[1318] 上腕動脈血流速度を促進させる有効な手指掌握運動の反復回数は何回か?
キーワード:血流, 掌握運動, 健常者
【はじめに,目的】
運動療法の導入として循環促進を目的に四肢末梢の自動運動を実施することがある。掌握運動は上肢の末梢血流の促進の他,頚動脈や脳の血流への影響や透析患者のブラッドアクセス造設術における動静脈瘻の成育に有効であるとされている。血流量は筋収縮強度や時間,運動のテンポ,運動の姿位など運動条件により変化するが,有効な運動条件に言及した報告は少なく,経験的に実施されていることが多いと思われる。
そこで今回,有効な手指掌握運動の反復回数の目安を得ることを目的に,若年健常者における反復回数と上腕動脈の血流速度の関連性を検証した。
【方法】
まず,測定機器の検者内信頼性を確認するため,循環器疾患を有さない健常成人8名を対象に上腕動脈の血流速度を測定した。対象者は男性5名,女性3名,平均年齢は25.8歳(Standard Deviation;SD3.8)であった。前方のテーブルにon elbowとなる安楽な椅子座位をとり,カラードップラー(東芝Power vision 6000(SSA-370A),Probe 7.5MHz)を用いて利き手の上腕動脈の血流速度を5回連続で測定した。
次に,掌握運動の反復回数の影響と運動前後の血流変化を検証するために,循環器疾患を有さない健常成人15人を対象に上腕動脈の血流速度を測定した。対象者は男性9名,女性6名,平均年齢は26.6歳(SD3.4)であった。前方のテーブルにon elbowとなる椅子座位で,電子メトロノーム(YAMAHA ME-55BK)を使用して1秒1回の利き手の掌握運動を5回,20回,50回の3条件で実施した。条件の実施順は対象者によるくじ引きで決定し,条件間の休息は5分とした。血流変化をみるため運動前,運動直後,1分後,2分後,3分後における利き手の上腕動脈の血流速度を,カラードップラー(上記同様)を用いてそれぞれ1回ずつ測定した。全て同一の検者が測定した。
解析にあたって,検者内信頼性についてはIntraclass correlation(ICC)(1,1)およびICC(1,5)を算出した。また,掌握運動の反復回数と測定経過の2要因によって血流速度に差があるかを検証するため,2要因に対応のある2元配置分散分析を用いた。有意であった要因の多重比較にはTukeyの方法を用いた。統計解析はDr.SPSSII for windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿って研究計画を作成し,当院医療倫理委員会の承認を得た(第42号)。対象者には事前に本研究の主旨を説明し書面に同意署名を得た。
【結果】
検者内信頼性を確認するため測定した5回の血流の平均値は1回目0.99m/s(SD0.28),2回目0.91m/s(SD0.20),3回目0.92m/s(SD0.16),4回目0.88m/s(0.16),5回目0.87m/s(SD0.18)であった。ICC(1,1)は0.81(95%Confidence interval(CI)0.60-0.95),ICC(1,5)は0.96(95%CI0.88-0.99)であった。
各条件の血流速度は5回運動前0.80m/s,運動直後0.94m/s,1分後0.84m/s,2分後0.79m/s,3分後0.77m/s,20回運動前0.82m/s,運動直後1.04m/s,1分後0.86m/s,2分後0.83m/s,3分後0.80m/s,50回運動前0.81m/s,運動直後1.08m/s,1分後0.89m/s,2分後0.84m/s,3分後0.80m/s,であった。全条件において運動直後で最も血流速度が速く,順次低下して3分後には運動前と同様に戻るトレンドを示した。2元配置分散分析の結果,反復回数と測定経過の2要因に有意な差が認められた。反復回数と測定経過には交互作用は認められなかった。反復回数の多重比較では5回と20回,および5回と50回で有意な差が認められた。測定経過の多重比較では運動直後と運動直後以外全て,および1分後と3分後で有意な差が認められた。
【考察】
カラードップラーによる上腕動脈血流速度測定はICC(1,1)および(1,5)ともに0.8以上であり,高い検者内信頼性が確認された。
掌握運動5回と20回および50回の条件間では血流速度の有意な差が認められたが,20回と50回では有意な差が認められなかった。違いがなかった背景として,筋収縮時は筋内圧の上昇により末梢血管抵抗も上昇し血流は減少する一方で,筋弛緩時には反対に血流は増加する機械的作用により血流速度は上昇するが,今回は測定していないものの,血流速度を規定する血圧や末梢血管抵抗の変化には限度があったため,一定の反復回数以上では血流速度が一定になると考えられた。また,各条件とも運動後数分で安静時同様の血流速度に戻ったが,今回の運動条件では血流への影響は筋内圧の機械的作用が中心で,神経性の血管収縮作用や代謝性の血管拡張作用の影響が少なかったためと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
若年健常者における上腕動脈血流促進目的の掌握運動の反復回数は,5回より20回または50回で効果的であり,また,20回と50回はほぼ同様の効果であり,反復回数実施の目安となる。
運動療法の導入として循環促進を目的に四肢末梢の自動運動を実施することがある。掌握運動は上肢の末梢血流の促進の他,頚動脈や脳の血流への影響や透析患者のブラッドアクセス造設術における動静脈瘻の成育に有効であるとされている。血流量は筋収縮強度や時間,運動のテンポ,運動の姿位など運動条件により変化するが,有効な運動条件に言及した報告は少なく,経験的に実施されていることが多いと思われる。
そこで今回,有効な手指掌握運動の反復回数の目安を得ることを目的に,若年健常者における反復回数と上腕動脈の血流速度の関連性を検証した。
【方法】
まず,測定機器の検者内信頼性を確認するため,循環器疾患を有さない健常成人8名を対象に上腕動脈の血流速度を測定した。対象者は男性5名,女性3名,平均年齢は25.8歳(Standard Deviation;SD3.8)であった。前方のテーブルにon elbowとなる安楽な椅子座位をとり,カラードップラー(東芝Power vision 6000(SSA-370A),Probe 7.5MHz)を用いて利き手の上腕動脈の血流速度を5回連続で測定した。
次に,掌握運動の反復回数の影響と運動前後の血流変化を検証するために,循環器疾患を有さない健常成人15人を対象に上腕動脈の血流速度を測定した。対象者は男性9名,女性6名,平均年齢は26.6歳(SD3.4)であった。前方のテーブルにon elbowとなる椅子座位で,電子メトロノーム(YAMAHA ME-55BK)を使用して1秒1回の利き手の掌握運動を5回,20回,50回の3条件で実施した。条件の実施順は対象者によるくじ引きで決定し,条件間の休息は5分とした。血流変化をみるため運動前,運動直後,1分後,2分後,3分後における利き手の上腕動脈の血流速度を,カラードップラー(上記同様)を用いてそれぞれ1回ずつ測定した。全て同一の検者が測定した。
解析にあたって,検者内信頼性についてはIntraclass correlation(ICC)(1,1)およびICC(1,5)を算出した。また,掌握運動の反復回数と測定経過の2要因によって血流速度に差があるかを検証するため,2要因に対応のある2元配置分散分析を用いた。有意であった要因の多重比較にはTukeyの方法を用いた。統計解析はDr.SPSSII for windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿って研究計画を作成し,当院医療倫理委員会の承認を得た(第42号)。対象者には事前に本研究の主旨を説明し書面に同意署名を得た。
【結果】
検者内信頼性を確認するため測定した5回の血流の平均値は1回目0.99m/s(SD0.28),2回目0.91m/s(SD0.20),3回目0.92m/s(SD0.16),4回目0.88m/s(0.16),5回目0.87m/s(SD0.18)であった。ICC(1,1)は0.81(95%Confidence interval(CI)0.60-0.95),ICC(1,5)は0.96(95%CI0.88-0.99)であった。
各条件の血流速度は5回運動前0.80m/s,運動直後0.94m/s,1分後0.84m/s,2分後0.79m/s,3分後0.77m/s,20回運動前0.82m/s,運動直後1.04m/s,1分後0.86m/s,2分後0.83m/s,3分後0.80m/s,50回運動前0.81m/s,運動直後1.08m/s,1分後0.89m/s,2分後0.84m/s,3分後0.80m/s,であった。全条件において運動直後で最も血流速度が速く,順次低下して3分後には運動前と同様に戻るトレンドを示した。2元配置分散分析の結果,反復回数と測定経過の2要因に有意な差が認められた。反復回数と測定経過には交互作用は認められなかった。反復回数の多重比較では5回と20回,および5回と50回で有意な差が認められた。測定経過の多重比較では運動直後と運動直後以外全て,および1分後と3分後で有意な差が認められた。
【考察】
カラードップラーによる上腕動脈血流速度測定はICC(1,1)および(1,5)ともに0.8以上であり,高い検者内信頼性が確認された。
掌握運動5回と20回および50回の条件間では血流速度の有意な差が認められたが,20回と50回では有意な差が認められなかった。違いがなかった背景として,筋収縮時は筋内圧の上昇により末梢血管抵抗も上昇し血流は減少する一方で,筋弛緩時には反対に血流は増加する機械的作用により血流速度は上昇するが,今回は測定していないものの,血流速度を規定する血圧や末梢血管抵抗の変化には限度があったため,一定の反復回数以上では血流速度が一定になると考えられた。また,各条件とも運動後数分で安静時同様の血流速度に戻ったが,今回の運動条件では血流への影響は筋内圧の機械的作用が中心で,神経性の血管収縮作用や代謝性の血管拡張作用の影響が少なかったためと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
若年健常者における上腕動脈血流促進目的の掌握運動の反復回数は,5回より20回または50回で効果的であり,また,20回と50回はほぼ同様の効果であり,反復回数実施の目安となる。