第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節32

2014年5月31日(土) 16:40 〜 17:30 ポスター会場 (運動器)

座長:加藤新司(医療法人札幌山の上病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[1300] Cheilectomyを施行した強剛母趾に対する術後理学療法の一考察

奥山智啓1, 見田忠幸2, 小野正博2, 服部司2 (1.ひぐち整形外科クリニックリハビリテーション科, 2.秋山整形外科クリニックリハビリテーション科)

キーワード:強剛母趾, 皮膚運動学, テーピング

【はじめに,目的】
強剛母趾は母趾中足趾節(MTP)関節の変形性関節症である。その病態はおもに骨棘の形成などにより,母趾MTP関節伸展時に強い疼痛を生じる疾患である。今回,強剛母趾に対して関節唇切除術(cheilectomy)を施行した後に,歩行時の母趾MTP関節背側部痛が出現した症例の理学療法を経験した。徒手による軟部組織の伸張性・滑走性の改善に加え,母趾MTP関節伸展時の皮膚の動きを誘導するテーピングを併用した結果,良好な成績を得たため経過を踏まえ報告する。
【方法】
対象は50歳代女性である。約1年前から続いていた歩行時の右母趾MTP関節痛が増悪し,歩行困難となったため当院を受診した。強剛母趾の程度はHattrup and Johnson分類のグレードIIであった。手術目的に他院へ紹介され,cheilectomyが施行された。術後2週より当院にて理学療法(週1~2回)を開始し,初診時所見では歩行の足趾離地期に右母趾MTP関節背側部痛(Visual Analogue Scale:VAS 7.0)を認めた。可動域は右母趾MTP関節伸展40°,右母趾MTP関節屈曲15°,右足関節背屈10°であり,右母趾MTP関節伸展強制にて同部の疼痛が再現された。超音波エコー所見にて,母趾背側にある術創部周辺の皮下組織の滑走性は,健側に比べて不良であった。歩容は後足部回外接地であり,下腿外側部に圧痛を認めた。フットプリントでは足趾の足圧中心は母趾側ではなく小趾側にあった。理学療法では,術創部周辺の皮下組織の徒手的な滑走性改善,長母趾伸筋の反復収縮およびストレッチング,足部内在筋群の筋力強化,距骨下関節回内誘導テーピングを施行し,術後4週で右母趾MTP関節伸展60°,右母趾MTP関節屈曲30°,右足関節背屈20°となり,歩行時の同部の疼痛が軽減した(VAS 2.0)。しかし,外出時などの長時間歩行後や床からの立ち上がり時に同部の疼痛が増悪していた(VAS 4.0)。再評価により,右母趾背側にある術創部の皮膚を徒手的につまみ寄せた状態での母趾MTP関節伸展強制にて同部の疼痛が軽減したため,母趾MTP関節伸展時の皮膚の動きを誘導するテーピングを貼付した。母趾MTP関節伸展誘導テーピングは,皮膚運動の原則に基づき伸縮性テープを皮膚運動の方向へ伸長しながら貼付した。方法として,足背部では母趾MTP関節伸展時にできる皮膚の皺を広げるように,MTP関節より近位にある皮膚を近位方向へ,遠位にある皮膚を遠位方向へ誘導した。また,足底部では母趾MTP関節伸展時にできる皮膚の皺を弛緩させるように,MTP関節より近位にある皮膚を遠位方向へ,遠位にある皮膚を近位方向へ誘導した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例には発表の主旨を説明し,同意を得た。
【結果】
母趾MTP関節伸展誘導テーピング貼付後,即座に歩行時痛が消失した(VAS 0)。歩容は後足部回外接地が改善し,フットプリントでは母趾側への荷重が増大した。その後,外出時はテーピングの貼付を指導し,週1回の理学療法を継続した。術後10週にテーピング除去にて1.0km以上の連続歩行が疼痛なく可能となり,日常生活における支障をきたさなくなったため理学療法を終了した。この時点では,エコー画像における術創部周辺の皮下組織の滑走性が改善し,健側とほぼ同様の動態を示した。
【考察】
本症例の疼痛の解釈として,母趾MTP関節背側にある術創部周辺組織の滑走性低下によるmechanical stressが考えられた。これに対して,母趾MTP関節伸展時の皮膚の動きを誘導するテーピングを貼付したことにより,術創部へのmechanical stressが軽減し,疼痛が消失した。その結果,後足部の回外接地が改善し,母趾でのスムースな蹴り出しが可能となり,歩行能力の向上に繋がったと考える。強剛母趾に対する術後理学療法では,術創部周辺組織の滑走性向上と母趾MTP関節伸展での十分な蹴り出しが可能となるための円滑な足部運動軌跡の獲得が重要であると考えられる。その一助として,皮膚運動学に基づくテーピング療法の有効性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本症例は強剛母趾に対する術後理学療法の確立に寄与するものと考える。