では移動をする際に疼痛や病態悪化を招くメカニカルストレスにもなることから,今後関節疾患や疼痛などの要因により床反力の時間変化にどのような影響を及ぼすかを明らかにしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は足踏み動作中の床反力データには意味をもった変動が起きており,その時間変化の構造を捉えることが人の運動パターンを捉えるうえで重要なことであることを示唆したことに理学療法学研究としての意義がある。
バイオメカニクスの分野では,人の動作は試行ごとに変動し,人の行う動作の変動は誤差として見なされ,加算平均を用いて除去されることが少なくない。しかし近年,動作の変動性は,動作パターンの時間変化の特徴を示すための重要な要素であることが認識されてきつつある。例えば健常者の歩行中のストライド時間にはフラクタルな性質が存在し,長時間相関を有すことが示されている。これは,ある一歩のストライド時間の変動はそれ以前,またそれ以降の一歩一歩のストライド時間の変動と関連していることを示しており,メトロノームの音などの外的刺激,加齢や神経変性疾患の罹患によってこの性質は変化することが明らかにされている。このように人の動作の変動性についての研究は,主に時空間的パラメータについて検討したものが多く,運動力学的パラメータがどのような時間変化の構造をもつかについて検討された研究は少ない。
そこで本研究は,足踏み動作中の床反力の時間変化の特徴を調べるためにフラクタル解析の一つであるDetrended Fluctuation Analysis(以下,DFA)を用いて,長時間相関の程度と,さらにそれはメトロノームによる時間的な制約によりどのように変化するかを明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人7人(男性4人,女性3人,年齢24.7±3.0歳)であった。課題動作として足踏み動作を,音刺激の無い状態で被験者の感じる快適なリズムで行う条件(以下,条件S)と,メトロノームの音刺激に合わせたリズムで行う条件(以下,条件M)の2条件で行った。メトロノームのテンポは,計測前の練習にて被験者の感じる快適なリズムで足踏み動作を行い決定した。各条件ともデータ計測は13分間行い,少なくとも648歩行周期分の床反力データを取得した。足踏み動作中の床反力データは,床反力計(テック技販社製)2基を用いて取得した。得られたデータを基に,左下肢の各歩行周期のストライド時間,床反力鉛直方向成分(以下,Fz)最大値,Fz積分値,Fz平均値を算出した。さらにMatLab R2012a(MathWorks社製)を使用してDFAを行い,各パラメータのフラクタル変動のスケーリング指標(α)を算出した。また条件S時の床反力データを用いて,信号の順序を無作為化して創出した時系列信号(以下,サロゲートデータ)のαを算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 22.0(IBM社製)を用い,データの正規性を確認した後に,2条件間の比較のために対応のあるt検定を行った。床反力データのαはサロゲートデータのαとの比較も行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,本研究を行うにあたり,本研究を実施した機関の倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,同意を得た後に実施した。
【結果】
ストライド時間のαは条件Sが条件Mと比較して有意に高値を示した(条件S:0.88±0.12,条件M:0.14±0.06,p<0.01)。Fz各パラメータのαは2条件間で有意な差を認めなかった。条件S時のFz各パラメータのα(Fz最大値:0.62±0.06,Fz積分値:0.70±0.12,Fz平均値:0.67±0.11)はサロゲートデータと比較して,いずれも有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】
αはα=0.5の場合,時間変化がランダムであることを示し,0.5<α<1.0の場合,長時間相関を有すことを示す。結果から,足踏み動作中のストライド時間は歩行についての先行研究と同様に長時間相関を有し,条件Mでは長時間相関の性質が失われたことが確認された。一方Fzの各パラメータは,いずれも0.5<α<1.0でサロゲートデータと比較して高値を示し,長時間相関を持つことは確認されたが,条件Mと比較して有意な変化は認められなかった。つまり,一定なテンポの外的刺激により変化するのは時空間的パラメータのみで,床反力データは影響を受けないことが示唆された。
床反力が長時間相関を有すということは,身体重心を制御するために作り出される床反力の変動の様式は,長期的に記憶され制御されていることが示唆された。一方で床反力は身体に外的負荷を与え,その負荷は,関節疾患を有す者では移動をする際に疼痛や病態悪化を招くメカニカルストレスにもなることから,今後関節疾患や疼痛などの要因により床反力の時間変化にどのような影響を及ぼすかを明らかにしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は足踏み動作中の床反力データには意味をもった変動が起きており,その時間変化の構造を捉えることが人の運動パターンを捉えるうえで重要なことであることを示唆したことに理学療法学研究としての意義がある。