[1348] 大腿骨頭壊死症と変形性股関節症における人工股関節全置換術前後の股関節可動域および靴下着脱能力の比較検討
キーワード:人工股関節全置換術, 大腿骨頭壊死症, 術後機能
【目的】我々はこれまで人工股関節全置換術(以下THA)前後の靴下着脱能力に関与する因子の検討を行ってきた。我々の先行研究では対象をTHA症例として大腿骨頭壊死症と変形性股関節症を含めて検討をしてきたが,臨床的に術式は同じでも両者の機能的な術後経過は異なる場合が多いことを経験する。そこで本研究では大腿骨頭壊死症と変形性股関節症におけるTHA前後の股関節可動域および靴下着脱能力を比較検討し,術前後の機能的差異を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は2010年の4月から2013年6月までに本学附属4病院にて大腿骨頭壊死症または変形性股関節症として診断されTHAを施行した407例とし,プロトコル通り経過した片側初回例とし,除外対象を中枢疾患の既往がある症例とした。た。大腿骨頭壊死症例(壊死群)は術前22例,退院時29例,術後2か月時(2M)18例,術後5か月時(5M)17例であり,変形性股関節症例(変股群)は術前151例,退院時180例,2M165例,5M115例であった。評価時期は術前,退院日,2M,5Mとした。調査項目は股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100),手術日から入院中の靴下着脱可能日までの日数(靴下可能日数),入院期間,各時期の端座位開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。靴下着脱可否の条件は端座位で背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし,それ以外を不可能とした。統計処理は,壊死群と変股群における年齢,BMI,入院期間の比較をマン・ホイットニーのU検定で,性別および各時期の靴下着脱の可否の比較をχ二乗検定用いて比較した。また,両群の各時期における股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離および靴下可能日数を各群の正規性および等分散の有無によって対応のないt検定,Welchの補正による2標本t検定もしくはマン・ホイットニーのU検定を使用し比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した。また本研究は当大学倫理審査委員会の承認を受けて施行した。
【結果】
両群の基礎情報(年齢,性別,BMI,入院期間)のうち各時期の年齢においては壊死群が若く,性別においては壊死群は男性の割合が多く,変股群は女性の割合が有意に多かった。また,両群の各時期の機能評価項目に関して術前壊死群/術前変股群,退院時壊死群/退院時変股群,2M壊死群/2M変股群,5M壊死群/5M変股群で示す。両群の股関節可動域(°)に関しては,屈曲は82.9/80.3,87.5/84.0,87.7/84.2,92.0/89.3であった。外旋は33.4/28.8,31.5/30.6,38.6/34.9,42.0/38.3であった。外転は18.6/16.1,22.2/21.1,25.3/21.7,25.0/23.7であった。踵引き寄せ距離(%)に関しては54.8/54.4,63.8/59.0,64.0/64.1,68.8/67.3であった。靴下可能日数は壊死群では19.2日,変股症群では22.7日であった。各時期,各項目に関して有意差は認められなかった。両群の各時期における靴下着脱可否の割合(可能:不可能)は12:8/72:76,21:7/84:87,18:0/97:32,17:0/93:20であり,退院時,2M,5Mに有意差が認められた。
【考察】
本研究により壊死群および変股群におけるTHA前後の股関節可動域および股関節の複合的可動域の指標である踵引き寄せ距離に有意差は認められなかったが,両群における性別,年齢の比較および術後の靴下着脱可否の割合に有意差が認められた。靴下着脱動作は体幹から下肢までの多分節による複合動作である。変股群に関してはhip-spine syndromeに代表されるように股関節疾患と脊椎の可動性やアライメントの関係性が言われている。また,性差や年齢の違いによる体幹および下肢の筋力や体幹可動性への影響も関与している可能性がある。一方,大腿骨頭壊死症の原因はアルコール性,ステロイド性,外傷性などがあり,その原因によっても術前の経過や機能的レベルに違いがあると考えられる。したがって,今後は,靴下着脱に必要な体幹可動性や筋力的な要因,大腿骨頭壊死症の原疾患の違いによる罹患期間や原疾患の治療方法の違い,疼痛の程度等の影響も念頭に入れて研究を進めていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により大腿骨頭壊死症および変形性股関節症患者のTHA前後における機能評価の視点や患者指導の効率化に対する一助となりうると考える。
【方法】対象は2010年の4月から2013年6月までに本学附属4病院にて大腿骨頭壊死症または変形性股関節症として診断されTHAを施行した407例とし,プロトコル通り経過した片側初回例とし,除外対象を中枢疾患の既往がある症例とした。た。大腿骨頭壊死症例(壊死群)は術前22例,退院時29例,術後2か月時(2M)18例,術後5か月時(5M)17例であり,変形性股関節症例(変股群)は術前151例,退院時180例,2M165例,5M115例であった。評価時期は術前,退院日,2M,5Mとした。調査項目は股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100),手術日から入院中の靴下着脱可能日までの日数(靴下可能日数),入院期間,各時期の端座位開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。靴下着脱可否の条件は端座位で背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし,それ以外を不可能とした。統計処理は,壊死群と変股群における年齢,BMI,入院期間の比較をマン・ホイットニーのU検定で,性別および各時期の靴下着脱の可否の比較をχ二乗検定用いて比較した。また,両群の各時期における股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離および靴下可能日数を各群の正規性および等分散の有無によって対応のないt検定,Welchの補正による2標本t検定もしくはマン・ホイットニーのU検定を使用し比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した。また本研究は当大学倫理審査委員会の承認を受けて施行した。
【結果】
両群の基礎情報(年齢,性別,BMI,入院期間)のうち各時期の年齢においては壊死群が若く,性別においては壊死群は男性の割合が多く,変股群は女性の割合が有意に多かった。また,両群の各時期の機能評価項目に関して術前壊死群/術前変股群,退院時壊死群/退院時変股群,2M壊死群/2M変股群,5M壊死群/5M変股群で示す。両群の股関節可動域(°)に関しては,屈曲は82.9/80.3,87.5/84.0,87.7/84.2,92.0/89.3であった。外旋は33.4/28.8,31.5/30.6,38.6/34.9,42.0/38.3であった。外転は18.6/16.1,22.2/21.1,25.3/21.7,25.0/23.7であった。踵引き寄せ距離(%)に関しては54.8/54.4,63.8/59.0,64.0/64.1,68.8/67.3であった。靴下可能日数は壊死群では19.2日,変股症群では22.7日であった。各時期,各項目に関して有意差は認められなかった。両群の各時期における靴下着脱可否の割合(可能:不可能)は12:8/72:76,21:7/84:87,18:0/97:32,17:0/93:20であり,退院時,2M,5Mに有意差が認められた。
【考察】
本研究により壊死群および変股群におけるTHA前後の股関節可動域および股関節の複合的可動域の指標である踵引き寄せ距離に有意差は認められなかったが,両群における性別,年齢の比較および術後の靴下着脱可否の割合に有意差が認められた。靴下着脱動作は体幹から下肢までの多分節による複合動作である。変股群に関してはhip-spine syndromeに代表されるように股関節疾患と脊椎の可動性やアライメントの関係性が言われている。また,性差や年齢の違いによる体幹および下肢の筋力や体幹可動性への影響も関与している可能性がある。一方,大腿骨頭壊死症の原因はアルコール性,ステロイド性,外傷性などがあり,その原因によっても術前の経過や機能的レベルに違いがあると考えられる。したがって,今後は,靴下着脱に必要な体幹可動性や筋力的な要因,大腿骨頭壊死症の原疾患の違いによる罹患期間や原疾患の治療方法の違い,疼痛の程度等の影響も念頭に入れて研究を進めていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により大腿骨頭壊死症および変形性股関節症患者のTHA前後における機能評価の視点や患者指導の効率化に対する一助となりうると考える。