第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節31

Sat. May 31, 2014 4:40 PM - 5:30 PM ポスター会場 (運動器)

座長:森口晃一(恩賜財団済生会八幡総合病院診療技術部リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[1295] 膝蓋大腿関節に限局した変形性膝関節症を呈した症例に対し膝蓋大腿関節置換術(PFA)を施行し経時的に理学療法経過を追った一例

湖東聡1, 須山陽介1, 尾崎尚代1, 及川雄司1, 高木博2 (1.昭和大学藤が丘病院リハビリテーション部, 2.昭和大学藤が丘病院整形外科)

Keywords:変形性膝関節症, 膝蓋大腿関節置換術, 膝蓋大腿関節

【はじめに,目的】
変形性膝関節症の病態も細分化され,人工膝関節置換術の手術方法も多様化してきているため,それぞれの手術の特徴を把握しておく必要がある。近年,膝蓋大腿関節(以下PF関節)に限局した変形性膝関節症(以下膝OA)に対し,膝蓋大腿関節置換術(以下PFA)を手術する症例がみられている。しかし,PF関節に限局した膝OAの症例に対してPFAを施行する症例は稀であり,手術件数も少ないのが現状である。そこで今回,PFAを施行し,経時的に理学療法経過を追った症例について報告する。
【症例紹介】
70歳代後半,女性。身長145cm,体重42kg。診断名は両変形性膝関節症であり,現病歴は手術1年前より右膝蓋骨上部に特に立ち上がり時,歩行時,階段昇降時に疼痛が出現し,徐々に同部位の疼痛が増悪し今回手術目的にて入院した。術前の膝関節の画像所見では,レントゲン上,FTA右172°,左174°であり,膝蓋骨に骨棘形成,PF関節に骨硬化像を認め,MRI上,十字靭帯,側副靭帯,半月板に明らかな損傷はなかった。ROMは右膝屈曲130°/膝伸展-10°,左膝屈曲150°/伸展-10°。MMTは左右ともに屈伸5レベル。右膝蓋骨の可動性は,特に下制方向へ低下していた。右大腿周径は,膝蓋骨直上は30cm,膝蓋骨上縁5cmは32.5cm,膝蓋骨上縁10cmは37cmだった。歩行時の特徴は,主に右立脚期にlateral thrustがみられていた。手術は,Zimmer社製Gender Solutions Patello-Femoral Joint System(以下PFJ)を使用し,展開方法は,人工膝関節全置換術(以下TKA)のMid Vastus approach法と同様で,手術時間は1時間10分,出血量は60cc,皮切部は13cmであった。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に関する内容を説明し患者本人より同意を得た。なお,個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。
【経過】
理学療法プログラムは,術翌日より車椅子乗車開始し,術後(以下PO)3日より関節可動域練習,筋力強化,歩行(全荷重可)練習およびアイシングを開始した。歩行に関してはPO3日より平行棒歩行を開始し,PO4日より歩行器歩行,PO5日より杖歩行に移行した。杖歩行はPO10日で自立し,独歩はPO19日で自立した。PO28日で退院(屋内は独歩,屋外は杖歩行)した。右膝関節ROM(屈曲/伸展<°>),右大腿周径<cm>の経時的変化をPO3日,PO1週,2週,3週,4週の順で示す。ROMにおいては,70/-20,90/-10,95/-5,100/0,120/0。周径においては,膝蓋骨直上は,35,34.5,34,32,31と推移し,膝蓋骨上縁5cmは,38,37,36,34,33と推移し,膝蓋骨上縁10cmは,41,37.5,36.5,36.5,36と推移した。膝関節MMTはPO3日では屈伸ともに2レベルであったが,PO16日で3レベル,PO19日で4レベルとなった。疼痛に関しては,開始時は立ち上がり時,歩行時に皮切部,皮切部周囲,膝関節屈曲ROM時に内側広筋(以下VM)部に出現していたが,退院時は膝関節屈曲最終域で同部位のつっぱり感は残存していたが術前時の疼痛は消失し,ADL上支障をきたしていることはなかった。膝蓋骨の可動性に関しても術前に比べ下制方向への動きの改善がみられた。
【考察】
今回,PF関節に限局した膝OAに対してPFAを施行した症例に対して理学療法を行なった。膝関節に対して皮切部・皮切部周囲のアイシング,膝蓋骨の可動性を向上させていくこと,VMの筋収縮を確実に促して施行していたことが膝関節の可動域,筋力の向上に繋がったと考えている。本症例は術後経過良好で退院となったが,TKAと比較すると低侵襲であり,術後の疼痛が少なかったことが良好であった要因と考えられる(当院における皮切部の長さは,TKAは約20cm)。また,膝関節の構造の著名な破綻が認められなかったことや術前の膝関節の可動域・筋力が比較的良好であったことも膝関節の機能の向上が容易となった理由と考える。周径においては,膝蓋骨直上,膝蓋骨上縁5cmの値がPO2週からPO3週にかけて急激に2cm低下し,これは主に腫脹が軽減したことが要因として考えている。本症例は,より早期に歩行能力の向上は図れたが,歩行能力の向上だけに捉われず,術後の腫脹の程度,膝関節機能の改善程度も確認しながら施行していく必要があると考える。今後PFAの症例で,術後腫脹が残存している場合は膝関節機能向上の妨げとなるため,術後の創部管理をしっかりと行ない,膝関節機能を評価しながら機能の向上を図るために理学療法を展開していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
PF関節に限局した膝OAに対してPFAを施行し経時的に理学療法経過を追った症例報告は見当たらず,今回の経時的な報告は今後PFAの理学療法を施行していく上で1つの指標になると考える。