第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動生理学1

Sat. May 31, 2014 5:35 PM - 6:25 PM 第4会場 (3F 302)

座長:西田裕介(聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部)

基礎 口述

[1320] 足関節底背屈運動における運動回数の違いが運動後の静脈血流速度に及ぼす影響について

對馬浩志, 櫻庭満, 舘山智格, 高橋美保, 福司悠佳, 中井敬太, 北澤勇気, 平山理恵 (つがる西北五広域連合西北中央病院)

Keywords:足関節底背屈運動, 回数, 大腿静脈血流速度

【はじめに,目的】
足関節底背屈運動には血流速度を増加させ,静脈還流の促進や静脈うっ滞除去効果の向上があると報告されている。しかし,その報告は運動中における血流速度の変化についての検討が多く,運動後の血流速度の変化についての報告は少ない。今回の研究は足関節底背屈運動の運動回数に着目し,運動回数の違いがどのように運動後の静脈血流速度に影響を及ぼすかを検討した。
【方法】
対象は健常男性,平均年齢37.6±11.6歳,平均身長176.2±6.4cm,平均体重66.0±6.8kgであり,過去に血流速度に影響を与える可能性のある既往がない10名とした。測定部位は右大腿静脈とし,静脈血流速度の測定には超音波診断装置(日立アロカ社製Prosound α7)を用いた。測定時の姿勢は安静背臥位,膝関節伸展位とし,足関節を自動運動で底背屈させた。又,運動強度は対象者の最大努力,運動速度は各自の判断とし,運動回数は10回,30回,50回の3通りに設定した。測定の状態は足関節底背屈運動前(安静背臥位にて5分間の臥床後)を測定し,それぞれの運動回数において,運動直後,15秒後,30秒後,1分後,2分後の経過時間毎の血流速度を測定した。また,測定間には5分間の休息を設け,パルスドプラにて波形が安定した状態を視覚的に確認してから次の測定を行った。統計解析は,運動前血流速度と運動後経過した時間毎の血流速度において対応のあるt検定を用いて検討した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象には本研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性とプライバシーの保護について十分な説明を行い,同意を得た後に測定した。
【結果】
運動直後における大腿静脈血流速度は,10回,30回,50回の順に,24.69±7.1cm/sec,25.85±7.5cm/sec,31.27±11.3cm/secとなり,運動前の17.87±5.9cm/secと比較すると,運動回数が多いほど血流速度は増加していた。又,運動回数10回では運動後15秒まで,運動回数30回では運動後30秒まで,運動回数50回では運動後1分までは運動前の血流速度よりも有意に高値を示し(p<0.05),運動回数が多いほど,増加した血流速度が維持される傾向となった。しかし,10回,30回,50回で増加した血流速度は運動後2分程度で,どの回数も運動前と有意差(p<0.05)が認められなかった。
【考察】
運動回数の違いに着目した今回の研究結果では,運動回数が多いほど運動直後の血流速度が増加しており,増加した血流速度は,その後,徐々に減少する傾向が確認された。これは下腿三頭筋の筋ポンプ作用の効果が影響していると推測された。筋ポンプ作用の効果において筋収縮が強いほど,又,貯留血液が多いほど,多くの血液が押し出されるという特徴があることから,運動回数の増加により筋収縮が強くなった為に,より多くの血液が押し出され血流速度が増加したと推測される。増加した血流速度が徐々に減少していった要因は,運動中とは異なり,運動後の筋では血管拡張が起きていた可能性があることや交感神経活動の低下に伴って末梢血管抵抗の減少が持続していた為と推測される。研究結果から運動回数の違いは,筋ポンプ作用の効果の違いになると推測できる。足関節底背屈運動により運動後の血流速度の増加や,増加した血流速度の維持を期待出来るが,その効果は予想よりも短い時間で収束することが1つの発見であった。臨床では制限なく運動を継続する事は不可能であり,様々な条件により足関節底背屈運動が出来ない場合も想定される。VTE予防を目的として足関節底背屈運動を実施する場合,運動回数の違いにより,筋ポンプ作用の効果に違いが生じることを踏まえて,大きく血流速度を増加させる回数で運動頻度を少なく設定する,或いは血流速度の増加が小さく少ない回数で運動頻度を多く設定するなど,足関節底背屈運動による血流速度の変化を予測しながら運動回数を設定する必要性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において静脈還流の停滞や静脈のうっ滞を改善する目的で足関節底背屈運動を行う場合は運動回数が1つの指標になり得る可能性があると示唆された。